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ノルディックハムではハムストリング近位の筋線維は働かない

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近年、ハムストリング肉離れの予防トレーニングとしてノルディックハムが注目を集めていると思います。
 
ハムストリングの肉離れは、ハムストリングに過度なエキセントリック収縮が求められた時に起こることから、エキセントリック収縮での筋力発揮が怪我予防には重要と考えられています。
 
そういった中で、道具などを必要とせずグラウンドで行えるノルディックハムの注目度は上がってきているのだと思います。
 
ノルディックハムの効果を検証する研究もかなり多く出てきています。
ノルディックハムを取り入れたチームでは、ハムストリング肉離れの発生率をかなり下げることができるという研究も出ています。(Arnason, A. et al. 2008.)
 
この研究は以下の記事にてまとめています。
 
 
一方で、「本当にノルディックハムがベストなトレーニングなのか。」ということも同時に研究されており、問題点を上げる研究もいくつかあります。
 
というわけで今回は、
ノルディックハムによって働く筋肉の部位についての研究をレビューしていきます!
 
 
 
 
 

論文概要

今回は、2018年にScandinavian Journal of medicine & science in sportsという論文にて発表された、
 
「Region‐dependent hamstrings activity in Nordic hamstring exercise and stiff‐leg deadlift defined with high‐density electromyography」
 
という論文を参照していきます!
 
 

研究対象

この研究では、ストレングストレーニングの経験がある男性12名を対象としています。
また、ハムストリング損傷の既往歴はありません。
 
ストレングストレーニング経験者を被験者にすることで、トレーニングへの順応度の差を少なくすることができます。 一方で、トレーニングの効果を見たい場合にはストレングストレーニング非経験者を対象とする場合が多いです。
 
 

研究デザイン

大腿二頭筋長頭半腱様筋に沿って、筋電図のセンサーを1cm間隔で縦に15個並べて、各部位での筋電図の違いを関節します。
 
この筋電図は、ノルディックハム以外にもスティッフレッグ・デットリフトのエキセントリック動作でも測定して、
2つのトレーニングでの活動部位の違いを観察していきます。
 
 

ノルディックハムでの筋電図

(上:大腿二頭筋、下:半腱様筋、横軸:屈曲位→伸展位、縦軸:遠位→近位)
 
上のグラフは、ノルディックハムを行なった場合の筋電図です。
明るいところが筋電図の活動量が大きかった部位と関節角度です。
 
まず、ノルディックハムの負荷のかかり方を考えると、伸展位でより筋電図が活発になるのは納得できます。
80%ほど伸展した段階でピークになっているので、それぐらいから耐えられない被験者が増えていったんだな。というのが想像できます。
 
問題は、遠位でより活発になったのか、遠位でより活発になったのか、ということです。
 

活発になる部位の違い

活発になる部位には、大腿二頭筋(グラフ上)と半腱様筋(グラフ下)で違いがありました。
 
大腿二頭筋では主に遠位の筋線維が主に働いていました。
一方で、半腱様筋では中間の筋線維が主に働いていました。
 
 

スティッフレッグ・デッドリフトでの筋電図

(上:大腿二頭筋、下:半腱様筋、横軸:屈曲位→伸展位、縦軸:遠位→近位)
 
比較対象として、スティッフレッグ・デッドリフトのエキセントリック動作での筋電図が上のグラフです。
 
まず、横軸の筋力を発揮する関節域で見ると、ノルディックハムに比べて関節域全体で筋力が発揮されているのが分かります。
これも、スティッフレッグ・デッドリフトの負荷のかかり方から考えて想像がつくところだと思います。
 
 

活発になる部位の違い

一方で、活発になる部位の違いを見ると、
 
大腿二頭筋では、近位以外の遠位から中間部にかけての部位が筋発揮が優位になり、
半腱様筋では、やや近位寄りの中間部で優位になっていました。
 
 

ハムストリング損傷は主に近位で起こる。

この論文のテーマは、
ノルディックハムがハムストリング肉離れに対して特異的なトレーニング方法なのか。
ということでした。
 
これまでの研究で、ハムストリング肉離れの損傷部位は、大腿二頭筋の長頭で最も多く、次いで半膜様筋半腱様筋という順番で頻度が高く、
また、大腿二頭筋と半膜様筋は近位で起こりやすいということが明らかにされています。(Carl M Askling. et al. 2012.)
 
つまり、
近位でのエキセントリックな筋発揮を向上することが出来るか。
ということがハムストリング肉離れの予防で最も重要であると現在のスポーツ科学界では考えられています。
 
 

ノルディックハムは完璧とは言えない。

ノルディックハムは、エキセントリックな筋発揮を向上させることは、すでに明らかにされており(Clark, R. et al. 2004.)、
その点に関して言えば、ノルディックハムは有効な方法だと言えます。
 
しかし、同論文でも左右差が増大する問題点が挙げられていました。
 
今回の論文では、これに加えて近位での筋発揮に関しても疑問が残る。という結果になりました。
 
こういったことから現状では、
  • ノルディックハム以外にもっとベストなトレーニング方法があるのでは?
  • フォームなど工夫する必要性はあるのではないか?
という疑問が残っています。
 
 

この研究の問題点

今回の研究では、ノルディックハムでの筋発揮は遠位で主に起こり、近位での効果は薄いことが明らかになりました。
 
ですが。
ここでの注意しなければならないのが、大腿二頭筋には短頭もあるということです。 
 
今回の研究では、筋電図を使っています。
論文中では、大腿二頭筋長頭(BFlh)の筋電図を取っているという風になっていますが、おそらく短頭の筋電も含まれていると考えられます。
 
とすると、大腿二頭筋の筋電図が遠位で強く出るのは、長頭+短頭の両方が働いているからなのでは?ということも考えられます。
(これに関しては筆者も言及しています。その割に同じ方法での後続研究を推しています。笑)
 
むしろ、近位で損傷しやすいのは近位には長頭しかないっていう解剖学的構造の問題なのでは?とか個人的には思ったりしています。
 
 

まとめ

今回は、筋電図からノルディックハムのハムストリング肉離れに対する特異性について述べてきました。
  • ノルディックハムでは、遠位で筋発揮が強くなる。
  • ハム肉離れが近位で主に起こることから、予防効果としては完璧とは言えない。
  • 短頭の影響が問題点として挙げられる。
 
こう言うと、ノルディックハムが効果的なんて嘘だったのか。思われそうですが、
ノルディックハムを取り入れることのメリットは確実視されています。
実際に、FIFA11+予防プログラムにノルディックハムは含まれています。
 
ただ、「完璧」ではない。ということです。
 
言い換えれば、怪我予防にはまだ可能性が残っている!ということです。
伸び代ですね。
 
以上です!
 
 

参考文献

  • Hegyi, A., Peter, A., Finni, T., & Cronin, N. J. (2018). Region‐dependent hamstrings activity in Nordic hamstring exercise and stiff‐leg deadlift defined with high‐density electromyography. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 28(3), 992-1000.
  • Clark, R., Bryant, A., Culgan, J. P., & Hartley, B. (2005). The effects of eccentric hamstring strength training on dynamic jumping performance and isokinetic strength parameters: a pilot study on the implications for the prevention of hamstring injuries. Physical Therapy in Sport, 6(2), 67-73.
  • Arnason, A., Andersen, T. E., Holme, I., Engebretsen, L., & Bahr, R. (2008). Prevention of hamstring strains in elite soccer: an intervention study. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 18(1), 40-48.
  • Askling CM, Malliaropoulos N, Karlsson J High-speed running type or stretching-type of hamstring injuries makes a difference to treatment and prognosis Br J Sports Med 2012;46:86-87.
 
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