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ハムストリング肉離れとランニングフォームの関係性|エビデンスレビュー

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ハム肉離れリスクとランニングフォームの関係性

 

 

 研究概要

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この研究では、ベルギーのアマチュアサッカー選手を60人集めてきています。

  • 昨シーズンにハムストリングを損傷した選手30名
  • 健全な選手30名

のランニングフォームを3Dモーションキャプチャーを使って解析し、その後1.5年、その選手がハムストリング を損傷したかどうかをフォローアップします。

 

腰痛などを持っている選手、重篤な下肢損傷の既往歴のある選手などは除外されています。

 

ここから、以下の2つの視点でこの2群のランニングフォームを比較していきます。

  • 後向き:ハムストリング損傷がランニングフォームに影響するか。
  • 前向き:ランニングフォームがハムストリング損傷のリスクに影響するか

 

前向きの比較では、バイアスを避けるためコントロール群30名の間で1.5年間のフォローアップ間にハムストリング損傷を起こした選手vs起こさなかった選手で比較していきます。

 

結果①:ハムストリング損傷がランニングフォームに影響するか。

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ハムストリング損傷の既往歴がある選手は、普通の選手に比べてランニングフォームが違うのか。

今回の研究の結果では、、、

影響ありませんでした。

 

これはハムストリング損傷の既往歴とランニングフォームへの影響を完全に否定するものではないので、注意が必要です。

 

結果②:ランニングフォームがハムストリング損傷のリスクに影響するか。

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今回の研究の主な発見はこちらの前向き解析の結果になります。

 

元々ハムストリング損傷を起こしたことのない選手の中で、1.5年間のフォローアップの中でハムストリングを損傷した選手が4名いました。(4名vs25名)

 

その4名のランニングフォームと残りの25名のランニングフォームを比較した結果、以下のような違いが見られました。

  • 骨盤前傾 @Back swing phase
  • 体幹側屈 @Front swing phase (=支持足側への側屈)</strong>

 

これらのランニングフォームはハムストリング損傷のリスクになるえるとこの結果から考えられます。

 

骨盤前傾でp=0.045, 体幹側屈でp=0.028とそれぞれ有意差が見られました。

 

 

個人的見解

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今回の研究では、ハムストリング損傷のリスクファクターとなる要素として、ランニングフォームが取り上げられました。

 

ハムストリング損傷のリスクファクターは、いくつもの研究が試みているものの、なかなか明確にならない難題ですが、

そんな中で、今回の研究はランニングフォームをリスクファクターとする可能性を示唆した点で面白い研究だと思います。

 

ただ、既往歴とランニングフォームとの関係性に関しては、明確にはなりませんでした。

 

ただし、この研究にもいくつかの注意点があります。

まずそもそも論ですが、 この論文が載っている「Gait & Posture」という雑誌の影響力があまり高くない、つまり信頼性にかける点です。

Scimago Jounal & Country Rankingのランキングを参考にすると、Gait & Postureの影響力はSports medicine分野で第38位なので、謎の怪しい雑誌ではないですが、トップレベルの雑誌とは言い難い感じです。

 

また、今回の発見であるランニングフォームがハムストリング損傷のリスクとなるデータはサンプル数が4名のデータなので、

いくら有意差が出ているらと言っても、バイアスの匂いがほんのり香ります。

 

あと、今回はアマチュア選手でしたが、違う対象者ならどうなるのか。

例えば、プロサッカー選手なら?ユース世代なら?

という考慮はする必要があると思います。

 

参考文献

Schuermans, J., Van Tiggelen, D., Palmans, T., Danneels, L., & Witvrouw, E. (2017). Deviating running kinematics and hamstring injury susceptibility in male soccer players: Cause or consequence? Gait and Posture, 57, 270–277. https://doi.org/10.1016/j.gaitpost.2017.06.268

サッカー関連の研究が集う学会「Football Medicine」の発表5選

 
4月26日から4月29日までの4日間、ロンドンはウェンブリーで「Football Medicine」という学会に参加してきました。
 
サッカー関連の研究が集う学会では一番大きな学会で、これに参加したいがために遥々ヨーロッパまで来て、フィジオの勉強をしている言っても過言ではないかもしれません。
(んな訳はありませんが。)
 
参加費5万円(学割込み)も払ってわざわざ学会に来たので、チンと座って聞いてスンと帰るのも何なので、
今回の学会で面白かったことを皆さんに還元していこうと思います。
 

今回の学会のお目当ての紹介

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今回、遥々ロンドンに来たのにも、こんな感じのお目当てがありました。
  1. Roald Bahr, Martin Hagglund, Phil Glasgowを一目かかる
  2. 行き詰まってる感が強い怪我予防の分野について専門家はどう考えているのか
  3. 他に面白い研究している大学と教授を探す
  4. とりあえず学会デビューしとく
  5. ウェンブリー・スタジアム \( ˆoˆ )/
 
若干荒ぶりました。失礼致しました。
Bahr, Hagglund, Glasgowは、これまで論文を読んでいた中で個人的に面白い研究をしているなと思っていた方々で、
その中のBahrとHagglundの2人は、プロスポーツ界の人脈をフルに使ってトップチームのデータを疫学的に集めた研究をしていて、
もう1人のGlasgowは、肉離れのメカニズムを深くより掘り下げていこうという研究で面白い方です。
 
将来的にPhDの進路も考えているので、PhDやるならそりゃ出来るだけレベルが高いところで、しばかれ殴られしながらやっていった方がいいので、早い段階で情報収集しておこうというのが今回の自分個人の目的でした。
 
あとは、最近たるみまくってるので、心もとない英語を使う機会を設けて、未知の世界に自分をぶち込んで、
「なんでも知ってるつもりでも、本当は知らないことがたーくさんあるんだよ。」
っていう刺激をもらうのも一つの目的でした。
 
 

ACL再建後に復帰できるか否かはメンタルの問題?

 
それでは、真面目に皆さんのためになるであろう情報を紹介していこうと思います。
 
まずは、「ACL損傷後に元のスポーツレベルに復帰できるか出来ないかの違いは何から来るのか」という研究。
 
この研究では、ACL-RSIという心理アンケートのスコアを、2年以内に元のレベルに復帰できた選手(黄色)と出来なかった選手(赤色)で比較した結果、
手術後にACL-RSIのスコアが低かった選手は12ヶ月後もスコアが低く、元のレベルに復帰できなかった。
というものです。
 
また面白いことに、ACL-RSIのスコアで元のスポーツレベルに復帰できるかどうかの87%を当てられるということです。
 
もちろん、症状などは同じで心理学的スコアだけが違うので、
心理学的な怖さをうまく取り除けば、元のレベルに復帰できる選手がいるのかもしれないとも言えますね。
 
 
 

足首の内反不安定性は、ほとんどCFLで決まる。

 
こちらの研究は、献体の足首に内反ストレスをかけて行って、ATFLとCFLを切って行く研究。
 
ATFLもCFLも残っている通常状態の抵抗性が黒、
ATFLだけ切れた時の抵抗性が紫
ATFLとCFL両方が切れた時の抵抗性が黄
です。
 
ATFLが切れただけでは、あまり抵抗性には変化がなく、
CFLが切れた時にガクッと抵抗性が低下します。
有意差もATFLが切れた段階ではなく、CFLが切れた後には有意差が見られました。
 
足首捻挫では、ATFLの損傷が最も頻度が高いわけですが、
ATFLだけの捻挫では足首の不安定性には問題はなく、ただ伸ばされて痛いだけ。
ということなのかと個人的には思ったり、思わなかったり、だじばんだり。
 
逆に、慢性的な足首不安定性があるということは、CFLにアプローチしていかないと問題は改善しないということにもなるかなと思いました。
 
あと、この研究できるってカタールどんだけ金あるんだよってのも思いました。
 
 

トレーニング負荷の「Acute:Chronic比」はそれなりに有効

 
近年は、プロサッカーチームの間でGPSがかなり普及していきて、GPSによるトレーニング負荷の管理が主流となってきました。
 
「しかし、どうトレーニング負荷を評価するのか。」という点に関してはまだエビデンスは浅く、各々トレーナーの主観で管理されている部分がかなりあります。
そんな中で、現状で最も有力視されているトレーニング負荷の管理方法に「Acute:Chronic比」というものがあります。
 
これは、
  • Acute負荷:側近1週間程度(3〜10日間)の平均トレーニング負荷
  • Chronic負荷:側近4週間程度(3〜5週間)の平均トレーニング負荷
を比較して、同じなら1.0、Acute負荷がChronic負荷を上回ると1.0よりも大きくなっていきます。
 
このAcute:Chronic比と怪我のリスクを比較したのが上の研究。
ちなみに、これはプレミアリーグのアーセナルFCのパフォーマンス・コンディショニングチームが実際にアーセナルFCの選手に行なっている研究です。
 
これによると、Acute:Chronic比が1.0前後が最も怪我のリスクが低く、1.5を超えたラインから加速度的に怪我のリスクが上昇することが示唆されています。
 
 

しかし、怪我との関係性を説明するには不十分

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Acute:Choronic比が高いと怪我のリスクが高くなるのなら、
「プレシーズンに追い込んでChronic負荷を上げておけば、シーズン中も高い負荷をかけ続けらるし、怪我のリスクを下げられるんじゃないか?」
という疑問に向かっていったのが上の研究。

確かにプレシーズンのトレーニング回数が多い方が怪我のリスクは引くい傾向が見られ、有意差は出たていました。
しかし、このブレ具合ではトレーニング負荷量が損傷リスクを説明できるというには難しいと言える思います。 
 
このAcute:Chronic比の理論が当てはまらない選手に挙げられる特徴に、
  • 有酸素性能力(VO2max)が高い
  • 下肢の筋力が高い
ことも報告されており、これらの要素もトレーニング負荷の管理に考慮されるべきだと考えられています。
 
トレーニング負荷の研究はまだまだ新しく、
  • Acute負荷とChronic負荷の期間をどう設定するべきか
  • 側近1週間のデータ(Acute負荷)は、Chronic負荷の中に含むべきか。
  • トレーニング負荷は、総走行距離のデータを用いればいいのか、高強度運動の距離・頻度などのデータを利用するべきか。
などなど、まだまだエビデンスが固まっていない部分があります。
 
データが集めやすく研究しやすい分野なので、数年後にはこういった細かいところまで突き詰められていくことかと思います。
 
 

ツール・ド・フランスの選手はレース期間中にカーボ・ローディングする

 
ツール・ド・フランスは、23日間で21ステージを2日間の休息日のみで行い続ける自転車の最大のスポーツです。
 
4時間超/日を23日間も自転車を漕ぎ続ける訳なので、身体疲労は半端ないのは言うまでもありませんが、面白いのは、
「ツール・ド・フランス選手は、レース期間中にカーボローディングを行なっている」ということです。
 
これは、ステージ11〜19までの炭水化物摂取量(下の青棒)と体重(上の白棒)のケースレポートです。
第11~13ステージと休息日に、ロー・カーボを行なって、他の日はキープ、
最後の第18,19ステージで、ハイ・カーボを入れるという方法を取っています。
(ロー・カーボと言っても、400~600gは摂取してますが。)
 
このレースでは、第19ステージが正念場だったらしく、
他のステージではそれなりのパフォーマンスで上位を狙える位置をキープしつつ、第19ステージに向けてコンディションを整えるか。
という戦略だったそうです。
 
レース前から駆け引きは始まっているというのは、まさにこういうことなんだなと思いました。
 
 

番外編。

 
こちらは今回泊まったホステスです。
知らない人4人と同じ部屋にとまるというセキュリティーもかけらもない所に初めて泊まってました。
もちろん、貴重品は常に身につけて行動するのがかなりだるかったですね。
 
運良くパクられたのがランチボックスだけだったので、まー安かったし悪くはなかったかなという感じです。
ランチボックスに関しては、洗い物置きに置くのを決めた段階でパクられるのを覚悟したので、ほら言わんこっちゃないという感じです。
(じゃあ、自分で保管しとけってのはチャレンジ精神に欠けます。)
 
ところで、皆さんこの中に人がいるのにお気づきでしょうか。
正面のベッドで実はナイジェリア人が寝ています。
 
奇跡的に、このナイジェリア人は僕と同じ学会に参加するためにナイジェリアから来て、この同じホステルの同じ部屋に当てはめられました。
ちなみに、これでEUに来てから出会ったナイジェリア人は5人目。
他のアフリカの人には1人も合ってないのに、ナイジェリアだけ5人目。
 
次回の学会では、この謎のナイジェリア人引きのメカニズムについてもぜひ解明していただきたいものです。
 
以上です。

スポーツマッサージの血圧への効果|エビデンス・論文・高血圧

 
 
日本人も外国人も。
スポーツ選手もサラリーマンも。
若いも老いも。
 
みんなが大好きなマッサージ
 
マッサージをする側、またされる側の主観的な感覚では、かなり効果的なイメージがあるマッサージですが、
どういうメカニズムで効いているのか、エビデンス的にはイマイチはっきりしていないというのが現状です。
 
ゲート理論やら、ホルモンが云々理論と色々考えられてはいますが、
どれが本当のところなのかはイマイチはっきりしていません。
 
ですが、マッサージが確かに効いていることは確かで、
運動後の疲労感・筋損傷に最も効果的な治療はマッサージだ!
というシステマティックレビューも2018年に出ています。
 
この論文では、冷水浴、交代浴、コンプレッションウェア、ストレッチなどの効果とも比較していてなかなか面白いので、是非とも一度目を通してみてください。↓
 
 
自分も以下の記事でもまとめています。
 
というわけでは、
マッサージの血圧に対するエビデンスについて
やっていきます!
 
 

論文概要

 
今回は、International Journal of Preventive Medicineに2013年に発表された、
「Durability of Effect of Massage Therapy on Blood Pressure」
という論文を紹介していきます。
 
ちなみに、この論文はオープンソースで、以下のリンクから誰でも読むことができます。
(なぜかPDFは用意されていないので、保存できないのが残念ですが。)
 
 

研究デザイン

この研究では、血圧が正常高値の女性を対象にしています。
 
50名の血圧正常高値の女性をランダムに25名ずつ、研究群と対照群に分類して、
研究群は、10~15分のマッサージを週3回の頻度で10回を受け、
研究群は、同じ環境で週3回で10回、10〜15分安静に過ごします。
 
両群ともに、1回目のセッション前と10回目のセッション後に血圧を測定し、加えて10回目のセッションの72時間後にも測定します。
 
 

Swedish Massage とは?

 
この研究で行われた「Swedish Massage」というマッサージですが、
タイ式マッサージ的な、スウェーデンのご当地マッサージ的なものかと思われた人もいるかもしれませんが、
いわゆるスポーツマッサージのことで、全世界で最も一般的に利用されているマッサージです。
 
故に、研究で使われるマッサージは多くがこのSwedish Massageです。
 
ただ単に、スウェーデンの人が発展に寄与したということからこう呼ばれているようです。
 
手法は、軽擦法、強擦法、揉捏法、打法、振動法がメインとされているので、
日本でよくみられるスポーツマッサージもこのSwedish Massageと同じと言って良いと思います。
(もちろん、筋膜リリースのような全く別の徒手療法ではこの研究は当てはまりません。)
 
 

結果

 
それでは早速、結果を見ていくわけですが、
左の図2つが、血圧のグラフです。青線が実験群赤線が対照群です。
(Pre=マッサージ・安静前、Post=マッサージ・安静後、72h=10回目の72時間後)
 
Preの段階ではもちろん両群に差はなく、血圧は共に130/82 [mmHg]ぐらいの、ズバリ正常高値になっているわけですが、
その後、
安静にしただけの対照群(赤線)は、何も変化が起こっていないのに対して、
マッサージを受けた実験群(青線)では、血圧が正常値に低下してます。
また、その効果は10回治療を行なった後の3日間も持続していた。
 
という研究結果でした。
 
 

統計的有意差

 
統計的有意差に関しては、右の縦に並ぶ2つの表で示しています。
「independent t」というのが、実験群 vs 対照群 の比較
「Paired t」というのが、1回目 vs 10回目 の比較です。
 
10回目のセッションの後に、対照群に比べて実験群の血圧が有意に低く
1回目のセッションと10回目のセッションを比較すると、研究群でのみ有意な低下が見れれています。
(スライドにはスペースの関係で収縮期血圧のみが貼ってありますが、拡張期血圧も同じ統計結果でした。)
 
また、10回目のセッションの72時間後で、研究群 vs 対照群 で比較すると、
収縮期血圧・拡張期血圧共に、研究群の方が有意に低い結果でした。
 
 

まとめ

 
というわけで、以上が今回の論文レビューでした。
 
今回の研究によると、マッサージが血圧を下げるという効果が示されたわけですが、
注意点として、今回の研究対象は「血圧が正常高値の女性が対象」ということです。
 
女性と男性の違いがマッサージの効果に差を生む可能性は、あまり気にしなくて良いかもしれませんが、
血圧が正常高値であることは留意する必要があると思います。
 
また、マッサージの研究はブラインドが難しいのでどうしてもプラセボ効果が入ってきてしまいます。
ダブルブラインドは間違いなく無理ですし、
シングルブラインドにしても、被験者の何割かは多分気づくので、
これは「マッサージ研究の宿命」と、この研究の中でも書かれていました。
 
まーけど、個人的にはプラセボ効果をいかに出して、内分泌系を如何にかき乱すかもマッサージの醍醐味だと思っているので、それで良い気もしてます。
 
 

マッサージは血圧に直接的に働くのか、間接的に働くのか。

 
今回の研究では、マッサージを行うことで血圧が確かに下がることが示されたわけですが、
さて、これは直截的な効果なのか、間接的な影響なのか。
というのが、自分は個人的に疑問に思います。
 
筋肉・血管に直接刺激を加えることによる効果なのか、
身体への刺激が圧受容器で受け取られて、迷走神経に届いて、ホルモン等に影響を及ぼして血圧を下げているのか、
またこの両方もだとしたら、どっちがより重要なマッサージの効果なのか。
と、疑問が疑問を呼ぶあれになります。
(生理学あたりにハマっていくと、知れば知るほど訳わからなくなるあれです。誰か命名してください。笑)
 
マッサージは、これ以外の研究でコルチゾールの減少、ノルアドレナリンの減少、セロトニンの上昇、迷走神経の活性化などの効果もあると示唆されています。
現状ではそうだと言い切れるほど確かなエビデンスではないという所ですが、示唆は確かにされています。
 
マッサージが筋肉の構造等を機械的に変えるというのは、少なくともこのSwedish Massageでは否定され気味なので、となると、生理学的な影響がメインになるわけです。
もしホルモンへの影響がより大きいのなら、
運動による一時的な影響をマッサージによって抑制することは、はて可能なのか?
 
じゃあ、無理なんじゃないかと。そう思うお年頃な訳です。
 
ホルモンの分泌具合がホメオスタシスから若干外れている"血圧正常高値な人"に効果があっても、
正常な人にマッサージを行って、ホメオスタシスから外れていくように影響が出るのかと言うと、そうじゃない気がします。
まー、一丁前の学者でも誰でもない自分が捻くり考えたところで、なんの意見にもならないのでここらでやめておきます。
 
次回はホルモンへの影響をやっていきたいと思います!
 
 

参考文献

筋肉の代謝障害|筋痙攣、DOMS、マッカードル病、CPT欠損症

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皆さんどうもこんにちは。

 

スポーツをしてる以上筋肉に高い負荷がかかってしまうことは避けられません。

 

またそれによって足が釣ったり筋肉痛が起こってしまうことも同じく避けられません。

足がつるクランプや筋肉痛といった筋肉のトラブルは非常に一般的に起こるためにかなりの頻度で対応していかなくてはいけません。

 

国際サッカー連盟であるFIFAは、FIFAディプロマというオンラインコースを行っており、

そこでは、サッカーにおけるありとあらゆる症状に対するトレーナーの対応ガイドラインが学べるようになっています。

 

というわけで今回は、

FIFAのガイドラインに沿って、筋肉の痛みの原因とその対処法について解説していきます。

 

注意。

ここでは肉離れなどの怪我以外の原因で起こる筋肉の痛みについて解説していきます。

 

 

 

筋痙攣(クランプ)の概要

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筋痙攣は一般的に足がつった状態です。

英語ではMuscle crampsと言い、ここではクランプと呼びます。

 

よくご存知だと思いますが、クランプはいつも以上の負荷が筋肉にかかったことによって起こります。

練習よりも試合で起こりやすい傾向があるのはそのためです。

 

クランプが起こる主な原因には遺伝的要因や年齢巾広などが言われていますがエビデンス的にはまだはっきりとしないというのが現状です。

 

水分補給や炭水化物の摂取によって予防効果が認められることから電解質のアンバランスが原因だと考えられていましたが、
電解質のアンバランスが直接的な原因になるというエビデンスは少く、現状考えにくいと言われています。

 

また、 腓腹筋、ハムストリング、大腿四頭筋などの二関節筋で主に起こると言われています。



筋痙攣(クランプ)の診断・対応・予防

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筋痙攣(クランプ)の診断

クランプの診断に関しては、 FIFA のガイドラインにも特に細かくは載っていません。

というのもクランプは、選手の状態を見て明らかに診断可能であろうということでしょう。



筋痙攣(クランプ)の対応

クランプの対応は基本的には、速やかにつっている筋肉のストレッチを行うということです。

 

またこの時に、拮抗筋の収縮を加えることによって相反抑制を利用することも効果的だとされています。

 

しかし一度なってしまったクランプに対応する事は難しく基本的には交代する必要がある、という風にされています。



筋痙攣(クランプ)の予防

クランプが一度なってしまうと対応が難しいことを考えると、クランプへの対策は予防が生命線となります。

 

対応方法は主に三つです。

  • 試合と同じ負荷でトレーニングを行う。
  • 試合中こまめにパッシブストレッチを行う。
  • 炭水化物の補給

 

炭水化物の補給は、電解質のアンバランスを防ぐ意味での効果はエビデンスでは肯定されていませんが、筋疲労の軽減による影響は示唆されており、

このガイドラインでも、 積極的に摂取することが勧められています。

 

遅発性筋痛の概要

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遅発性筋痛とは、いわゆる筋肉痛のことです。

正式名では遅発性筋痛または  DOMS といます。

 

遅発性筋痛は、主に12時間後に痛みが表れ、1日から2日後にピークを迎えます。

しかしこれは年齢やトレーニングの負荷と量によってかなり変わります。

 

基本的にはエキセントリック収縮や慣れないエクササイズを行うことによって起こりやすいとされています。

 

ですがこれもクランプと同じく、エビデンスはあまり整っていないという印象があります。



遅発性筋痛の診断・対応・予防

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遅発性筋痛の診断

遅発性筋痛は肉離れとの診断区別が重要です。

 

遅発性筋痛の症状は疼痛、圧痛、腫脹・肥大、柔軟性・筋力の低下など肉離れと似たような症状がありますか、

遅発性筋痛では筋組織の実の損傷がため数日程度で回復しますが、肉離れの場合は筋膜も損傷しているため最低でも2週間程度の期間がかかります。

 

遅発性筋痛の場合は、基本的にはドクターなどの詳細な診断はもちろん必要ありません。

 

CKは有用か。否か。

筋肉のダメージの指標となるクレアチンキナーゼは研究分野でもかなり重宝されており、遅発性筋痛の程度を測るのにも、よく使われます。

しかし、しっかりと条件を整える必要があり、スポーツ現場で実用的に使うことは難しいのではないかとされています。



遅発性筋痛の対応

遅発性筋痛の対応は基本的には痛みへの対処療法となります。

主にマッサージやストレッチが効果的と考えられています。

 

アイスバスなどによるアイシングは現場で長らく使われていますが、

FIFAはこれを肯定するエビデンスは少ないとしています。

 

ですが、2018年に発表された運動後の疲労回復に関するシステマティックレビューでは、 マッサージが最も効果が高く、 アイシングも疲労回復に効果的であるという研究結果が出ています。

一方そこでは、ストレッチによる疲労回復効果は否定されています。

 

これについては以下の記事をどうぞ。



医学的原因による筋痛の概要

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クランプや遅発性筋痛以外にも突発的に筋肉に痛みが出る症状はあります。

これはまとめて、Muscle pain、日本語に訳すと筋痛と定義しています。

 

ここで言う筋痛とは、代謝的障害や自己免疫状態、神経的状態などの医学的な状況における筋活動の障害とそれによる筋肉の痛み定義されています。

 

筋痛は、遺伝的な原因が多いため本来持っていた疾患があるタイミングで現れたという形が多く、突発的に起こるクランプや遅発性筋痛などに比べると発症率は低いですが、

サッカーの現場において大いに起こり得て、対応しなくてはならない障害です。

 

FIFA のガイドラインではマッカードル病とカルニチンパルミトイル基移転酵素欠損症の2つが挙げられています。



マッカードル病とCPT欠損症の概要

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マッカードル病

マッカードル病はグリコーゲン代謝がうまくできないことによる筋活動の障害と筋肉の痛みが起こる病気です。

 

メカニズムとしては、

筋肉に取り込めたグリコーゲンの最初の反応であるグリコーゲン→グリコース-1リン酸の反応を触媒するグリコーゲンホスホリラーゼが欠損することによって起こります。



マッカードル病の症状

マッカードル病では、クランプや遅発性筋痛と違いトレーニング開始後すぐにクランプや筋肉の痛みが現れるのが特徴的です。

 

他には運動を終えた後にsecond-wind phenomenon と言う現象が起こることが挙げられます。



Second-wind phenomenon

セカンドウィンド phenomenon とは、運動後にランニングハイのような疲労を感じない状態が起こることです。

 

これが起こる原因はあまりはっきりとされていませんが、マッカードル病において起こるメカニズムとしては、エネルギー需要の低下によって脂質の供給が間に合うようになったことが考えられています。



カルニチンパルミトイル基転移酵素欠損症の概要

マッカードル病がグリコーゲン代謝の障害であったに対して、 CPT 欠損症は脂質代謝の障害です。

 

メカニズムとしては、

長鎖脂肪酸を細胞内に取り込む際に必要な アシルカルチニンの合成ができなくなることにより、長鎖脂肪酸をエネルギー利用できなくなることが原因です。

しかし多くの中鎖脂肪酸や短鎖脂肪酸は、自身で細胞膜を通過できるためエネルギー利用することが可能です。



 CPT 欠損症の症状

CPT 欠損症は主にトレーニング開始から30分後程度で起こります。

 

これもクランプや筋肉痛に比べると早い段階で症状が現れることになりますが、

マッカードル病とは違い、リコーゲン代謝によってエネルギー供給ができている間はあまり症状が起きません。

 

また、運動を止めても同じく脂質代謝によってエネルギーが利用できないため、症状が続きます。



医学的原因による筋痛の診断・対応

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筋痛の診断はまず選手の問診を行うことが重要です。

 

突発的に起こるものではないので、疼痛の場所という発言を明確にし発症した原因を明らかにすることが重要です。

 

またミオグロビン尿というコーラ色の尿が出ていないか、

遺伝的な要因も考えられるため本人や家族の既往歴を聞くことも重要です。

 

医学的な原因による筋痛の診断にはForearm ischemic testが使われます。

これは、前腕の筋収縮の前後での血液的指標を採取して、代謝障害を検査するテストです。

また MRI によって診断可能な症状もあります。



医学的原因による筋痛の対応

緊急の対応としては、基本的には徐々に運動強度を上げていき対応可能な運動負荷の対応を上げていくことになります。

 

ガイドラインでは重症の場合は、神経外科を利用することが勧められています。



まとめ

以上がスポーツ現場で起こる筋肉の痛みの種類と対応でした。

 

目新しい話はなかったかもしれません。

というのも、クランプや筋肉痛などの一般的なことですが、 明確に代謝的メカニズムが分かっているわけではないので、

その対応に関してもまだ不透明なところが多いという印象です。

 

ですが基本的に、筋疲労を防ぐことが直接的または間接的に影響してくることは確かで、

そのためにはマッサージや炭水化物の補給、アイシングやストレッチなどの方法を用いることは効果的だと考えられます。

 

以上です。



ハム肉離れに予防・リハビリはどれぐらい効くのか?【論文レビュー】

 

 
ハムストリングの肉離れは、多くのスポーツで最も頻度の高い怪我であり、かつ再発率も高いため非常に厄介な怪我と言えます。
 
そのため、予防トレーニングリハビリを行うことで、怪我の発生・再発を防ぐことがスポーツ現場では重要になってくるわけですが、
はて、この予防やリハビリトレーニングの効果がどれぐらいあるのか?
と言われると、何とも分からないということはないでしょうか。
 
というわけで今回は、
ハムストリングスの肉離れへの予防・リハビリトレーニングの効果についての論文をレビューしていこうと思います。
 
 
 

論文概要

 
今回は、2018年にSports Medicineに発表された、
 
「An evidence-Based Framework for Strengthening Exercises to Prevent Hamstring Injury」
 
という論文をレビューしていきます。
 
 

研究方法

この研究はレビュー論文で、これまで出てきた論文を集めてきたレビュー論文です。
 
一般的なシステマティックレビューでは、対象とする論文のエビデンスの質を評価する過程を踏まなくてはならないのですが、この論文では質の評価は行われていません。
また、メタ解析もされていないため、これまでの知見を総合した統計値などが明らかにされていないので、中間報告というったようなイメージのレビュー論文です。
 
 

対象研究

対象とする研究は、以下のような内容を調査している研究です。
 
  • 筋力によるハム損傷のリスク
  • トレーングによるハム損傷のリスクへの影響
  • トレーニングによるハムの筋活動
  • トレーニングによるハムストリングの構造的な適応
 
 

結果

 
早速、まとめ論文の内容を見ていくと、ざっくりと上のスライドのようなことが述べられていました。
 
 

予防トレーニングの効果

 
まず、予防トレーニングでは、以下のような特徴を含むトレーニングが効果的と報告されました。
  • エキセントリックトレーニング
  • 伸長位でのトレーニング
 
これは、Yo-Yo flywheelでのエキセントリックなレッグカールのトレーニングが、ハムストリング損傷のリスクを1/3程度にするという研究や、
ノルディックハムが予防効果があるという研究などから考察されています。
 
ノルディックハムの研究は以下の記事でも紹介しています。
 
 

リハビリの効果

 
続いて、どのようなリハビリトレーニングが効果的か。についてです。
 
ここでは、リハビリトレーニングの種類によって復帰までの期間の違いについての論文が紹介されています。
 
Asklingが2013年と2014年に発表した論文では、以下の2つのプロトコルを行なっての復帰までに要した期間を比較しました。
  • 従来型のコンセントリック中心のプロトコル(C-protocol)
  • エキセントリック中心のプロトコル(L-protocol)
 
その結果、復帰までの期間はL-protocolの方が半分近く短いと報告しています。
 
しかし、この研究では復帰する基準を自動・全力でのSLRで違和感がないことを復帰の基準としているので、そもそも伸張性の負荷耐性が復帰基準になっていること、
また、ランダム化比較試験にも関わらず、MRIで出てこない肉離れの数名を全員L-protocol側に含めているという点で若干バイアルが掛かっている印象が個人的にはあります。
 
 
 

トレーニングによる筋電図の違い

 
トレーニングの特徴によってハムのどこに効くのか。という話もあります。
 
この研究では、以下のような傾向が報告されています。
  • 股関節伸展によるトレーニング:大腿二頭筋が主に活動
  • 膝関節屈曲によるトレーニング:半腱様筋が主に活動
 
特に、スティッフレッグ・デッドリフトでは、大腿二頭筋が半腱様筋より1.6倍活発に働いており、
逆にノルディックハムでは、ほとんど半腱様筋しか働いていないという結果になっています。
 
 

筋肉の長さによる影響

 
ハムストリングの構造的な特徴が、ハムストリング肉離れのリスクにどう影響しているかという話もあります。
 
プレシーズンにMRIなどの画像診断でハムストチリングの筋束の長さを測定し、その後のシーズンでの怪我のリスクを検討した研究では、
ハムストリング損傷のリスクは、筋束が短い選手の方が高かったと報告されています。
 
スライドのグラフは、赤丸がハムストリングを損傷した人、緑がしなかった選手。
縦軸が筋束の長さ、横軸がノルディックハムの発揮筋力です。
 
左下の「筋束が短い × ノルディックハムが弱い」選手は39%でハムストリング損傷を起こしています。
 
筋束が短いと、同じ仕事量(力 × 距離)を行うのにより大きな力が必要になるため、ハムストリングのリスクが高まると考えられています。
 
 
筋束の長さはトレーニングで変えられる?

 
筋束の長さは、基本的に器質的な部分なので変えようがないのかというと、そういうことはありません。
しかし、逆に短くすることも出来てしまいます。
 
エキセントリックのトレーニングを行うと、筋束が13~16%長くなったのに対して、
コンセントリックのトレーニングを行うと、筋束が6~12%短くなった。
という研究が報告されています。
 
コンセントリックのトレーニングよりエキセントリックのトレーニングの方がハムストリングには重要であるという話は、随分前から言われていますが、
その理由は、こういった構造的な部分でもあるのかもしれません。
 
 

まとめ

 
今回は、ハムストリング肉離れに対する予防・リハビリトレーニングの効果について様々な観点からまとめたレビュー論文をレビューしていきました。
 
エキセントリックのトレーニングが重要というのはかなり言われてきて長くなりましたが、
どういう理由でエキセントリックが効くのかというのは、分かっているようで今だに分かっていない部分は多かったりします。
 
特に、最後の構造的な変化に関しては、今ままでそれほど議論されていなかった部分なのではないかと思います。
ただ、メカニズムが明らかになってくればハムストリング損傷のリスクはもっと防げるかもしれないと個人的には思うので、今後もハムストリングの研究は追っていきたいと思います!
 
 

参考文献

  • Timmins RG, Ruddy JD, Presland J, et al. Architectural changes of the biceps femoris after concentric or eccentric training. Med Sci Sports Exerc. 2015;48(3):499–508.
  • Duhig S. Hamstring Strain Injury: effects of high-speed running, kicking and concentric versus eccentric strength training on injury risk and running recovery. 2017 [doctoral thesis]. Queensland University of Technology, QUT ePrints; 2017.
  • Timmins R, Bourne M, Shield A, et al. Short biceps femoris fascicles and eccentric knee flexor weakness increase the risk of hamstring injury in elite football (soccer): a prospective cohort study. Br J Sports Med. 2015;50(24):1524–35.
   

サッカートップチームでのトレーニング負荷の管理についての調査

 
近年は、トレーニング科学GPS などのテクノロジーの発展によってトレーニング負荷の管理がかなり正確にできるようになってきました。
 
とは言ったものの、 GPSなどの機械が多くのチームであるわけではないというのは、依然変わっていない部分だと思います。
 
では、現状ではどれぐらいのレベルのチームがトレーニング管理として GPS などといった新しいテクノロジーを利用しているのでしょうか。
 
というわけで今回は、
トレーニング負荷の管理の現状についての論文をレビューしていきます。
 
 
 

研究概要

 
今回の研究では、イングランドのトップサッカーチームを対象にアンケートを行いトレーニング負荷をどのように管理してるかについてアンケートを用いて調査しています。
ここで言うトップサッカーチームとは、プロクラブやその下部組織などのエリートサッカー選手が所属するようなチームを意味します。
これによって、現場のトレーニング負荷の管理方法が現状どのようになってるのかを調査しようという論文でございます。
 
 

トレーニング負荷の管理方法

 
それでは早速早速見ていきましょう。
 
このグラフは、トレーニング負荷の管理方法がどういった方法で用いられているのかってことを表したグラフです。
 
項目は左から、 GPS、心拍数、血液指標、選手の主観的強度(RPE)、マネージャーの主観、コーチの主観、医療従事者の主観、フィットネスコーチの主観、その他です。
縦軸は、その方法を使っていたチームの割合を示しています。
また黒いバーはコーチ又は監督が管理しているチームの結果、 白いバーはトレーナー管理してるチームの結果を表しています。
 
結果としては、
コーチの主観によって管理しているチームが最も多く、続いてGPSやRPEによって管理しているチームが多いという結果でした。
 
コーチや監督がトレーニング負荷を管理しているチームでは、トップレベルのチームがあっても、多くのチームでコーチの主観によって評価されているようです。
 
一方で、トレーナーがいるようなチームでは GPS や心拍数のなどといった客観的指標を用いてトレーニング強度を管理しているということがわかります。
 
つまりは、トップレベルのチームであっても専属トレーナーがつけられないチームでは、客観的な装置を用いたトレーニング負荷の管理ってことは現状として行われていないということがわかります。
 
 

トレーニング負荷管理の目的

 
続いてトレーニング負荷の管理はどういった目的で行われてるのかという調査も行われました。
 
その結果、多くのチームで怪我の抑制パフォーマンスやフィットネスの強化ということを目的に行われていました。
 
ここで興味深い点としては、
コーチや監督トレーニング負荷の管理をが行っている場合は怪我の抑制を目的にしている割合が若干高く、
トレーナーが管理してる場合はフィットネスな強化を目的に行っている場合が多いという点です。
 
実際にトレーニング負荷を管理することによって怪我の発生を防ぐ可能性を示唆している論文はいくつか出ていますが、
トレーニング負荷のコントロールによって怪我の発生を防ぐことができるかは、研究者でも意見が分かれています。
 
トレーナーとしては フィットネスの強化を目的としている方が考えやすいてことは考えられます。
 
 

現場が感じる重要性は?

 
最後に、トレーニング負荷の完了となってるチームのスタッフがどれほどトレーニング負荷の管理の有用性を感じているか。という調査のされています。
 
その結果では、スタッフの89.1%が有用性を感じていると報告がされています。
 
これが多いのか少ないのかってことは何とも言えないところですが、監督やコーチよりトレーナーの方が有用性を感じているということは、
出てきたデータをどう使うのかが現状としてまだまだはっきりされない。
というところからのじゃないかなと個人的に思います。
 
実際問題、 GPS の精度は近年やっと数メートル単位での測定ができるようになったばかりで、現場で使われてるような GPS では、そのレベルでの正確な測定ができないことは現状の問題として挙げられると思います。
 
これに関してはこれからのテクノロジーの進歩に期待して行くしかないというところだと思います。
 
 

まとめ

 
以上がトレーニング負荷の管理についての現状をまとめた論文レビューでした。
 
主な目的としては、怪我の予防パフォーマンスアップを目的にトレーニング負荷の管理が行われており、
トップレベルのチームの約22%程度では GPS などでの主観的な測定が導入されているようです。
また、スタッフの約89%がトレーニング負荷の管理が有用であるという風に感じているという結果も出ていました。
 
トレーニング負荷を測定して出てきたデータをどう扱うのかっていうのは、エビデンスとして固まっている部分ではないので、各トレーナーの経験や主観などによって判断していくしかないのが現状だと思います。
 
しかし、こういったテクノロジーは今後どんどん進化していくと予想されるので、今後のエビデンスの発展にも注目していきたいところです。
 
以上です!
 
 
 

参考文献

  • Weston, M. (2018). Training load monitoring in elite English soccer: a comparison of practices and perceptions between coaches and practitioners. Science and Medicine in Football, 2(3), 1–9. https://doi.org/10.1080/24733938.2018.1427883
 
 

アクティブリカバリーは翌日の疲労感に悪影響を及ぼす

 
トレーニング後のケアとしてアクティブリカバリーは非常によく使われる方法だと思います
試合の翌日などは軽いジョギングを行って、コンディショニングするというのもよく見られる光景だと思います。
 
ですがアクティブリカバリーの効果に関してはこれまで長いで意見が分かれていました。
 
様々な治療的介入を比較した2018年に出たばかりのシステマティックレビューでは、
アクティブリカバリーはトレーニングの24時間後以降は有意な効果見られませんでした。
 
その記事のレビューはこちらから。
 
これに続いて、アクティブリカバリーだけに絞ったまとめ論文も報告されました。
 
というわけで今回は、
アクティブリカバリーの効果についての論文をレビューして行きます!
 
 
 

論文概要

 
今回は、2018年にSports Medicineに投稿された、
「Do We Need a Cool-Down After Exercise? A Narrative Review of the Psychophysiological Effects and the Effects on Performance, Injuries and the Long-Term Adaptive Response.」
 
という論文をレビューしていきます。
 
 

研究デザイン

この論文は、アクティブリカバリーとパッシブリカバリーの効果比較した研究をまとめ論文です。
 
システマティックレビューと主な方法は同じですが、エビデンスの量が少ないため論文の質を評価するなどの方法は行われていません。
 
そのため、システマティックレビューと比べるとエビデンスレベルは下がります。
 
 

そもそもアクティブリカバリーのメカニズムって?

 
そもそもアクティブリカバリーのメカニズムはなんなのか。
 
本来、アクティブリカバリーが効果的と考えられた理由としては、
軽い運動を行うことによって血流を促進させ血中乳酸を除去しアシドーシスを軽減するというものでした。
 
しかし、エビデンスが整うに連れて、乳酸はコリ回路遅筋線維などで早い段階で再利用されることがわかり、
血中乳酸は運動後約2時間以内アシドーシスは約16分から80分以内で元の状態に戻るとことが明らかにされています。
 
それでは一般的に言われていたメカニズムは起こらないのでは?と考えられるようになりました。
 
こういった背景からこの研究では、疲労に関係する以下の3つの観点からアクティブリカバリーの効果を再評価しています。
  • 筋グリコーゲンの合成
  • 遅発的筋痛(DOMS)
  • 運動パフォーマンス
 
 

筋グリコーゲンの合成への効果

 
アクティブリカバリーによって体温が上昇し血流が増加することで筋肉はタンパクの取り込みを促進することができるという風に予想されていました。
 
しかしこの研究の結果としてはきんグリコーゲンの合成を促進する効果がないばかりか、
むしろ軽い運動を行うことによって遅筋繊維がグリコーゲンを利用してしまう。
つまり、アクティブリカバリーはグリコーゲンの合成を阻害することが明らかになりました。
 
つまり、筋グリコーゲンを合成する目的でアクティブリカバリーを行うことは効果的でないということが結論づけられました。
 
 

遅発的筋痛への効果

 
遅発的筋痛に関しても、アクティブリカバリーによる体温の上昇と血流の増加によって、損傷部位の回復を早めるということは考えられていました。
 
しかし、これに関してもアクティブリカバリーによる効果は報告されず、
むしろ、ランニングなどの体重がかかるような方法でのアクティブリカバリーは遅発的筋痛を増加させることが示唆されました。
 
これは着地の際の衝撃によって、筋肉が揺れることが疲労の原因となることが最近示唆されており、こういった影響が関係しているのではないかと考えられています。
 
逆に言えば、一般人と比較して疲労耐性の高いアスリートに対してはこういった小さい疲労の影響は少ないのではないかとも考えられています。
 
 

パフォーマンスへの効果

 
続いて、アクティブリカバリーによってパフォーマンスがどれほど維持できるのかってことも研究されました。
 
その結果運動後10分から20分の間にアクティブリカバリーを行うことは効果的であるとされました。
 
これはアクティブリカバリーを行うことによって、体温と血流の急激な下降を抑えパフォーマンスが維持されるということが考えられています。
 
つまり、一般的に用いられている翌日以降の疲労の回復には否定的な結果となっています。
 
 

ストレッチ・フォームローラーによる効果

 
それでは軽い運動によるアクティブリカバリー以外の広報での疲労回復効果どうなのでしょう。
 
ここではストレッチフォームローラーの効果が検討されています。
 
まず、ストレッチに関しては疲労回復効果はないというふうに考えられています 。
 
一方で、フォームローラーに関しては 筋痛柔軟性またパフォーマンスなどに効果的ではないかとポジティブな影響が示唆されています。
 
 

トレーニング後のケアのシステマティックレビュー

 
これとは別に、トレーニング後のケアについてまとめたシステマティックレビューも発表されています。
 
この研究では、トレーニング後のマッサージが、筋損傷、筋痛、主観的疲労度最も効果的であったということが報告されています。
 
加えてこの研究では、マッサージとストレッチを同時に行うことがで相乗効果が得られるということも報告されており、
アクティブリカバリーと比較しても圧倒的に高い効果があると結論づけられています。
 
この論文のレビューは以下の記事をご覧ください。
 
 

まとめ

 
アクティブリカバリーは翌日以降の疲労に効果がないというお話でした。
 
むしろ、ジョギングなどでは、グリコーゲンが利用されたり疲労が増大するということは考えられており、
この結果から>アクティブリカバリーは効果的なトレーニング後のケアとは言えないでしょう。
 
一方で、フォームローラーやマッサージなどの方法は効果的であることはエビデンスとして報告されています。
 
あまりにも、一般的に広まるとアクティブリカバリーですが、アップデートしていかなくてはいかないでしょう。
 
以上です!
 
 

参考文献

  • Van Hooren, B., & Peake, J. M. (2018). Do We Need a Cool-Down After Exercise? A Narrative Review of the Psychophysiological Effects and the Effects on Performance, Injuries and the Long-Term Adaptive Response. Sports Medicine, 48(7), 1575–1595. https://doi.org/10.1007/s40279-018-0916-2
 

トレーニング後のケア、結局何がベストなの?【エビデンス】

 
皆さんこんにちは。
 
トレーニング後のケアが重要なことは百も承知だと思うんですが、
実際に何が効果的なのかというのはわかってるようでわかってないところではないでしょうか。
 
2018年も少し前ですが、そんな疑問を解決しようと
トレーニング後のケアで最も効果的な方法は何なのかというシステムテックレビューが出ました。
 
というわけで今回は、
トレーニング後で最も疲労回復効果の高いケアについての論文レビューをしていきます。
 
 
 
 

研究概要

 
今回は、2018年にFrontiers in Physiologyに投稿された、
 
「An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis.」
 
と言う論文をレビューしていきます。
 
 

研究デザイン

この研究では、ランダム化比較試験、クロスオーバーデザイン、反復測定デザインで、治療的介入による疲労指標への影響を調べた論文を対象に、
システマティックレビューしています。
 
データベースや参考文献からの検索し、PRISMAによって論文の質を評価し、選別された99件の研究を対象にメタ解析を行っています。
 
システマティックレビューとは、これまで出ている研究を総括し現状のエビデンスを総括する最もエビデンスレベルの高い研究デザインです。
 
 

研究結果

 
まず結果から先に言うと、
この研究では以下の項目で疲労指標に対する有意な影響が報告されました
  • アクティブリカバリー
  • コンプレッションウェア
  • マッサージ
  • 水浴
  • 交代浴
  • クライオセラピー
 
また、この中でも炎症マーカーについてはマッサージ水浴が最も効果的と報告され、
加えてマッサージでは、遅発性筋痛(DOMS)主観的疲労度でも最も高い効果が報告されました。
 
これまでなかなか効果が実証されなかったマッサージについて、ついに科学的な効果を認めるエビデンスとなりました。
 
 

DOMS・主観的疲労感

 
まず、遅発性筋痛(DOMS)と主観的疲労感に対する介入的治療から参ります。
 
上の表は、遅発性筋痛(DOMS)への効果を、トレーニング後から6時間以内、24時間、48時間、72時間、96時間以上で比較しています。
下の表は、主観的疲労感への効果を、トレーニング後から6時間以内、24時間、48時間で比較しています。
 
また、表のバーはそれぞれ以下を示しています。
  • 青:アクティブリカバリー
  • 赤:マッサージ
  • 緑:コンプレッション
  • 紫:水浴
  • 黄:クライオセラピー
  • 水:電気的治療
  • 橙:ストレッチ
 

遅発的筋痛(DOMS)への効果

まず、遅発性筋痛への効果に関して。
 
トレーニングのあと6時間以内では、 アクティブリカバリーが最も効果が高いという風にされています。
しかし、アクティブリカバリーの効果は24時間後ではほとんど見られず、それ以降はマッサージが最も効果高いということがわかります。
 
一方で、コンプレッションウェアや水浴は四8時間後以内ではあまり効果が見られませんが7時間後以降では徐々に効果を表すことがわかります。
 
 

主観的疲労度

続いて、主観的疲労感への効果に関して。
 
遅発的筋痛に対して6時間以内では効果的であったアクティブリカバリーですが、
主観的疲労感では6時間以内では効果が見られず、
加えて24時間後には、有意な影響ではありませんが、主観的疲労度を悪化させる影響が見られます。
 
一方でマッサージは、主観的疲労度に関しても6時間後から24時間後にかけて十分な効果が見られます。
また、水浴24時間後で効果が現れています。
 
マッサージに関しては、マッサージを受けたというバイアスが幾分かかっていることは考えられますがそれにしても十分な効果が見られていると言えるでしょう。
 
 

炎症マーカー

 
炎症マーカーとしてはクレアチンキナーゼ、IL-6、CRPが検討されています。
これらはともに、筋損傷の指標として用いられるものです。
 
バーの色、縦軸、横軸は先ほどのものと同じです。
 
炎症マーカーに関しても、IL-6、クレアチンキナーゼともにマッサージによる大きな効果が見られます。
また、水浴も炎症マーカーへの有意な効果が48時間後で見られています。
 
マッサージの炎症マーカーへの効果は3日後から頭角を現していますが、炎症マーカーは1日程度遅れて結果に表れてくるので実質は2日以内で効果が表れてると考えられます。
 
 

アクティブリカバリーの効果

 
今回の結果で得られたアクティブリカバリーの効果は6時間後以内であれば遅発性筋痛に効果があるという結果でした。
一方で、 主観的疲労度に関しては逆効果を招く可能性が示唆されました。
 
アクティブリカバリーに関しては個別のシステマティックレビュー(Van Hooren, et al. 2018)が発表されており、
その結果、運動後10分から20分の間に、体温と血流の急激な下降を防ぐ効果があるとされましたがそれ以上の効果はないという風に報告されています。
 
本来アクティブリカバリーの疲労回復効果は、血流を促進することで乳酸を除去し、血液の酸性度を下げるということでした。
しかし、乳酸によるアシドーシスの疲労への影響があまりない。ということが明らかにされた現代で、アクティブリカバリーのメリットは考えにくい風に結論付けられています。
 
 

マッサージの効果

 
マッサージは、長年その効果が研究結果に出なかったなんとも歯がゆいところでした。
しかしついに、マッサージの効果がエビデンス的に認められる研究結果が出ました。
 
今回得られた統計値では、 SMD値が-2.26から-2.55と十分に効果の大きさを認める数値となっています。
 
また違う研究では、マッサージによって血中のコルチゾール量が減少することや、 血中のβエンドルフィン量が増加することが報告されています。
 
こういったことから主観的指標である違っていきんつうや主観的疲労感に関する影響はあるということは考えられます。
 
SMD値は0.8以上から、大きな影響があると判断できる統計値です。
 

マッサージ×ストレッチの相乗効果

 
加えて今回の研究から得られた注目すべき点として、
マッサージとストレッチの相乗効果が挙げられます。
 
マッサージとストレッチを同時に行うことによって、主観的疲労度への影響のSMD値が-4.34とマッサージのみに比べてさらに高い値となっています。
 
ストレッチ単体では、疲労回復への効果は今回の研究て見られていませんが、
マッサージと並行して行うことによってストレッチも有効な効果があるという風に報告されました。
 
また別に、こういった治療手の疲労回復を彼は男性より女性の方が小さいということも報告されました。
 
 

まとめ

 
以上が治療的介入による疲労指標への効果に関するエビデンスでした。
 
この研究では、これまで意見が分かれていたマッサージの効果が証明されたという点について新規性の高い結果が出ました。
 
また加えて、マッサージとストレッチを同時に行うことによって、
マッサージ×ストレッチの相乗効果が生まれるということも新たな発見として報告されました。
 
 
以上です。
 
 

参考文献

  • Dupuy, O., Douzi, W., Theurot, D., Bosquet, L., & Dugué, B. (2018). An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis. Frontiers in Physiology, 9, 403. https://doi.org/10.3389/fphys.2018.00403
  • Van Hooren, B., & Peake, J. M. (2018). Do We Need a Cool-Down After Exercise? A Narrative Review of the Psychophysiological Effects and the Effects on Performance, Injuries and the Long-Term Adaptive Response. Sports Medicine, 48(7), 1575–1595. https://doi.org/10.1007/s40279-018-0916-2
 
 
 

下肢の筋力はハムストリング肉離れのリスク因子ではないと!?

 
皆さんこんにちは。
 
ハムストリング損傷のリスクファクターについてのエビデンスは、
実際なかなかまとめっていないのが現状です。
 
今年、ハムストリング損傷のリスクファクターを包括的にまとめたシステマティックレビューが2013年に出ていまして、
それ以降、各リスクファクターを細かく検討していこうというのが時の流れです。
 
そんな中で、一番注目されていたリスクファクターに等速性筋力筋力のインバランがあります。
そしてついに、筋力とハムストリング損傷のリスクとの関係性について最新のシステマティックレビューが出ました。
 
というわけで今回は、
下肢の等速性筋力とハムストリング損傷のリスクファクターの関係性についての論文をレビューしていきます!
 
 
 
 

研究概要

 
今回紹介するのは上の論文です。
「Isokinetic strength assessment offers limited predictive validity for detecting risk of future hamstring strain in sport: a systematic review and meta-analyis」
 
この研究では、
ハムストリング、大腿四頭筋、股関節屈曲筋群
ハムストリング損傷のリスク
との関係性を研究している前向き研究を集めてきて、メタ解析システマティックレビューを行っています。
 
システマティックレビューとは最もエビデンスレベルの高い研究デザインであり最も信頼性の高い研究と言えます。
 
 

結果

 
早速結果から参ります。
 
この研究では、
  • ハムストリング、大腿四頭筋、股関節屈曲筋群
  • 様々な角速度
  • コンセントリック、エキセントリック
の様々な組み合わせでの筋力を測定した研究を集めています。
 
メタ解析の結果、ハムストリング損傷のリスクとの有意な関係性が見られたのは、
60°毎秒でのエキセントリックのハムストリング筋力のみでした。
 
また60度毎秒でのエキセントリックのエキセントリック筋力に関しても、ハムストリング損傷リスクとの小さい関係性が見られたに限られました。
 
具体的には SMD値を見てもらうとわかると思いますが、
絶対筋力と相対筋力のSMD値が-0.16と-0.17とかなり小さい値になっています。
 
つまりこの結果から、筋力でハムストリング損傷のリスクを評価することは難しいということが示唆されます。
 
SMD値とは、Standerdised Mean Difference といい、関係性の強さを表しています。0.2以下の場合は小さい影響という風に定義されます。
 
 

現状エビデンスレベルの評価

 
この研究では、どこに有意差だったのかだけではなく、現場揃っているエビデンスレベルについても検討しています。
 
この研究では、これまで出ているエビデンスの質研究結果の一致度から、以下の5段階で現場のエビデンスレベルを評価しました。
  • Strong
  • Moderate
  • Limited
  • Conflicting
  • No evidence
 
本来研究では、効果がなかったことを証明することはほぼ不可能です。しかしこの研究ではこの方法を用いて、関係性がない可能性を検討しています。
 
 

エビデンスレベルの評価結果

 
以下の項目が効果がないということで意見が一致している項目と評価されました。
  • ハムストリングでは、エキセントリックでの遅い角速度での収縮。
  • 大腿四頭筋ではコンセントリックエキセントリック含めた全角速度
  • HQ 比ではコンセントリック同士、エキセントリック同士の比較における全角速度。
  • HH 比ではコンセントリックでの速い角速度での収縮。
 
一方でエビデンスが十分にない項目は以下が挙げられました。
  • ハムストリングでは、エキセントリック収縮の 30°毎秒と240°毎秒
  • HH比は、コンセントリックでの速い角速度での収縮とエキセントリックの全角速度
 
また、以下の項目が研究によって意見が分かれている項目でした。
  • HQ 比のファンクショナルでの全角速度
 
つまり、現状のエビデンスでハムストリング損傷のリスクとの関係性が示唆される項目は、
ファンクショナルなHQ比のみということが明らかにされました。
 
ファンクショナルなHQ比とは、ランニング動作のLate Swing Phaseで起こる、大腿四頭筋のコンセントリック収縮とハムストリングのエキセントリック収縮との筋力の比率です。
 
 

個人的見解

 
今回の研究結果では、ハムストリング大腿四頭筋の筋力はハムストリングの損傷リスクとの関係性はないという風にされました。
 
しかし、だからといって筋力がハムストリングの肉離れに全く関係ないとするのは、個人的にはまだ早いんじゃないのかなという風に思います。
というのも、ハムストリングの肉離れと一言に言っても様々な切れ方がありますが、
ハムストリング肉離れの種類は研究では考慮されていないからです。
 
多くの研究では、ハムストリング損傷の典型的な受傷機転となるランニング時のLate Swing Phaseを基準に考えられています。
ファンクショナルな HQ比がその典型的な例です。
 
ただいくつかの研究では筋力とハムストリング損傷のリスクとの関係性が示唆されているように、ある種のハムストリング肉離れにはある種の筋力が関係している。
というのが順当なんじゃないかなという風に思います。
 
残念ながら、研究ではハムストリングの切れ方については分類されないので、そういったことを研究で考察するのは難しいというのがあります。
 
なので、ハムストリング損傷と筋力が全く関係ないというふうに結論付けるのはどうかなという風に思います。
ただ、これは私の個人的な意見なので信じるか信じないかはあなた次第です。
 
 
###まとめ

 
以上が最新のシステマティックレビューによる筋力とハムストリング損傷のリスクとの関係性についてでした。
 
研究結果としては、筋力とハムストリング損傷は関係ない。という結論でしたが、
個人的にはどうなのかなと言う話でした。
 
ハムストリング肉離れの予防の研究は、進んでいるようでなかなか進み切らないところがあります。
ノルディックハムによるハムストリング損傷の予防効果など、ポジティブな効果すでに見られていたりもします。
 
ノルディックハムの予防効果についての記事は以下を是非是非ご覧下さい。
 
 
以上です!
 
 

参考文献

  • Green, B., Bourne, M. N., & Pizzari, T. (2018). Isokinetic strength assessment offers limited predictive validity for detecting risk of future hamstring strain in sport: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine, 52(5), 329–336. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-098101

T検定のP値とは何を意味しているのか?|統計学・有意差

 
みなさんこんにちは。
 
大学で論文を読まされた人なら避けることはできなかったT検定のP値と言うのを覚えているでしょうか。
 
統計の中でも基礎中の基礎であり、外すことのできないT検定とP値な訳ですが、
 
もちろん、P検定がどう言うことを意味しているのかは理解していても、
具体的に、P値とはなんですか?と聞かれると難しいことはないでしょうか。
 
また、片側検定とは?両側検定とは?
などなど、深く突っ込めば意外と説明しにくいのが統計というものです。
 
というわけで今回は、
T検定とP値とはなんなのか。という話をしていきます。
 
 
 
 

P値とはズバリなんなのか。

 
最初にズバリ答えを言ってしまうと、
P値とは、
「2つの間に本当に違いがあるのか」ということを調べる値です。
 
言い換えるなら、
論文の内容が、「実はたまたまだっただけで、違いなかった。てへ。」
となる確率を示したものがP値です。
 
 

一旦オフィシャルに説明

 
それでは、もう少し噛み砕いて説明していきたいと思いますが、
まずは、堅苦しくオフィシャルな説明からしていこうと思います。
 
T検定とはどういう検定かというと、
「帰無仮説が否定される可能性を検証する検定」
です。
 
帰無仮説とは「2つの間に違いはない」とする仮説で、
T検定をする際には、仮に差があることが研究者の仮説であっても、一旦は帰無仮説を立てます。
 
そして、T検定を当てはめて出てきたP値が「帰無仮説は嘘だ!」と棄却してくれれば、
「2つの間に差がない。ということは嘘である」=「2つの間には差がある」
ということを証明できることになります。
 
これを以って、研究者は「有意差はあります!」という風に声を大にして言うことができます。
英語では「significant difference」と書かれているのはそいういう意味です。
 
実際問題、論文の中で「このT検定はAとBの間に差がないと仮定して行う。」的な説明はないので、暗に帰無仮説が立てられていることになります。
 
 

噛み砕いた説明

続いて、噛み砕いたのを寸劇チックに説明していきます。
 

ヤンキーの勢力争いをT検定で解決しよう。

 
噛み砕いて説明するために、ヤンキーAとBに登場してもらいます
 
ヤンキーAとBは共に「地元じゃ負け知らず、そうだろ?」と言っています。
若手社会人の世代ならピンときそうなセリフです。
 
しかし、「負け知らずの規模が違う。」と言うヤンキーAに対して、
ヤンキーBは「負け知らずに差はない。」と言う風な感じです。
 
ですが、この2人は都会と田舎ということで、喧嘩するにも近頃は石油が高騰しているのでガソリン代が高い。
だから、極力喧嘩せずして、
  • 本当に2人の間に差がないのか
  • やっぱり都会ヤンキーのほうが強いのか。
 
ということをハッキリさせたいということになりましたとさ。
 
 

ヤンキー・T検定の戦い

 
そこで、ヤンキーAとBは、ヤンキーらしからぬ非常にスリムな方法を考えます。
 
ヤンキーA
「隣町にヤンキーCがいる。そこならお互い電車で行けるし、ガソリン代もかからねえ。そいつとお互い5回つづ喧嘩して、どっちがヤンキーCを圧勝できるかで競おうじゃねーか。」
 
 
ヤンキーB
「なるほどな。じゃあ、それをT検定に当てはめて決めてやろーじゃねーか。」
 
と言う風な運びになりました。
 
謎に10回も喧嘩しないといけないヤンキーCは不憫ですが、A,Bの母親のへそくりからガソリン代が抜かれることに比べたらマシだとしましょう。
 
 

ヤンキーの実力差をT検定で比べてみた。

 
この状況において、ヤンキーBの「負け知らず同士、差はない。」というのが帰無仮説になります。
このヤンキーBの言い分が嘘なのかどうかをT検定、つまりはP値で検討しようとういことになります。
 
右上のようなヤンキーCとの戦績に、T検定を使った時に、
P値が「ヤンキーBの帰無仮説は嘘だよ!差はあるよ!」と言う場合は、ヤンキーAの方がやはり強いと言うことになります。
P値が「その帰無仮説が嘘かって?ん〜わからな〜い。」と言う場合は、AとBの実力差はなんとも言えないと言うことになります。
 
つまり、P値が「差があるよ!」と言ってくれ場合には、実力差があることを証明できる。
これがT検定です。
 
ちなみに、本当は結果が数値で出てこないとT検定はできません。そこがヤンキーAとBの甘いところでした。
またここでは、Aの方が強い可能性を調べる片側検定で考えています。
 
 

なぜT検定をする必要なのか。

 
ここで疑問に思った人がいるかもしれません。
「なぜ、Cとの戦歴を何勝何敗とかで比べたらダメなのか。」
「そっちの方がシンプルでいいじゃないか。」
と。
 
たしかに、そうしたらシンプルなのですが、
喧嘩や研究には、結果のばらつきがつきものです。
 
つまり、5回喧嘩した勝ち数と負け数を比べただけでは、今回はたまたま、ヤンキーAがうまく勝てただけで「もう5回やったら違う結果になっているかもしれない。」
と言うことを否定できないのです。
 
そこで、T検定を使うことで、
「この結果がたまたまである可能性はどれぐらいなのか。」
「もう5回やった時にヤンキーBが優勢になる可能性はどれぐらいなのか。」
ということを知ることができるのです。
 
 

P値の判断

 
P値の判断については、よくご存知かもしれませんが一応さらっておきます。
 
P値は、多くの場合「0.05」を基準に判断されます。
分野によっては「0.01」を基準にすることもありますが、スポーツサイエンス界隈の研究はほとんど0.05を基準にしているので、これを基準に話をしていきます。
 
P値≦0.05の場合、そのP値は「帰無仮説は嘘だよ!差があるよ!」ということを示しています。
一方で、P>0.05の場合は、そのP値は「帰無仮説が嘘か?わからな〜い。」ということを示しています。
 
ここで、ヤンキーAとBが何を間違えたのか、10教科の点数を比較することにしました。
平均点をみると、ヤンキーBの平均点は10点も低いので「ヤンキーAの方が賢い」と言うことが言えそうですが、
実は、この結果をT検定にかけると「P=0.129」になります。
 
つまり、今回はヤンキーAがたまたま点数が良かった。と言わなくてはいけません。
 
しかし、だからと言ってヤンキーAとBの頭の良さは変わらない。と言う風には言えないと言うことは頭に入れておいてください。
0.05の場合は「どうなのかはわからない」としか言えないと言うことが非常に重要です。
 
 

P=0.05とは何を意味しているのか。

 
ここで、
「P=0.05って何を意味しているの?なんで0.05なの?」
と言う疑問を持った人がいると思います。
 
P値とは「帰無仮説が正しい確率」です。
 
つまりP=0.05の場合「帰無仮説が正しい確率は5%」ということになり、
それはほとんど無いと言っていいんじゃない?
つまり、帰無仮説は嘘だと言っていいんじゃない?
ということになります。
 
これによって、研究者はP≦0.05の結果が出ると、
「有意な差があります!」
という風に言うことができます。
 
 

0.05は研究者間のただの暗黙の了解?

 
「帰無仮説が正しい確率は5%」ということは、確かに帰無仮説は間違っていそうですが、
まだ、5%の確率でたまたまそういう結果になった。という可能性は残っています。
そう、残っているのです。
 
例えば、ヤンキーAとBの間に有意な実力差があったとT検定の結果わかったとしても、
5%の確率で、実力は同等またはヤンキーBの方が強い可能性が残っています。
それは否定できないのです。
 
0.05(または0.01)は研究者の中での暗黙の了解であって、
有意差があるからと言って「絶対」とは言い切れないと言うのに注意が必要です。
 
ですが、研究者の暗黙の了解は固く、P<0.05なら差があったぞ!!と研究者はかなり強く書きます。それが研究というものです。
 
 

逆に差がない。ということは証明できない

 
これは、この記事の中で一番注意してほしいことなのですが、
 
T検定または多くの統計的手法において、
「差がなかった。」ということを証明する方法はありません。
 
もしかしたら数学界にはそう言った証明方法があるのかもしれませんが、
少なくとも研究の中でスタンダードに用いられているものはありません。
 
よく一般の記事なんかで「〇〇は効果がなかった。」と言う風に書いていますが、
システマティックレビューなどで、多くの論文で有意な差が見られなかったら、
「統計的に、効果がない可能性が非常に高い。」ということは言えても、
「絶対的に〇〇は効果がない。」ということをいうことは不可能です。
 
P値は、測定の精度が低くてばらつきが大きかったり、サンプル数が少なかったりすると必然的に大きくなります。
そのため、本当は効果があっても「研究の方法上、有意な差がでなかっただけ。」なんてことは日常茶飯事です。
 
「〇〇は効果がなかった!」という記事(自分も書きがちなので注意します。。。。)は、疑いの目を持って「なぜ出なかったのか。」ということを考えながら読むことが重要です。
 
 

まとめ

 
今回は、P値とは何かということをできるだけにポップにお話ししていきました。
 
いつもは、専門家に向けて記事を書いていること、また誤解がないようにするために、堅い言葉で記事を書いているつもりなんですが、こんな感じのポップな記事は書きやすくていいですね。
そんな話はどうでもいいですね。はい。
 
科学的な研究結果は近年身近に触れられるようになりましたが、
逆に「科学的」という太鼓判が乱用されているような気もします。
 
自分も科学的なエビデンスに基づく知識は重要だと思いますし、科学的な話しか信頼しないような側の人間ですが、
「科学的知見はあくまでも科学の中の話。用法用量を守って正しく使うことが大事。」
ということを推していきたいです。
 
以上です!
 

骨癒合に要する期間|リモデリング・仮骨・軟骨細胞・骨芽細胞

 
骨折とは一言に言っても、その折れ方によって剥離骨折疲労骨折などいくつかの種類に分かれます。
 
 
骨折の種類に関しては、以下の記事にてまとめています。
 
骨と同じ結合組織である靭帯などの治癒過程は、血管や細胞の反応スピードによってある程度決まっているため、ほとんど同じタイムスケールで進んでいきますが、
骨折の治癒期間はこれらの折れ方などで大きく変化していきます。
 
というわけで今回は、
骨癒合のメカニズムとそれに要する期間について解説していきます。
 
 
 
 

骨癒合のタイムスケール

 
それでは、骨折はどのようにして治るのか。 
 
まず、骨癒合のタイムスケールは骨折の種類や部位、損傷サイズによってまちまちです。
手の骨の場合は、骨折のサイズが比較的小さく3週間程度で回復しますが、複雑な骨折の場合は2~3年かかる場合もあります。
 
ここでは、一般的な長骨の骨折を例に説明していきます。
 
 

長骨の骨癒合のタイムスケール

 
骨癒合は、おおよそ以下のようなステップで進んでいきます。
  • 炎症反応
  • 繊維軟骨の形成
  • 仮骨の形成
  • リモデリング
 
炎症反応
骨折が起きて最初の2週間は、他の組織と同様に出血による炎症反応が起きます。
出血によって、白血球やマクロファージが損傷部分に集まり、炎症を消散させます。そして、血栓・血餅が形成されます。
ここまでは、一般的な組織の治癒過程と同じメカニズムによって進みます。
 
 
繊維軟骨の形成
続いて、損傷後3週間程度で軟骨芽細胞が働き始め、柔らかい繊維軟骨を作り上げます。
つまりこの軟骨芽細胞は、結合組織でいう線維芽細胞にあたる細胞です。
 
繊維軟骨は軟骨と同様の構造をしており、コラーゲン繊維を主に含んでおり非常に柔らかい組織です。
そんため、骨本来の役割を担うにはまだ程遠い段階です。
 
 
仮骨の形成
損傷後から3~6週間後に間に、繊維軟骨にカルシウムが加わることで徐々に固くなっていき、仮骨が形成されます。
 
この段階で骨の形状は再生されますが、まだ骨としての強度は十分ではありません。そのため、仮骨が完全に完成するまでは固定が必要です。
 
 
リモデリング
6週間以降は、仮骨に骨芽細胞破骨細胞が入り骨のリモデリングを行います。
 
リモデリングを経て、骨本来の強度を取り戻すことができます。
この期間は短くて2週間、長いと年単位でかかる場合があります。
 
また、骨の強度は適切な強度をかけることで適切にリモデリングされていきます。
この、負荷に対して骨がリモデリングされていく法則を「ウォルフの法則」と言います。
 
 

骨への血液供給による影響

骨癒合に関わる重要な要素に骨への血液供給があります。
 
骨は密な構造をしていることから、他の組織のように血管が張り巡らされているわけではありません。
特に、大腿骨頭手の舟状骨などでは血液供給が少なく、それらの部位では骨癒合にかなり時間を要する、またはほとんど起きないと言ったことが起こり得ます。
 
骨癒合が起きないと、血液供給がない部分は虚血性壊死という症状に陥ります。
そのため、これらの部位での骨折には注意が必要です。
 
若年層では、虚血性壊死は大腿骨頭ではあまり起こりません。
 
 

まとめ

以上が骨癒合のメカニズムとそれに要する期間でした。
  • 部位によって治癒期間は全然違う。
  • 最初の2週間で炎症が起き、血腫ができる。
  • その後、4週間程度かけて、仮骨が形成される。
  • 6週間後からは、リモデリングが始まる。
 
以上です!
 
 

骨折の種類と要する期間|疲労骨折・骨端板・骨軟骨症・指・手

 
骨折と一言に言っても骨折には色々な種類があります。
骨折の治癒期間は、骨折の重症度だけでなく骨折の種類によっても大きく変わってきます。
 
また、期間が違えば治療のタイムスケールも変わってきます。
 
骨癒合のタイムスケールについては以下の記事で紹介しました。
 
というわけで今回は、
骨折の種類と分類について解説していきます!
 
 
 

骨折の種類

 
まず、骨折にはいくつかの分け方があります。
  • 開放 or 閉鎖による分類
  • 折れ方による分類
  • その他の骨折
 
 

開放 or 閉鎖による分類

スライドにはありませんが、開放骨折閉鎖骨折で分けることができます。
開放骨折は、骨が皮膚から飛び出てしまった骨折で、この場合は感染症のリスクに注意する必要があります。
 
 

折れ方による分類

それとは別に、骨の折れ方によって分類することもできます。
  • 横骨折
  • 斜骨折
  • 螺旋骨折
  • 粉砕骨折
  • 亀裂骨折
  • 圧迫骨折
などがあります。
亀裂骨折は、一般的にいうヒビが入る骨折です。
 
 

その他の骨折

その他に特殊な骨折の仕方に、疲労骨折若木骨折があります。
 
疲労骨折は、骨自体はあまり変形していないのですが、負荷が繰り返し骨にかかることで、骨破壊に対して骨形成が間に合わず、骨のリモデリングのバランスが狂ってしまった状態です。
シンスプリントが典型的な例に挙げられます。
 
若木骨折は、子供によく起こる骨折です。
子供の骨はまだ未発達なため柔らかく、完全に折れずに割けるように折れることがあります。
ちょうど、若木を折ろうとした時によくなるアレです。
 
 

子供によく見られる

 
若木骨折以外にも子供に特有の骨折として、骨端と骨端板の骨折があります。
 
 

骨端の損傷

子供では、腱に引っ張られることによって骨端が変形することがあります。
 
骨端は、本来太く硬い部分なので変形しにくいのですが、子供のころはまだ柔らかいため骨端の変形が起こり得ます。
オスグッドシュレッダー症候群がその典型的な例になります。
 
 

骨端板の骨折

骨端板の骨折も子供特有の骨折です。
 
骨端板の骨折は、5つの種類に分類されます。
  • Type Ⅰ:骨端板のみが骨折するパターン
  • Type Ⅱ:骨幹からの骨折が骨端板に達するパターン
  • Type Ⅲ:骨端板から骨端に達するパターン
  • Type Ⅳ:骨幹から骨端板を含んで骨端まで達するパターン
  • Type Ⅴ:骨端板を圧迫するパターン
 
7,8割はType Ⅱの骨幹の骨折が骨端板に達するパターンになります。
 
 

骨軟骨症

骨軟骨症は急性期に見られる、原因不明の関節の痛みです。
 
俗に言われる「成長痛」のことです。
骨軟骨症は骨成長障害っとは言われていますが、いまだに詳しいメカニズムがあまりわかっておらず、成長痛を持ってしまった場合は成長が終わるのを待つしかないというのが現状です。
 
 

疲労骨折

 
骨折の中で、他の骨折と分けて考えなければ行かないのが疲労骨折です。
 
疲労骨折は、明らかな受傷機転がないのが他の骨折との決定的な違いです。
そのため、視診によって判断できず、以下のような症状を診断する必要があります。
  • 局所的な圧痛と疼痛
  • 腫れ
  • 違う部分を押して痛む
 
特に、違う部分を押して痛むのが疲労骨折の特徴です。
 
疲労骨折は、最初は運動中のみ痛かったけど夜や朝などにコンスタントに痛むようになってくると重症度が高くなっている可能性があります。
 
 

疲労骨折のリスクが高まる状況

疲労骨折が起こりやすい状況に、まずトレーニング量が急激に増加した場合が挙げられます。
 
負荷が急激に上がると、最初の4週間程度は骨形成に対して骨吸収が優位になります。
その結果、筋肉は負荷の増加に適応してトレーニング負荷が上がっていくにも関わらず骨はもろくなります。
これによって、高校の部活に入ったばかりなどに骨折しやすくなります。
 
形態学的な特徴としても、以下のような特徴を持つ人は足部のクッション性が低く、疲労骨折のリスクが高いと言われています。
  • 扁平足
  • Morton’s toe(第一中足骨が短い)
  • MP関節の過剰な可動性
 
 

まとめ

今回は、骨折の種類について解説していきました。
  • 開放・閉鎖骨折、疲労骨折、亀裂骨折、剥離骨折、疲労骨折など
  • 子供では、若木骨折が起こることがある。
  • また、骨端線の骨折もこどもでは考慮が必要。
 
以上です!
 
 

ハムストリング肉離れのリスクファクター【最新エビデンス】

 
ハムストリングの肉離れは多くのスポーツで見られる最も典型的な怪我だと思います。
実際に、サッカーにおいて最も頻繁に起こる怪我は「ハムストリングの肉離れ」だとFIFAの研究チームからも報告されています。
 
つまり、ハムストリングの肉離れによるチーム・クラブへの損害はかなり大きいというのが現実です。
(ハムストリングの怪我1回おこることで起こるチーム面・経済面の影響を調べた研究をまたの機会に紹介しようと思います。)
 
では、ハムストリングの肉離れを防ぎたいと考えた時に、
「何がハムストリングのリスクファクターなんだ。」
ということでしょう。
 
というわけで今回は、
ハムストリング損傷のリスクファクターについてのエビデンスレビューをしていきます。
 
 
 
 
 

論文概要

 
今回は、2013年にBritish Journal of Sports Medicineにて発表された
 
「Risk factors for hamstring muscle strain injury in sport: A systematic review and meta-analysis」
 
という論文をレビューしていきます。
 
 
2013年の研究を「最新」って呼んじゃっていいのか?と思われるかもしれませんが、リスクファクターの研究はかなり闇期に入っているイメージなので、リスクファクターを包括的に調べた論文はこれが最新になります。
 
 

対象研究とデザイン

この論文は、システマティックレビューと言われる論文です。
 
プレシーズン等にリスクファクターと考えられるデータを測定し、その後の怪我の発生率を集計する形の前向きコホート研究を対象に、研究結果をまとめています。
 
また、各研究の質の評価は、CASP (The Critical Appraisal Skills Programme)によって行なっています。
 
PRISMAで研究評価やしてないところ、この分野はまだまだ研究が不十分だってことが読み取れます。
 
 

研究結果

先に研究結果を言ってしまうと、
このシステマティックレビューでは以下の3つのリスクファクターが、ハムストリング肉離れのリスクと統計的有意に関係していると報告されました。
  • 年齢
  • 既往歴
  • 大腿四頭筋の最大筋力
 
 
 

年齢増加の影響

 
まず、年齢が増加することでハムストリングの肉離れを起こすリスクが高まるということが明らかにされました。
 
年齢の増加とハムストリング損傷リスクとの関係性はほとんどの研究で見解が一致しており、
この論文に含まれた17件のうち、年齢による影響に統計的有意な関係性が見られなかったのは2件のみでした。
 
また年齢とハムストリング損傷との関係性は、2006年と2009年に行われたシステマティックレビューでも統計的に有意な関係性が見られています。
(Foreman TK, Addy T, Baker S, et al. 2006, Prior M, Guerin M, Grimmer K. et al. 2009)
 
年齢の増加による影響に関してVerrall GM et al. (2001)では、
年齢が1年上がるごとに、ハムストリングの損傷リスク(RR)は30%づつ上昇するという風に報告されています。
 
 

年齢増加の影響に対する注意点

年齢が増加すると損傷リスクが高まることを否定する理由はどこにもないのですが、
年齢が”直接的に”ハムストリング損傷に影響しているというわけではないということを忘れてはなりません。
 
年齢は所詮「ただの数字」です。
つまり、年齢の増加によって何かが変わったから、ハムストリング損傷のリスクが高まっています。
 
ただ、それが筋力低下なのか、体重・BMIの増加なのか、負荷への耐疲労能なのかは現状のエビデンスでははっきりとはしていません。
「相関関係は見つかったが、因果関係は分からない」というやつです。
 
 
 

既往歴の影響

 
続いて、ハムストリングの既往歴もハムストリングの損傷リスクを有意に上昇させることが明らかにされました。
 
既往歴も年齢と同じく、ほとんどの研究で一致した見解となっています。
また、これまでのシステマティックレビューの内容とも一致する内容となっています。
 
加えて、既往歴のメタ解析に関してポジティブな統計結果として注目していただきたいのが、異質性(heterogeneity)が低いことです。(I2 = 22~29%)
こういったことから、かなり信頼性の高い結果と言って大丈夫だと思います。
 
ちなみに、ハムストリング損傷から復帰して8週間の間は特に再発リスクが高く、通常の6.33倍のリスクがあり、再発の半分以上がこの8週間以内に起こるとも報告されています。(Orchard JW et al. 2001)
 
異質性とは、研究間の結果のばらつきのことです。これが低いということは研究結果の再現性が高く、より信頼できるデータであるということです。
 
 

他の怪我の既往歴によるハムストリング損傷リスク

ハムストリング損傷自体の既往歴以外に、他の怪我の既往歴がハムストリング損傷のリスクファクターになると報告している研究もいくつかあります。
 
Malliaropoulos N et al. (2011)では、下腿の怪我既往歴が、
Verrall GM et al. (2006)では、膝関節の損傷恥骨炎が、リスクファクターとなると報告されています。
 
しかし、これらの既往歴は”恐らく”フォームなどが変化することによって、ハムストリングへの負担を増加させると考えられていますが、その因果関係は明らかではありません。
これもいわゆる、相関関係のみが見つけられているやつです。
 
 

大腿四頭筋の最大筋力の影響

 
続いて、大腿四頭筋の最大筋力が増加するとハムストリング損傷のリスクが高まることも今回のシステマティックレビューでは明らかにされました。
 
しかしこれは、これまでの研究とは一致していない見解です。
また、SDM(Standardized mean difference)が0.43と中程度の影響しか見いだせていないということ、
またメタ解析に用いられた研究数も4件のみと、信頼性にかける点に注意が必要です。
 
実際に、2017年に出された筋力とハムストリング損傷リスクへの影響に絞ったシステマティックレビューではこの関係性は否定的な見解が述べられています。(Van Dyk, N et al. 2017)
 
 
 

まとめ

 
これまでの話をまとめますと、こんな感じの研究結果でした。
  • 既往歴は、異質性も低く直接的なリスクファクターと言っても大丈夫そう。
  • 年齢もリスクファクターであることは確かだから、因果関係は分からない
  • 筋力や柔軟性に関しては未だ意見が分かれる。
 
この研究では、有意な関係性は見られなかったがリスクファクターとなる可能性が高い要因に「ハムストリングの柔軟性」があります。
 
ハムストリングの柔軟性は、これまでのシステマティックレビューでは統計的に有意な関係性が見られており、この研究でもその”傾向"は見られていました。(p=0.08)
こういったことから、筆者はリスクファクターとなり得る可能性が高いと考察しています。
 
 

まだまだ分かっていないことしかない

自分の知る限りでは、この研究がハムストリング損傷のリスクファクターを包括的にまとめた最も最新のエビデンスです。
 
他にも、H:Q比ハムストリングの筋力低下など色々なリスクファクターが思いつくと思いますが、筋力や柔軟性に関しては、研究によって結果のばらつきが激しく意見がまとまっていません。
なので、これらに関しては実際どうなのか何とも言えないのが現状です。
 
ハムストリングの肉離れと一言に言っても、
受傷機転や部位などによって全然違う性質の怪我なんじゃないのか。
という意見の研究者もいます。
 
他にも予防プロトコルの効果を直接的に調べた研究などもあるので、
現状はメカニズムから掘り下げていくより、エビデンスの出ている研究を取り入れていく方が手っ取り早いかもしれません。
 
 

参考文献

  • Freckleton, G., & Pizzari, T. (2013). Risk factors for hamstring muscle strain injury in sport: A systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine, 47(6), 351–358. https://doi.org/10.1136/bjsports-2011-090664
  • Verrall GM, Slavotinek JP, Barnes PG, Fon GT, Spriggins AJ. Clinical risk factors for hamstring muscle strain injury: a prospective study with correlation of injury by magnetic resonance imaging. Br J Sports Med. 2001;35(6):435-440.
  • Orchard JW. Intrinsic and extrinsic risk factors for muscle strains in Australian football. Am J Sports Med. 2001;29(3):300-303.
  • Malliaropoulos N, Isinkaye T, Tsitas K, et al. Reinjury after acute posterior thigh muscle injuries in elite track and field athletes. Am J Sports Med 2011;39:304–10.
  • Verrall GM, Slavotinek JP, Barnes PG, et al. Assessment of physical examination and magnetic resonance imaging findings of hamstring injury as predictors for recurrent injury. J Orthop Sports Phys Ther 2006;36:215–24.
  • Van Dyk, N., Bahr, R., Burnett, A. F., Whiteley, R., Bakken, A., Mosler, A., … Witvrouw, E. (2017). A comprehensive strength testing protocol offers no clinical value in predicting risk of hamstring injury: A prospective cohort study of 413 professional football players. British Journal of Sports Medicine, 51(23), 1695–1702.

筋組織・神経組織の治癒に必要な期間|再生・修復・回復

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スポーツ選手にとって怪我はつきものです。
 
そんな、選手にとってどれぐらいの期間で復帰できるのかはとても重要です。
ですが、治癒期間が終了しないまま復帰させることは、再発のリスクを高めることに繋がります。
 
そのため、治癒組織とその期間についてしっかり頭に入れて、復帰期間を決める必要があります。
 
 
以下の記事では、結合組織の治癒とその期間いついてまとめました。
 
というわけで今回は、
筋組織と神経組織の治癒とその期間について解説していきます!
 
 
 
 

筋組織の治癒

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筋組織は、結合組織とは全く違う方法で治癒します。
 
筋組織は本来、永久細胞に分類されます。
永久細胞とは、あまりリモデリングされず再生能力が低い細胞です。
 
しかし、筋組織の周りには衛星細胞という細胞が存在し、この細胞の再生能力によって筋肉は再生することができます。
 
筋肉の損傷では多くの場合、筋膜の損傷も同時に生じます。
筋膜は結合組織に分類されます。そのため、修復によって瘢痕組織を形成し治癒します。
筋膜による瘢痕は筋肉にも癒着し、筋肉の再生を阻害します。
 
 

筋組織治癒のタイムスケール

筋組織は再生することができるため、骨と同様に重症度によって治癒期間が変化します。
 
レジスタンストレーニングなどの筋組織の微細損傷では、筋膜が損傷されないため、筋肉は3~4日程度で再生することができます。
 
一方で肉離れのような傷害では、筋膜の損傷に応じて6~8週間程度の期間を要します。
 
 

神経組織の治癒

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神経組織も筋肉と同じく、永久細胞に分類されます。
しかし、核による独自の方法によって多くの場合は再生することができます。
 
神経組織は、細胞体が損傷しなければ再生が可能です。
これは、細胞体の中にある細胞核から再生に必要な物資が放出されるからです。
 
 

神経治癒のタイムスケール

細胞体が損傷されなかった場合、損傷した神経細胞では3~5日程度で損傷部分が壊死し、切り離されます。
 
その後、核から物質が放出され、遠位端から徐々に再生していきます。
このスピードは3~4mm/日と言われています。
 
つまり、遠位から12mmの部分を損傷した場合、約1週間程度で回復することになります。
 
 

まとめ

以上が、筋組織と神経組織の治癒とその期間でした。
 
  • 筋組織は、衛星細胞によって再生によって3~4日程度で再生可能
  • しかし、筋膜の損傷によって再生は阻害され、6~8週間かかる。
  • 神経は、損傷部位が近位であるほど再生に時間がかかる。
 
以上です!
 
 
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