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ハム肉離れに予防・リハビリはどれぐらい効くのか?【論文レビュー】

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ハムストリングの肉離れは、多くのスポーツで最も頻度の高い怪我であり、かつ再発率も高いため非常に厄介な怪我と言えます。
 
そのため、予防トレーニングリハビリを行うことで、怪我の発生・再発を防ぐことがスポーツ現場では重要になってくるわけですが、
はて、この予防やリハビリトレーニングの効果がどれぐらいあるのか?
と言われると、何とも分からないということはないでしょうか。
 
というわけで今回は、
ハムストリングスの肉離れへの予防・リハビリトレーニングの効果についての論文をレビューしていこうと思います。
 
 
 

論文概要

 
今回は、2018年にSports Medicineに発表された、
 
「An evidence-Based Framework for Strengthening Exercises to Prevent Hamstring Injury」
 
という論文をレビューしていきます。
 
 

研究方法

この研究はレビュー論文で、これまで出てきた論文を集めてきたレビュー論文です。
 
一般的なシステマティックレビューでは、対象とする論文のエビデンスの質を評価する過程を踏まなくてはならないのですが、この論文では質の評価は行われていません。
また、メタ解析もされていないため、これまでの知見を総合した統計値などが明らかにされていないので、中間報告というったようなイメージのレビュー論文です。
 
 

対象研究

対象とする研究は、以下のような内容を調査している研究です。
 
  • 筋力によるハム損傷のリスク
  • トレーングによるハム損傷のリスクへの影響
  • トレーニングによるハムの筋活動
  • トレーニングによるハムストリングの構造的な適応
 
 

結果

 
早速、まとめ論文の内容を見ていくと、ざっくりと上のスライドのようなことが述べられていました。
 
 

予防トレーニングの効果

 
まず、予防トレーニングでは、以下のような特徴を含むトレーニングが効果的と報告されました。
  • エキセントリックトレーニング
  • 伸長位でのトレーニング
 
これは、Yo-Yo flywheelでのエキセントリックなレッグカールのトレーニングが、ハムストリング損傷のリスクを1/3程度にするという研究や、
ノルディックハムが予防効果があるという研究などから考察されています。
 
ノルディックハムの研究は以下の記事でも紹介しています。
 
 

リハビリの効果

 
続いて、どのようなリハビリトレーニングが効果的か。についてです。
 
ここでは、リハビリトレーニングの種類によって復帰までの期間の違いについての論文が紹介されています。
 
Asklingが2013年と2014年に発表した論文では、以下の2つのプロトコルを行なっての復帰までに要した期間を比較しました。
  • 従来型のコンセントリック中心のプロトコル(C-protocol)
  • エキセントリック中心のプロトコル(L-protocol)
 
その結果、復帰までの期間はL-protocolの方が半分近く短いと報告しています。
 
しかし、この研究では復帰する基準を自動・全力でのSLRで違和感がないことを復帰の基準としているので、そもそも伸張性の負荷耐性が復帰基準になっていること、
また、ランダム化比較試験にも関わらず、MRIで出てこない肉離れの数名を全員L-protocol側に含めているという点で若干バイアルが掛かっている印象が個人的にはあります。
 
 
 

トレーニングによる筋電図の違い

 
トレーニングの特徴によってハムのどこに効くのか。という話もあります。
 
この研究では、以下のような傾向が報告されています。
  • 股関節伸展によるトレーニング:大腿二頭筋が主に活動
  • 膝関節屈曲によるトレーニング:半腱様筋が主に活動
 
特に、スティッフレッグ・デッドリフトでは、大腿二頭筋が半腱様筋より1.6倍活発に働いており、
逆にノルディックハムでは、ほとんど半腱様筋しか働いていないという結果になっています。
 
 

筋肉の長さによる影響

 
ハムストリングの構造的な特徴が、ハムストリング肉離れのリスクにどう影響しているかという話もあります。
 
プレシーズンにMRIなどの画像診断でハムストチリングの筋束の長さを測定し、その後のシーズンでの怪我のリスクを検討した研究では、
ハムストリング損傷のリスクは、筋束が短い選手の方が高かったと報告されています。
 
スライドのグラフは、赤丸がハムストリングを損傷した人、緑がしなかった選手。
縦軸が筋束の長さ、横軸がノルディックハムの発揮筋力です。
 
左下の「筋束が短い × ノルディックハムが弱い」選手は39%でハムストリング損傷を起こしています。
 
筋束が短いと、同じ仕事量(力 × 距離)を行うのにより大きな力が必要になるため、ハムストリングのリスクが高まると考えられています。
 
 
筋束の長さはトレーニングで変えられる?

 
筋束の長さは、基本的に器質的な部分なので変えようがないのかというと、そういうことはありません。
しかし、逆に短くすることも出来てしまいます。
 
エキセントリックのトレーニングを行うと、筋束が13~16%長くなったのに対して、
コンセントリックのトレーニングを行うと、筋束が6~12%短くなった。
という研究が報告されています。
 
コンセントリックのトレーニングよりエキセントリックのトレーニングの方がハムストリングには重要であるという話は、随分前から言われていますが、
その理由は、こういった構造的な部分でもあるのかもしれません。
 
 

まとめ

 
今回は、ハムストリング肉離れに対する予防・リハビリトレーニングの効果について様々な観点からまとめたレビュー論文をレビューしていきました。
 
エキセントリックのトレーニングが重要というのはかなり言われてきて長くなりましたが、
どういう理由でエキセントリックが効くのかというのは、分かっているようで今だに分かっていない部分は多かったりします。
 
特に、最後の構造的な変化に関しては、今ままでそれほど議論されていなかった部分なのではないかと思います。
ただ、メカニズムが明らかになってくればハムストリング損傷のリスクはもっと防げるかもしれないと個人的には思うので、今後もハムストリングの研究は追っていきたいと思います!
 
 

参考文献

  • Timmins RG, Ruddy JD, Presland J, et al. Architectural changes of the biceps femoris after concentric or eccentric training. Med Sci Sports Exerc. 2015;48(3):499–508.
  • Duhig S. Hamstring Strain Injury: effects of high-speed running, kicking and concentric versus eccentric strength training on injury risk and running recovery. 2017 [doctoral thesis]. Queensland University of Technology, QUT ePrints; 2017.
  • Timmins R, Bourne M, Shield A, et al. Short biceps femoris fascicles and eccentric knee flexor weakness increase the risk of hamstring injury in elite football (soccer): a prospective cohort study. Br J Sports Med. 2015;50(24):1524–35.
   
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