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ハムストリング肉離れに対するノルディックハムの効果と問題点

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ハムストリングの肉離れは、多くのスポーツでメジャーな怪我です。
加えて再発のリスクもかなり高いことから、スポーツ選手にとっては非常に厄介な怪我と言えます。
 
近年、このハムストリング損傷の再発リスクを抑える方法について近年、多くの研究が出てきました。
 
特にリハビリプロトコルでは、従来のコンセントリック収縮を中心に筋力を回復させるだけでは問題が残るということが明らかにされ、
エキセントリック収縮を含むプロトコルを取り入れることで、再発のリスクを抑えられるというエビデンスが確立されつつあります。
 
前回の記事では、ハムストリング損傷を経験した選手が従来型のリハビリプロトコルを行なった場合に、最大トルクの発揮角度がより屈曲位になっていたという研究を紹介したました。
 
 
そんな中で、近年注目されているリハビリトレーニングに
「ノルディックハムエクササイズ」があると思います。
 
ということで今回は、
ノルディックハムエクササイズの効果と問題点についての論文を紹介していきます!
 
 
 
 
 

論文概要

今回は、2005年にPhysical Therapy in Sportに発表された、
 
「The effects of eccentric hamstring strength training on dynamic jumping performance and isokinetic strength parameters: a pilot study on the implications for the prevention of hamstring injuries」
 
という論文を参照していきます。
 
 

研究対象

この研究では、ストレングストレーニング未経験の健康的な成人男性9名を対象にしています。
 
つまり、それなりのレベルで競技スポーツを行なっていた選手ではないと考えられます。
 
 

研究デザイン

ノルディックハム・トレーニングを4週間行っています。トレーニング量は以下のように行なています。
  • 1週目週1回5回×2セット
  • 2週目週2回6回×2セット
  • 3週目週3回6回×3セット
  • 4週目週4回8回×3セット
 
そして、4週間のノルディックハム・トレーニングの前後で、
  • 等速性での膝伸展・屈曲の最大筋力
  • 最大筋力となる時の膝伸展角度・屈曲角度
  • 垂直跳びの跳躍高
を測定しています。
 
 

先行研究

Brockett et al.(2005)*1の先行研究で、
ハムストリング肉離れの際のリハビリで従来型のコンセントリックなプロトコルしか行なっていない選手は、左右差がないまでに最大筋力は回復していても、
最大筋力を発揮する角度に左右差が残っていることが明らかにされていました。
 
ハムストリング肉離れは、膝関節伸展・股関節屈曲の最大伸張位で主に起こることから、
伸張位でハムストリングが働かないことが再発のリスクファクターとなっていると考えられています。
 
 

最大ト筋力発揮角度がより伸展位になった

 
この研究の最大の着目点は、
ノルディックハムによって、ハムストリングの最大筋力発揮位置が伸展位に移るのか。
ということです。
 
この研究では、4週間のノルディックハム・トレーニングによって、
ハムストリングの最大筋力発揮角度が19.4%より伸展位に移ったという結果になりました。
 
 

最大筋力自体は増加しなかったが、垂直跳びは向上。

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最大筋力の発揮角度は伸展位に移った一方で、4週間のトレーニングを行なっても最大筋力の向上は見られませんでした。
 
 

一方で、垂直跳びの跳躍高は6.6%有意に向上しました。
 
 
OKCとCKCでの筋力発揮に違いがある
ノルディックハムは、非スポーツ選手はもちろんスポーツ選手でもある程度負荷の高いトレーニングの一つに入れられると思います。
ですが、この研究では最大筋力の増加は見られませんでした。
 
この結果について、この論文の著者であるClark教授は、
  • ノルディックハムCKC(クローズドキネティクチェーン)であったの対して、最大筋力の測定方法OKC(オープンキネティックチェーン)であったこと
  • ノルディックハムはエキセントリック収縮のトレーニングのため、コンセントリック収縮での筋力には影響が少なかったこと
を原因に挙げています。
 
実際に、CKCでの筋力発揮であり、反動時にエキセントリック収縮が加わる垂直跳びのパフォーマンスは向上しています。
 
また、違う論文でもノルディックハムはエキセントリックでの筋力発揮に効果があるのに対してコンセントリックの筋力にあまり影響を及ぼさなかったことを報告しています。(Mjolnes et al. 2004)*2
 
こういった理由から最大筋力の増加が見られなかったと、筆者は考察しています。
 
 

最大筋力の発揮角度の左右差は増大した

 
先ほど挙げたように、ノルディックハムにはより伸展位でハムストリングを働かせるようにするトレーニング効果があり、
これは、ハムストリング予防にポジティブな効果として考えられます。
 
一方で、ノルディックハムの問題点として、左右差が増大することもこの論文では挙げられました。
 
上のグラフは、最大筋力の発揮角度の左右差をトレーニング前後で比較したものです。
 
  • トレーニング前は、8.55°
  • トレーニング後では、9.16°
最大筋力の発揮角度は左右差が増加しています。
 
 

 
また、最大筋力でも左右差に関しても、論文中で筆者は取り上げていなかったものの、左右差が大きくなっているように見受けられます。
 
※しかし、このデータに関しては論文の筆者は取り上げていないので、有意差はなかったと考えられます。そのため、最大筋力に関してはは私の個人的な見解です。
 
 

左右差の増大が再発のリスクファクターになる可能性

ハムストリングの筋力の左右差は、これまでもハムストリング損傷の再発リスクファクターとして言われてきています。
また、Brockett et al.(2004)*3の研究でも、最大筋力を発揮する膝角度が左右で違うことはハムストリング損傷を経験した選手の再発リクスとして挙げられています。
 
左右ともに6°以上、最大筋力を発揮する膝角度が伸展位に移ったことに関しては、ノルディックハム・トレーニングの効果としてポジティブに考えられますが、
これらの左右差の増大に関しては、十分に考慮する必要があると言えます。
 
筆者は、ノルディックハムでは、先に屈曲位が得意な側の足を優位に使い、その後に伸展位が特異な側を優位に使う。というように左右交互に筋力を発揮している可能性を挙げています。
この場合は、元々伸展位が得意な側でよりエキセントリックの強い負荷がかかるため、左右差が増大すると想像がつきます。
 
これを避けるためにはユニラテラルで行うなどの工夫が必要でしょう。
 
 

まとめ

今回は、ノルディックハムのハムストリング再発予防に対するメリットとデメリットについて論文レビューをしてきました。
 
ノルディックハムは、
  • 最大筋力の発揮角度をより伸展位に移す
  • OKCコンセントリック収縮に対しては効果が低い
  • 一方で、最大筋力と最大筋力の膝角度の左右差を大きくする
 
この研究では問題点が挙げられましたが、Thorborg, K. et al.(2004)*4では、
ノルディックハムストリングトレーニングを取り入れることで、
  • アマチュア選手72%
  • アスリート60%
ハムストリング損傷を予防できたことを明らかにしています。
 
左右差の問題も、体幹を安定させて左右均等に負荷がかかるように工夫すれば解決できる可能性はあると思うので、より正しくノルディックハム・トレーニングを行うことで、ハムストリング損傷の予防はかなり防げると言っても過言ではないかもしれません。
 
 
 
 

参考文献

  • Clark, R., Bryant, A., Culgan, J. P., & Hartley, B. (2005). The effects of eccentric hamstring strength training on dynamic jumping performance and isokinetic strength parameters: a pilot study on the implications for the prevention of hamstring injuries. Physical Therapy in Sport, 6(2), 67-73.

*1:Brockett, C. L., Morgan, D. L., & Proske, U. W. E. (2004). Predicting hamstring strain injury in elite athletes. Medicine & Science in Sports & Exercise, 36(3), 379-387.

*2:Mjølsnes, R., Arnason, A., Østhagen, T., Raastad, T., & Bahr, R. (2004). A 10‐week randomized trial comparing eccentric vs. concentric hamstring strength training in well‐trained soccer players. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 14(5), 311-317.

*3:Brockett, C. L., Morgan, D. L., & Proske, U. W. E. (2004). Predicting hamstring strain injury in elite athletes. Medicine & Science in Sports & Exercise, 36(3), 379-387.

*4:Thorborg, K., Krommes, K. K., Esteve, E., Clausen, M. B., Bartels, E. M., & Rathleff, M. S. (2017). Effect of specific exercise-based football injury prevention programmes on the overall injury rate in football: a systematic review and meta-analysis of the FIFA 11 and 11+ programmes. Br J Sports Med, bjsports-2016.

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