ノルディックハムの効果は現場で期待できるか@北欧プロサッカーチーム
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近年、ハムストリング肉離れの予防トレーニングとして「ノルディックハム」がかなり注目を集めていると思います。
前回、ノルディックハムの効果と問題点についての論文をレビューしておりまして、
そこでは、ノルディックハムには
- より伸展位で筋力が発揮できるようになるポジティブ面
- 筋力や筋力発揮の膝角度の左右差が増大するネガティブ面
の両方があるという話でした。
ですが、ポジティブ面の影響がネガティブ面より大きければ、もちろん実際に取り入れて効果が出るということは考えられれます。
ということで今回は、
ノルディックハムをプロサッカー選手に対しての実際の効果についての論文を紹介していきます!
論文概要
今回は、2008年にScandinavia Journal of Sport Medicineにて発表された
「Prevention of hamstring strains in elite soccer: an intervention study」
という論文をレビューしていきます。
対象者
この研究では、アイスランドとノルウェーのトップリーグのチームに所属するプロサッカー選手を対象に、
アイスランドのチームでは、1999-2002年の4シーズン
ノルウェーのチームでは、2000-2002年の3シーズン
を通して行なっています。
アイスランドのチームは、いくつかのチームが介入に承諾しなかったため、不参加です。一方で、ノルウェーのチームは全14チームが参加しています。
研究者のコネクションを感じます。笑
研究者のコネクションを感じます。笑
研究デザイン
予防プロトコルを介入した場合としなかった場合で、ハムストリング損傷の発生率を比べています。
まず、1999-2000年の2年間は、介入しなかった場合の発生率をベースラインとして取り、
その後、2001-2002年の2年間で、予防プログラムの介入を行なった場合の発生率を取っています。
2001-2002年の介入プログラムには、以下のフローチャートのように各チームに介入していきます。
-
「Warm-up」:ハムストリングの重点的なアップ
-
「Flexibility」:ハムストリングのPNFストレッチ(ホールド-リラックス)
-
「Strength」:ノルディックハム
ノルディックハムによって怪我率が減少した
※RR=Relative risk(RR=0.43の場合、57%のハムストリング損傷を予防できたことを意味する)
上のグラフは、ノルディックハムを含む予防プログラムを行なったチーム(介入チーム)と行わなかったチーム(非介入チーム)でのハムストリング損傷の発生率を比較したものです。
4つの棒は左から、介入チーム、非介入チーム、介入チームのベースライン、非介入チームのベースラインです。
これを試合時、練習時、全体のシチュエーション毎に分けて比較されています。
その結果、ノルディックハムを吹くプログラムの介入チームでハムストリング損傷の発生率が最も低い結果となりました。
具体的な数字としては、
-
介入チームの発生率は、介入チーム自身のベースライン(非介入時)より、58%低く
-
介入チームの発生率は、非介入チームの同シーズンと比較しても57%低い
ことがこの研究結果として得られました。
しかし、議論の余地は残る。
この研究の結果では、確かに介入チームが最もハムストリング損傷の発生率が低くなっており、ノルディックハムが確かに予防プログラムとして有効であると示唆できます。
しかし、これについては幾分かの議論の余地が残ります。
ここで、議論の余地としては以下の2点が挙げられます。
-
非介入チームでも、1999-2000年から2001-2002年になって発生率が大幅に下がっていること。
-
介入チームは、非介入チームより介入する前の段階でも元々発生率が低いこと。
時代の変化とともに怪我率は減少している。
まず、1999-2002年の4年間の時代の流れの間で、ハムストリング損傷予防の研究は一気に加速しており、
そもそも介入しなくても、そういった時代の進歩で発生率が下がっていたのではないか。
ということです。
非介入チームではも、2001-2002年シーズンの方が1999-2000年シーズンより、怪我発生率が51%低下しています。
この研究の4年の中での時代の変化が、ハムストリング損傷に対する認識が変わっていることは確かだと言えます。
ハムストリング損傷がの受傷肢位が、Nielsen & Yde, (1989) Arnason et al., (1996)で明らかになって以来、2002年までにかなりのリスク因子が明らかにされているので、この4年間でかなりの進歩があったと言うのは想像がつきます。
そもそも介入チームの怪我率は低い。
次に、介入チームと非介入チームの1999-2000年のベースラインでの怪我率を見て欲しいのですが、
この時点で、介入チームは非介入チームより怪我の発生率が低いことがわかります。
介入プログラムに参加するかどうかは、チームの選択に委ねられています。
つまり、介入プログラムに好意的であったチームは、
- 介入プログラムのような予防プロトコルをそもそも実施していたり、
- ハムストリング損傷予防に対して積極的であった
などが考えられます。
ベースライン時点での差について具体的な数字はこの論文では挙げられていませんが、
そもそも予防に積極的なチームが、時代の進歩による影響でより発生率を下げているだけで、
ノルディックハムの効果自体はないんじゃないの?
と言われれば、なんとも言い返せないというのがこの研究の議論の余地と言えます。
余談:アイスランドリーグの方がハムストリング損傷率が高い
少し余談になりますが、この研究の中で報告されたハムストリング損傷の発生率をノルウェーリーグとアイスランドリーグで比較すると、
アイスランドリーグの方が2倍近く発生率が高くなっていました。
また、急性損傷全体で見ても、
-
アイスランドの1999年シーズンで、6.1回/1000時間
-
アイスランドの2000年シーズンで、6.6回/1000時間
-
ノルウェーが2000年シーズンで、3.9回/1000時間
とアイスランドの方が怪我の発生率が有意に低くなっていました。(それも p<0.001)
これについて筆者は、
- ノルウェーリーグの方が、医療環境が充実しておりフィジオが復帰まで対応できること
- アイスランドリーグは5-9月の5ヶ月間で行われるため、トレーニング期間が十分に取れないこと
を挙げています。
2002年にはアイスランドリーグの怪我率もかなり下がっているので、対応や予防プログラムが不十分だったのは想像できますね。
まとめ
今回は、プロサッカーチームでノルディックハムを取り入れた効果について解説していきました。
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ノルディックハムはハムストリング予防に効果的と示唆される
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しかし、時代の変化やチームの積極性などのバイアスは否定できない
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アイスランドリーグでトレーナーをする場合は要注意
これに引き続いて、ノルディックハムの実際の現場での効果について研究している論文がまだあるので、次回はそっちの方もレビューしていきたいと思います!
参考文献
- Arnason, A., Andersen, T. E., Holme, I., Engebretsen, L., & Bahr, R. (2008). Prevention of hamstring strains in elite soccer: an intervention study. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 18(1), 40-48.
- Arnason A, Gudmundsson A, Dahl HA, Johannsson E. Soccer injuries in Iceland. Scand J Med Sci Sports 1996: 6: 40–45.
- Nielsen AB, Yde J. Epidemiology and traumatology of injuries in soccer. Am J Sports Med 1989: 17: 803–807.