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筋力左右差とH:Q比がハム損傷リスクにどれほど関係するか。【損傷予防】

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スポーツの怪我で最も多いのが「ハムストリングの肉離れ」です。
 
もちろん、スポーツによって怪我の傾向は変わりますが、
多くのスポーツでは、ハムストリング損傷が最もリスクが高い怪我と言われています。
 
ハムストリング損傷のリスクファクターはいくつか挙げられていますが、
どれがどれほど関係しているのかは、現在のエビデンスではまだ議論段階にあります。
 
そんな中でも、重大なリスクファクターなのではないか。と考えられているリスクファクターに以下のようなものがあります。
  • エキセントリック収縮での筋力
  • ハムストリングと大腿四頭筋の非理想的な筋力比(H:Q比)
 
というわけで今回は、
H:Q比の不均衡による怪我のリスクと改善による予防効果についての論文をレビューしていきます!
 
 
 
 
 

論文概要

今回は、2008年にAmerican Journal of Sports Medicineに掲載された、
 
「Strength imbalances and prevention of hamstring injury in professional soccer players: A prospective study」
 
という論文をレビューしていきます。
 
 

対象者

対象者は、ベルギー・ブラジル・フランスのプロサッカーチームに所属する選手462名で、
2000年~2005年の間にデータは測定されています。
 
 

研究デザイン

プレシーズンに、MVCを使って等速性エキセントリック収縮等速性コンセントリック収縮の筋力を、ハムストリング大腿四頭筋の両方で測定します。
 
左右差またはH:Q比の結果から、全選手の筋力インバランス有無をチェックします。
その後、以下のようにグループを分けて比較していきます。
 
  • A群:インバランスなし(n=246)
  • B群:インバランスあり - 改善トレーニングなし(n=91)
  • C群:インバランスあり - 改善トレーニングあり - インバランス改善確認テストなし(n=55)
  • D群:インバランスあり - 改善トレーニングあり - インバランス改善確認テストあり(n=70)
 
 
 

インバランス有無での怪我リスクの違い

 
まず、A~D郡のそれぞれの怪我のリスクは以下のようになりました。
 
  • A群:4.1%
  • B群:16.5%
  • C群:11%
  • D群:5.7%
 
この時点でも怪我のリスクの差を数字的に比較できますが、
続いて、各群で比較した時に、どの条件で統計的に差があったのかを紹介していきます。
 
 

各群の怪我のリスクの比較

 
各群でのリスクを統計的に比較した結果は上のようになりました。
 
統計的に、有意な差が見られたのは以下の3つのパターンでした。
  • 「インバランスなし」vs「インバランスあり - トレーニングなし」
  • 「インバランスなし」vs「インバランスあり - トレーニングあり - 確認テストなし」
  • 「インバランスあり - トレーニングなし」vs「インバランスあり - トレーニングなし - 確認テストあり」
 

インバランスがある場合、怪我のリスクは4倍以上。

まずこの研究で明らかになったのは、インバランスの有無による怪我のリスクの差です。
 
この研究では、インバランスがない群(A群)と比較して、インバランスがあり改善トレーニングもしなかった群(B群)では、怪我のリスクが約4.66倍に高まることが明らかになりました。
 
信頼区間を見ても、2.08倍〜10.8倍なので、
「少なく見積もっても2.08倍、多く見積もると10.8倍もリスクが高まる。」
と、この研究の結果ではされています。
 
左右の筋力差や、H:Q比の不均衡は、重大なリスクファクターと言えるでしょう。
 
 

インバランス改善による効果

もうひとつこの研究で明らかになったことは、確実にインバランスを改善することの重要性です。
 
この研究では以下のような結果も同時に明らかになっています。
  • インバランス改善の確認テストを行った場合、インバランスがない群と比べても怪我リスクの上昇はなかった。(A群vsD群)
  • インバランス改善を確認テストで管理した場合、インバランスがあり改善トレーニングをしなかった場合に比べて、有意に怪我のリスクが低かった。(B群vsD群)
 
つまり、
  • インバランスを改善すると、怪我のリスクを抑えることはできる。
  • しかし、トレーニング実施だけでなく、改善効果を管理することが重要。
ということです。
 
 
 
予防プログラムは遵守が重要
「予防プログラムをしっかり取り組むこと」と言えば当たり前のように聞こえますが、
プログラムの遵守は、実は予防効果得るために侮ってはいけない、重要な要素だと考えられています。
 
FIFA11+予防プログラムを導入した際の効果を検討した研究でも、
週5-6回行った研究(Grooms, D. R. et al. 2013)では、下肢の怪我率を82%減少できたと報告しているの対して、
履行率が不十分であった研究(Hammes, D. et al. 2015)では効果が見られませんでした。
 
リハビリと違い、予防プログラムは怪我をしていない時に行うので雑に行いがちになってしまうのが、やはり効果にも現れているのではないかと考えられます。
 
 

まとめ

今回は、筋力のインバランスがハムストリング損傷に与える効果についての論文を紹介していきました。
  • 筋力のインバランスがあると怪我のリスクが4倍以上になる。
  • インバランスを改善することで怪我のリスクは抑えられる。
  • しかし、確実に改善効果を管理することが重要。
 
筋力のインバランスは、重大なリスクファクターと考えられていますが、
ハムストリング損傷のリスクファクターでは、一つではない可能性は非常に高いです。
 
実際に、エキセントリックでの筋力もかなり重大視されていますし、
膝関節伸展位で筋力発揮できることなんかも近年挙げられ始めました。
 
怪我予防に関するまた違った研究もこれからまだまだ更新していきたいと思います!
 
 
 

参考文献

  • Croisier, J. L., Ganteaume, S., Binet, J., Genty, M., & Ferret, J. M. (2008). Strength imbalances and prevention of hamstring injury in professional soccer players: A prospective study. American Journal of Sports Medicine, 36(8), 1469–1475. https://doi.org/10.1177/0363546508316764
  • Hammes, D., Aus der Fünten, K., Kaiser, S., Frisen, E., Bizzini, M., & Meyer, T. (2015). Injury prevention in male veteran football players–a randomised controlled trial using “FIFA 11+”. Journal of sports sciences, 33(9), 873-881.
  • Grooms, D. R., Palmer, T., Onate, J. A., Myer, G. D., & Grindstaff, T. (2013). Soccer-specific warm-up and lower extremity injury rates in collegiate male soccer players. Journal of athletic training, 48(6), 782-789.
 
 
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