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ハムストリング肉離れのリスクファクター【最新エビデンス】

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ハムストリングの肉離れは多くのスポーツで見られる最も典型的な怪我だと思います。
実際に、サッカーにおいて最も頻繁に起こる怪我は「ハムストリングの肉離れ」だとFIFAの研究チームからも報告されています。
 
つまり、ハムストリングの肉離れによるチーム・クラブへの損害はかなり大きいというのが現実です。
(ハムストリングの怪我1回おこることで起こるチーム面・経済面の影響を調べた研究をまたの機会に紹介しようと思います。)
 
では、ハムストリングの肉離れを防ぎたいと考えた時に、
「何がハムストリングのリスクファクターなんだ。」
ということでしょう。
 
というわけで今回は、
ハムストリング損傷のリスクファクターについてのエビデンスレビューをしていきます。
 
 
 
 
 

論文概要

 
今回は、2013年にBritish Journal of Sports Medicineにて発表された
 
「Risk factors for hamstring muscle strain injury in sport: A systematic review and meta-analysis」
 
という論文をレビューしていきます。
 
 
2013年の研究を「最新」って呼んじゃっていいのか?と思われるかもしれませんが、リスクファクターの研究はかなり闇期に入っているイメージなので、リスクファクターを包括的に調べた論文はこれが最新になります。
 
 

対象研究とデザイン

この論文は、システマティックレビューと言われる論文です。
 
プレシーズン等にリスクファクターと考えられるデータを測定し、その後の怪我の発生率を集計する形の前向きコホート研究を対象に、研究結果をまとめています。
 
また、各研究の質の評価は、CASP (The Critical Appraisal Skills Programme)によって行なっています。
 
PRISMAで研究評価やしてないところ、この分野はまだまだ研究が不十分だってことが読み取れます。
 
 

研究結果

先に研究結果を言ってしまうと、
このシステマティックレビューでは以下の3つのリスクファクターが、ハムストリング肉離れのリスクと統計的有意に関係していると報告されました。
  • 年齢
  • 既往歴
  • 大腿四頭筋の最大筋力
 
 
 

年齢増加の影響

 
まず、年齢が増加することでハムストリングの肉離れを起こすリスクが高まるということが明らかにされました。
 
年齢の増加とハムストリング損傷リスクとの関係性はほとんどの研究で見解が一致しており、
この論文に含まれた17件のうち、年齢による影響に統計的有意な関係性が見られなかったのは2件のみでした。
 
また年齢とハムストリング損傷との関係性は、2006年と2009年に行われたシステマティックレビューでも統計的に有意な関係性が見られています。
(Foreman TK, Addy T, Baker S, et al. 2006, Prior M, Guerin M, Grimmer K. et al. 2009)
 
年齢の増加による影響に関してVerrall GM et al. (2001)では、
年齢が1年上がるごとに、ハムストリングの損傷リスク(RR)は30%づつ上昇するという風に報告されています。
 
 

年齢増加の影響に対する注意点

年齢が増加すると損傷リスクが高まることを否定する理由はどこにもないのですが、
年齢が”直接的に”ハムストリング損傷に影響しているというわけではないということを忘れてはなりません。
 
年齢は所詮「ただの数字」です。
つまり、年齢の増加によって何かが変わったから、ハムストリング損傷のリスクが高まっています。
 
ただ、それが筋力低下なのか、体重・BMIの増加なのか、負荷への耐疲労能なのかは現状のエビデンスでははっきりとはしていません。
「相関関係は見つかったが、因果関係は分からない」というやつです。
 
 
 

既往歴の影響

 
続いて、ハムストリングの既往歴もハムストリングの損傷リスクを有意に上昇させることが明らかにされました。
 
既往歴も年齢と同じく、ほとんどの研究で一致した見解となっています。
また、これまでのシステマティックレビューの内容とも一致する内容となっています。
 
加えて、既往歴のメタ解析に関してポジティブな統計結果として注目していただきたいのが、異質性(heterogeneity)が低いことです。(I2 = 22~29%)
こういったことから、かなり信頼性の高い結果と言って大丈夫だと思います。
 
ちなみに、ハムストリング損傷から復帰して8週間の間は特に再発リスクが高く、通常の6.33倍のリスクがあり、再発の半分以上がこの8週間以内に起こるとも報告されています。(Orchard JW et al. 2001)
 
異質性とは、研究間の結果のばらつきのことです。これが低いということは研究結果の再現性が高く、より信頼できるデータであるということです。
 
 

他の怪我の既往歴によるハムストリング損傷リスク

ハムストリング損傷自体の既往歴以外に、他の怪我の既往歴がハムストリング損傷のリスクファクターになると報告している研究もいくつかあります。
 
Malliaropoulos N et al. (2011)では、下腿の怪我既往歴が、
Verrall GM et al. (2006)では、膝関節の損傷恥骨炎が、リスクファクターとなると報告されています。
 
しかし、これらの既往歴は”恐らく”フォームなどが変化することによって、ハムストリングへの負担を増加させると考えられていますが、その因果関係は明らかではありません。
これもいわゆる、相関関係のみが見つけられているやつです。
 
 

大腿四頭筋の最大筋力の影響

 
続いて、大腿四頭筋の最大筋力が増加するとハムストリング損傷のリスクが高まることも今回のシステマティックレビューでは明らかにされました。
 
しかしこれは、これまでの研究とは一致していない見解です。
また、SDM(Standardized mean difference)が0.43と中程度の影響しか見いだせていないということ、
またメタ解析に用いられた研究数も4件のみと、信頼性にかける点に注意が必要です。
 
実際に、2017年に出された筋力とハムストリング損傷リスクへの影響に絞ったシステマティックレビューではこの関係性は否定的な見解が述べられています。(Van Dyk, N et al. 2017)
 
 
 

まとめ

 
これまでの話をまとめますと、こんな感じの研究結果でした。
  • 既往歴は、異質性も低く直接的なリスクファクターと言っても大丈夫そう。
  • 年齢もリスクファクターであることは確かだから、因果関係は分からない
  • 筋力や柔軟性に関しては未だ意見が分かれる。
 
この研究では、有意な関係性は見られなかったがリスクファクターとなる可能性が高い要因に「ハムストリングの柔軟性」があります。
 
ハムストリングの柔軟性は、これまでのシステマティックレビューでは統計的に有意な関係性が見られており、この研究でもその”傾向"は見られていました。(p=0.08)
こういったことから、筆者はリスクファクターとなり得る可能性が高いと考察しています。
 
 

まだまだ分かっていないことしかない

自分の知る限りでは、この研究がハムストリング損傷のリスクファクターを包括的にまとめた最も最新のエビデンスです。
 
他にも、H:Q比ハムストリングの筋力低下など色々なリスクファクターが思いつくと思いますが、筋力や柔軟性に関しては、研究によって結果のばらつきが激しく意見がまとまっていません。
なので、これらに関しては実際どうなのか何とも言えないのが現状です。
 
ハムストリングの肉離れと一言に言っても、
受傷機転や部位などによって全然違う性質の怪我なんじゃないのか。
という意見の研究者もいます。
 
他にも予防プロトコルの効果を直接的に調べた研究などもあるので、
現状はメカニズムから掘り下げていくより、エビデンスの出ている研究を取り入れていく方が手っ取り早いかもしれません。
 
 

参考文献

  • Freckleton, G., & Pizzari, T. (2013). Risk factors for hamstring muscle strain injury in sport: A systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine, 47(6), 351–358. https://doi.org/10.1136/bjsports-2011-090664
  • Verrall GM, Slavotinek JP, Barnes PG, Fon GT, Spriggins AJ. Clinical risk factors for hamstring muscle strain injury: a prospective study with correlation of injury by magnetic resonance imaging. Br J Sports Med. 2001;35(6):435-440.
  • Orchard JW. Intrinsic and extrinsic risk factors for muscle strains in Australian football. Am J Sports Med. 2001;29(3):300-303.
  • Malliaropoulos N, Isinkaye T, Tsitas K, et al. Reinjury after acute posterior thigh muscle injuries in elite track and field athletes. Am J Sports Med 2011;39:304–10.
  • Verrall GM, Slavotinek JP, Barnes PG, et al. Assessment of physical examination and magnetic resonance imaging findings of hamstring injury as predictors for recurrent injury. J Orthop Sports Phys Ther 2006;36:215–24.
  • Van Dyk, N., Bahr, R., Burnett, A. F., Whiteley, R., Bakken, A., Mosler, A., … Witvrouw, E. (2017). A comprehensive strength testing protocol offers no clinical value in predicting risk of hamstring injury: A prospective cohort study of 413 professional football players. British Journal of Sports Medicine, 51(23), 1695–1702.
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