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組織の治癒に必要な期間|靭帯・腱・骨・軟骨

 
スポーツでは、様々な組織が怪我を起こします。
 
それぞれの組織はそれぞれの特徴から、異なった治癒過程を経ます。
その結果、治癒に要する期間は組織によって異なってきます。
 
 
以下の記事では、筋組織神経組織の治癒とその期間いついてまとめました。
 
 
というわけで今回は、
結合組織の治癒とその期間について解説していきます。
 
 
 
 
 

結合組織の治癒

結合組織の治癒は、原則は「修復」という治癒過程によって行われます。
 
しかし、骨癒合という独自の治癒過程を行うことから治癒期間にばらつきがあり、
軟骨血液供給によって期間が変化します。
 
 
結合組織の詳しい治癒メカニズムについては以下の記事で。
 
 

靭帯の治癒

 
靭帯の治癒過程は、以下の要因によって阻害される可能性があります。
  • 炎症段階での内圧の上昇
  • 不適切な瘢痕の形成
  • 隣接する部位への瘢痕の付着
 
 
靭帯の治癒を阻害する要因
炎症段階において腫脹が生まれると炎症部位の内圧が上昇し、
血管が圧迫されることによる血液供給不足や、リンパ循環の低下が起こります。
これらは、組織の炎症段階を長引くことに繋がります。
 
瘢痕組織の形成異常としては、「拘縮」「癒着」が挙げられます。
拘縮では、過剰に瘢痕が形成されることによって瘢痕のリモデリングに期間を要します。
癒着では、隣接する健全な組織も瘢痕化されることによって可動域制限筋力低下が生じます。
 
また、それ以外に慢性的な炎症によって瘢痕が十分に形成されれないことも起こり得ます。
 
 
靭帯治癒のタイムスケール
靭帯は、通常の修復過程によって修復されます。
 
修復では、6週間程度瘢痕組織が十分に形成されます。
その後、組織に再度負荷をかけることで瘢痕組織がリモデリングされ、8週間程度で靭帯として機能するようになります。
 
微細損傷の場合は、残っている靭帯が十分に関節の安定性を保持できるため、炎症段階が終了すると同時にプレーすることができます。
しかし、再発のリスクに注意する必要があるでしょう。
 
 

腱の治癒

 
腱は、靭帯と同じ修復過程を経ます。
そのため、靭帯と同様の要因が、腱の治癒を遅延させる原因となります。
 
 
腱の治癒での問題
腱は筋肉によって負荷を頻繁に負荷が掛かることから、靭帯と比較して余分に線維芽細胞を活性化させ、コラーゲン線維を合成します。
 
その結果、線維芽細胞がより増殖したことで、瘢痕組織の形成を早め、組織の強度を早い段階で獲得することができます。
しかし、靭帯に比べて組織のリモデリングに多くの時間を要します。
 
また、筋肉などの組織に癒着を生じる可能性が高くなります。
 
 
腱治癒のタイムスケール
腱は、2~3週間程度で線維組織が形成され、4~5週間程度で筋収縮に耐えうる強度になります。
 
その後、リハビリテーショントレーニングを行い腱がリモデリングされるまでに8週間程度必要です。
 
靭帯や腱は、適切なリモデリングを行えば本来の組織に近い強度まで回復しますが、完全に本来の組織の強度を取り戻すことはないと言われています。
 
 

骨の治癒

 
骨は結合組織ですが、骨癒合という独自の治癒過程によって「再生」します。
 
靭帯や腱などの「修復」による治癒では、損傷した組織を部位に新しい組織を形成するのに対して、
骨組織などの「再生」では、損傷した組織を作り治します
 
そのため、再生では本来の組織の強度を取り戻すことができます。
 
 
骨の治癒メカニズムに関しては以下の記事で。
 
 
骨癒合のタイムスケール
骨の治癒期間は、以下の要因によってタイムスケールが異なります。
 
  • 損傷部位の大きさ(重症度)
  • 損傷部位の血液供給
 
典型的な長骨の治癒では、3~6週間で仮骨が形成されます。
その後、リモデリングが開始され、約8ヶ月で完全に治癒します。
 
一方で、手の骨のような短骨では3週間程度
複雑骨折の場合は、2~3年掛かる場合もあります。
 

例外として手の舟状骨では、血液供給が乏しく再生能力が弱いまたは再生しないということが起きます。

 
 

軟骨の治癒

 
軟骨は、骨とは違い結合組織本来の修復によって治癒します。
 
しかし、軟骨組織には血液供給が乏しく、炎症反応が起きにくいため治癒能力が非常が乏しい組織です。
 
 
軟骨治癒のタイムスケール
軟骨の治癒期間は、損傷部位の血液供給に左右されます。
 
典型的な例としては、半月板の損傷があります。
半月板では、関節中央部に近い部分は血液供給がほとんどなく、修復はほとんど望めません。
しかし、外縁に違い部分では血液供給が幾分かあるため、修復が見込めます。
 
 
軟骨下骨の損傷を伴う場合
軟骨下骨の損傷を伴う場合、骨の損傷によって出血が起きます。
出血した血液は軟骨にも届き、軟骨でも炎症反応を起こします。
 
そのため、軟骨下骨も損傷した場合は、他の結合組織と同様に軟骨も修復することができます。
その場合、6~8週間程度で修復します。
 
このメカニズムを用いて、治癒が難しい軟骨に対して、軟骨下骨を人口的に損傷させる手術があります。
 
 

まとめ

以上が結合組織の治癒とその期間でした。
 
  • 靭帯と腱は、約8週間程度で治癒過程を終える
  • 腱は、靭帯より線維芽細胞が活発に働く
  • 骨は、損傷サイズ血液供給によって期間が変わる
  • 軟骨は、血液供給が乏しく修復能力が低い。
 
次回は、筋組織神経組織の治癒とその期間について解説していきます。
 
 

ヒトを構成する組織の分類|上皮組織・結合組織・筋組織・神経組織

 
人は細胞から構成されています。
その細胞はいくつか集まって、「組織」を形成します。
 
Wikipediaでは、組織のことを以下のように定義しています。
 
何種類かの決まった細胞が一定のパターンで集合した構造の単位のことで、全体としてひとつのまとまった役割をもつ。生体内の各器官(臓器)は、何種類かの組織が決まったパターンで集まって構成されている。Wikipedia -組織(生物学)-<

 

このように、細胞がいくつも集まって「組織」となることで初めて一つの役割を担うことができます。
更に、この役割を組み合わせることで臓器は機能するということです。
 
ヒトを会社で例えると、部署が臓器で、係や課が組織、そして従業員が細胞といったところでしょう。
 
会社には係や課がいくつか種類があるように、人の組織にもいくつかの種類があります。
 
というわけで今回は、
ヒトを構成する組織の種類について解説していきます。
 
 
 
 
 

組織の種類

 
 
人を含む動物を構成する組織は、以下の4つの種類があります。
  • 上皮組織
  • 筋組織
  • 神経組織
  • 結合組織
 
 

上皮組織

上皮組織とは、皮膚のように私たちの組織を覆う組織です。
多くの上皮組織は「内と外の仕切り」のような役割を担います。
 
内分泌腺などの分泌腺は上皮組織が変化したものと考えられており、例外的に上皮組織に含まれます。
 
 

筋組織

筋組織は、想像の通り筋肉を構成する組織です。
 
筋組織の基本単位となる筋細胞は、筋原繊維が何本も束なってできたものです。
筋組織は、収縮性を生むというのが最大の特徴です。
 
腱は筋組織には含まれないので注意してください。
 
 

神経組織

神経組織も想像の通り、神経を構成する組織です。
 
神経細胞によって支配され、電位の伝達を行うことが特徴です。
しかし、グリア細胞のように電位の伝達を行わない神経細胞も神経組織に分類されます。
 
 

結合組織

結合組織は、これらの組織間を埋めることで組織の強度や安定性を支える組織です。
簡単にまとめると、その他の組織ともいうことができます。
 
靭帯のような組織は結合組織であることは理解しやすいと思いますが、血液も血管内を埋める結合組織とされます。
また、も結合組織の一種です。
 
しかし骨は、骨芽細胞という独自の細胞を持つことで骨癒合という独自の治癒過程によって行われるため他の結合組織とは区別されます。
 
 

まとめ

以上がヒトの組織の分類でした。
 
これらの4つの組織の中でも、特徴によって様々に分類することができます。
例えば結合組織なら、脂肪組織、軟骨組織、骨組織といった様々な種類の組織に分けられます。
 
今後また、そいういった分類の記事も書きます!
 
 

グロインペイン症候群のリスクファクターとは?

 
様々な原因が絡み非常に厄介なことで名高いグロインペイン症候群ですが、
近年、グロインペインの研究も盛んになり、メカニズムも少しずつ解明されてきました。
 
2014年にはThe First World Conference on Groin Pain in AthletesではDoha agreementが定められ、そこでグロインペインの分類が定義されました。
 
 
Doha agreementは以下の記事を参照ください。
 
 
そんな中で、グロインペインには体幹安定性内転筋群筋力などが関係していることが明らかにされています。
 
と言うわけで今回は、
グロインペインのリスクファクターについての論文をレビューしていきます!
 
 
 
 
 

論文概要

今回は、2010年にThe American Journal of Sports Medicineに掲載された、
 
「Intrinsic risk factors for groin injuries among male soccer players: a prospective cohort study」
 
という論文をレビューしていきます。
 
 

対象者

この研究では、ノルウェーのアマチュアサッカーチーム31チームを対象に研究を行なっています。
 
 

研究デザイン

2004年のプレシーズンにおいて、グロインペインのスクリーニングを行う質問紙を行い、既往歴と機能性スコア(GrOS)を収集し、
加えて、鼠径部の臨床テストを行います。
 
その後のシーズンでのグロインペインの症例と質問紙と臨床テストの結果から、グロインペインのリスクファクターを検討するコホート研究です。
 
 

内転筋の筋力低下と既往歴がグロインペインのリスクファクター

 
この研究で得られた結果からは、以下の2つのリスクファクターがグロインペインの発症リスクが有意に高めることが明らかにされました。
  • 急性グロインペインの既往歴がある場合、2.60倍 (95% CI, 1.10-6.11)
  • 内転筋の筋力低下が見られた場合、4.28倍 (95% CI, 1.31-14.0)
 
 

筆者の考察

グロインペインは、サイドカッティング動作、鋭い加速・減速・方向転換などによって誘発されるとこうことが明らかにされています。(Morelli V, et al. 2005)
 
しかし、内転筋の長さはグロインペインのリスクファクターとならないとする研究があり、(Thacker SB, et al. 2004)
また、股関節外転の柔軟トレーニングはグロインペインの予防効果がないとする先行研究が出ています。(Witvrouw E, 2003)
 
こういったことから、内転筋に関連するグロインペインは、内転筋が単純に伸張されることによって起こるわけではなく、
外転筋と内転筋が協働する中で、内転筋の筋力低下によって内転筋がエキセントリックな負荷に耐えられないことは原因となり得ると説明できます。
 
 

急性グロインペインは、瞬発的な選手に多い。

今回の研究で見られたグロインペイン症候群では、急性が22症例慢性が39症例でした。
 
ここで、休養が必要となる必要となる急性グロインペインの21症例に絞ると、以下のようなリスクファクターも明らかにされました。
  • 40mのスプリントのタイム低下 (2.03; 95% CI, 1.06-3.88; P = .03)
  • 腹直筋の収縮時痛 (15.5; 95% CI, 1.11-217; P = .04)
 
 

筆者の考察

この結果に対して筆者は、
40mスプリントのタイム低下から、急性グロインペインは瞬発的な運動に起因することが示唆されます。
つまり、瞬発的な選手は急性グロインペインの発生リスクが高いことが示唆されるとしています。
 
加えて、急性グロインペインの発症に関しては、既往歴はそれほど関係ないと考察しています。
 
 

まとめ

以上が、グロインペインのリスクファクターにつての論文レビューでした。
 
 
グロインペインは、一度なってしまうと対応しにくく
また、治ってもリハビリが難しいため再発のリスクも高いというのが特徴的です。
 
そのため、予防プログラムを行なって発症リスクを最小限に抑えることが今後の研究の方針になると考えられます。
 
と言うわけで次回は、グロインペインの予防プログラムの効果の論文をレビューしていきます!
 
 

参考文献

  • Engebretsen, A. H., Myklebust, G., Holme, I., Engebretsen, L., & Bahr, R. (2010). Intrinsic risk factors for groin injuries among male soccer players: a prospective cohort study. The American Journal of Sports Medicine, 38(10), 2051-2057.
  • Morelli V, Weaver V. Groin injuries and groin pain in athletes: part 1. Prim Care. 2005;32:163-183.
  • Thacker SB, Gilchrist J, Stroup DF, Kimsey CD Jr. The impact of stretching on sports injury risk: a systematic review of the literature. Med Sci Sports Exerc. 2004;36:371-378.
  • Witvrouw E, Danneels L, Asselman P, D’Have T, Cambier D. Muscle flexibility as a risk factor for developing muscle injuries in male pro- fessional soccer players: a prospective study. Am J Sports Med. 2003;31:41-46.
 

2014年Doha agreementで定義されたグロインペイン症候群の分類

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スポーツで起こる怪我の中でトップクラスに厄介な怪我にグロインペイン症候群があると思います。
 
グロインペイン症候群とは一言に言っても、
原因はあまり分かっておらず、その定義すらも曖昧です。
 
医療従事者でも、グロインペイン症候群はどういった風に原因と症状を分類するのかと言うのが非常に厄介な怪我と言えます。
 
そんな背景から、2014年にThe First World Conference on Groin Pain in Athletesがドーハで開かれ、グロインペインの分類を定義するDoha agreement(ドーハ協定)が定められました。
 
と言うわけで今回は、
Doha Agreementの内容について解説していきます。
 
 
 
 

グロインペインの分類 

 Doha agreementの最も重要な内容は、グロインペインの知見を広めていくために、まずグロインペインの原因を分類しようというものです。
 
その結果、まず以下の3パターンに分類するという風になりました。
  • 臨床事象によって定義されるグロインペイン(内転筋群、腸腰筋、鼠径靭帯、恥骨結合に関連するグロインペイン)
  • 股関節に関連するグロインペイン
  • その他の原因によるグロインペイン
 
Classification system
1. Defined clinical entities for groin pain: Adductor-related, iliopsoas-related, inguinal-related and pubic-related groin pain
2. Hip–related groin pain
3. Other causes of groin pain in athletes
Doha agreement (2014) より
 
 

臨床事象によって定義されるグロインペイン

 
Defined clinical entities for groin pain;臨床事象によって定義されるグロインペインとは、
臨床の中で症状を見ることができるグロインペインです。
 
これは、以下の4つの原因が含まれます。
  • 内転筋群に関連するグロインペインの定義
  • 腸腰筋に関連するグロインペインの定義
  • 鼠径に関連するグロインペインの定義
  • 恥骨に関連するグロインペインの定義
 
 
内転筋群に関連するグロインペインの定義
内転筋に関連するグロインペインは以下のような症例が分類されます。
 
  • 内転筋の圧痛
  • 内転筋収縮ステストでの疼痛
両方が見られる場合。
 
 
腸腰筋に関連するグロインペインの定義
腸腰筋に関連するグロインペインは以下のような症例が分類されます。
 
  • 腸腰筋の圧痛
  • 腸腰筋収縮テストでの疼痛 or 腸腰筋ストレッチでの疼痛
両方が見られる場合。
 
 
鼠径に関連するグロインペインの定義
鼠蹊部に関連するグロインペインは以下のような症例が分類されます。
 
  • 鼠径管あたりの疼痛
  • 鼠径管あたりの圧痛
  • 触診できる鼠径ヘルニアが見られないこと。
全て満たす場合。
 
鼠径管に関連するグロインペインは、加えて、腹筋群収縮時またはヴァルサルバ法、咳、くしゃみによる痛みがあることが多いとされています。
 
 
恥骨に関連するグロインペインの定義
内転筋に関連するグロインペインは以下のような症例が分類されます。
 
  • 恥骨結合と隣接する骨の圧痛がある場合。
 
恥骨に関連するグロインペインを鑑別できるレジスタンステストはないとされています。
 
 

股関節に関連するグロインペイン

股関節に関連するグロインペインは以下のテストによって鑑別することが推奨されています。

  • 股関節スペシャルテスト(股関節屈曲 - 外転 - 外旋;FABER)
  • 股関節屈曲 - 内転 - 内旋 テスト(FADIR)
 
股関節に関連するグロインペインの識別は非常に難しく、グロインペインでは常に股関節に起因する痛みも併発していることを考慮する必要があります。
 
ここでは、痛みの発症、性質、部位が重要な手がかりであり、キャッチング、ロッキング、クリッキング、膝くずれのような症状が特徴的です。
 
 

その他の原因によるグロインペイン

 
グロインペインの原因となる例は、これ以外にも数多く確認されています。
その例が上の表にある通りです。
 
  • 神経絞扼
  • 関連痛
  • 剥離骨折
  • 疲労骨折
  • 鼠蹊部リンパ節腫脹
  • 腹部内異常
  • 婦人科的状態
  • 脊椎関節障害
  • その他腫脹
 
これら以外にもグロインペインの原因となり得る要因はあるので注意が必要です。
 
 

まとめ

以上が、Doha agreementでまとめられたグロインペインの分類の定義です。
 
グロインペインはまだまだ分かっていることは少ないですが、
  • キック動作の多いスポーツでリスク高いことや、
  • 全体の2/3の症例で内転筋関連の原因を含むことなど
徐々に明らかにされています。
 
今後は当分、グロインペインのことについてまとめていきます。

骨組織の血液供給|栄養動脈・骨端動脈・骨幹端動脈・ハバース管

 
骨折などの外傷が起こると、損傷部位に血液が集中し、白血球やマクロファージといった細胞が組織の炎症を消散することで次の治癒段階へと組織の修復・再生を進めることができます。
 
骨組織は、他の結合組織と違い骨癒合という独自の治癒過程によって再生を行いますが、
損傷部位が炎症し、その後血腫によって炎症が消散される過程は他の結合組織と同じ過程によって行われます。
 
つまり、骨組織の再生に血液が必要です。
そのため、骨組織の血液供給によって治癒過程は左右されます。
 
というわけで今回は、
骨組織における血液供給について解説していきます!
 
 
 
 

ハバース管とフォルクマン管

 
骨組織の大部分は、緻密質な皮質骨と多孔性の海綿骨によって構成されています。
 
多孔性の海綿骨では、空洞をとって血管が通っており、血液を供給することができます。
 
一方で、緻密質な皮質骨では、ハバース層板介在層板が緻密に並んでおり、
血液が自由に通る隙間はありません。
 
そのため、皮質骨部分にはハバース管フォルクマン管という2つの空洞が存在し、その中を血管神経が通れるようになっています。
 
 
詳しい骨組織の微小構造の話は以下の記事を参照ください。
 
 

栄養動脈と骨膜動脈と骨端動脈

 
骨組織に血液を供給する動脈は以下の3つに分類されます。
  • 栄養動脈
  • 骨膜動脈
  • 骨端・骨幹端動脈
 
 

栄養動脈

栄養動脈は、骨全体に血液を供給する動脈です。
 
影響動脈は、栄養孔という通路から皮質内に入り、
フォルクマン管を通じてより内側に、
ハバース管を通じてより長軸方向に血液を供給していきます。
そして、最終的には骨内膜や髄腔内の黄色骨髄に血液を供給します。
 
その後、皮質骨内に戻りフォルクマン管やハバース管を通って骨外へと静脈によって運び出されます。
 
 

骨膜動脈

骨膜動脈は、骨膜に集中的に血液を供給する動脈です。
写真にはありませんが、骨膜と皮質骨の間に網目状に存在します。
 
骨膜動脈は、骨折した際の主な血液の供給源となり、骨膜の深層に存在する骨芽細胞や浅層に存在する前骨芽細胞が働くための栄養を供給します。
 
骨膜に血液を供給後は、皮質に入り栄養動脈と交わり骨全体に血液を供給します。
 
 

骨端・骨幹端動脈

骨端動脈および骨幹端動脈は、骨端と骨幹端にのみ独占的に血液を供給します。
皮質骨に入り、ハバース管・フォルクマン管を通ったのち、海綿骨内赤色脊髄に血液を供給します。
 
成長期では、骨端動脈と骨幹端動脈が骨端線に栄養を供給しています。
 
 

まとめ

以上が、骨組織における血液供給でした。
 
  • 栄養動脈は骨全体に血液を供給している。
  • 骨膜動脈が骨折時には主な血液供給源となる
  • 骨端動脈・骨幹端動脈は骨端線に血液を供給している。
 
 
以上です!
 
 

骨組織の細胞|骨芽細胞・破骨細胞・前骨芽細胞・ヴォルフの法則

 
骨細胞は、不安定細胞に分類されるほどターンオーバーが頻繁な細胞です。
 
実際に、骨芽細胞の破骨細胞が骨形成と骨吸収を頻繁に行うことで、骨は常に環境に適して強度や構造を変わります。
 
こういった骨の適応能力は、骨に関わる細胞の働きが関係してきます。
 
という訳で今回は、
骨組織に関する細胞とその働きについて解説していきます!
 
 
 
 

骨組織に関係する細胞

 
骨組織に関係する細胞には以下の4種類があります。
  • 前骨芽細胞
  • 骨芽細胞
  • 骨細胞
  • 破骨細胞
 
 

前骨芽細胞

前骨芽細胞は、名前の通り骨芽細胞の前駆細胞です。
間葉細胞とも呼べ、前骨芽細胞が分化することで骨芽細胞が増殖します。
 
つまり、前骨芽細胞の分化が促進すると骨芽細胞が増加し、骨芽細胞による骨形成が促進されることになります。
 
前骨芽細胞は、骨膜骨内膜に存在します。
骨膜や骨内膜に刺激が加わると前骨芽細胞にも刺激が入り、骨芽細胞の増加→骨形成の活性化というプロセスが進みます。
 
 

骨芽細胞

骨芽細胞は、骨形成を行う細胞です。
具体的には、コラーゲン線維の合成コラーゲン線維を石灰化することによって骨形成を行なっています。
 
骨芽細胞は、アンドロゲンエストロゲンの受容体があります。
そのため、閉経後の女性ではエストロゲンの分泌が低下し、骨形成が弱まります。
これによって、閉経後の女性では骨粗鬆症のリスクが高まります。
 
 

骨細胞

骨細胞は、骨単位内の骨小腔に存在し、骨組織の状態管理を行う役割を担っています。
骨組織は、骨細管という通路を通して連絡しあっており、これによって付近の骨組織の状態を管理しています。
 
これによって骨のリモデリングを管理しています。
 
 

破骨細胞

破骨細胞は、骨芽細胞と対抗して骨の破壊、つまり骨吸収を行なっています。
具体的には、骨組織の脱ミネラル化によって非骨化を行なっています。
 
破骨細胞は、名前からネガティブなイメージを抱きがちですが、破骨細胞が骨吸収を行うことで、骨芽細胞は新たな骨形成を行うことができます。
 
 

ヴォルフの法則(Wolff’s low)

骨芽細胞破骨細胞が頻繁に骨をリモデリングすることは、骨組織が負荷の変化に適応するための重要なメカニズムです。
 
環境などが変わり骨組織にかかる負荷の強度や方向が変わると、骨組織は負荷に対応して構造や強度を変化させることができます。
この骨組織が負荷の強度や質によって対応していく法則を、ヴォルフの法則と言います。
 
これは、破骨細胞が骨吸収を行い、骨芽細胞が必要な部位に必要な構造を新たに作ることによって起こります。
 
 

まとめ

以上が、骨組織に関係する細胞とその役割でした。
 
次回は、骨組織の血液供給について解説していきます!
 
 

骨組織の微小構造|ハバース管・フォルクマン管・介在層板

 
骨、つまり骨組織は、損傷時に組織と異なる骨癒合という独自の治癒過程によって組織再生します。
 
そのシステムを確実に理解するためには、まず骨組織の組織構造について理解する必要があります。
 
以下の記事で、骨組織のより大まかな基本構造について解説しました。
 
というわけで今回は、
骨組織の微小構造について解説していきます。
 
 
 
 

皮質骨を構成する層板

 
骨組織は、皮質骨海綿骨によって大部分を占められています。
また、それ以外には関節軟骨骨膜などがあります。
 
海綿骨は、皮質骨の内側に存在し、骨小柱によって構成されており、
骨小柱の間隙に不規則に空洞があるような構造になっています。
 
一方皮質骨は、骨単位が規則的並んだ構造をしており、以下のような層板によって緻密な構造をしています。
  • ハバース層板
  • 介在層板
  • 内環状層板(内基礎層板)
  • 外環状層板(外基礎層板)
 
 

ハバース層板

ハバース層板は、薄い円筒状の層板です。
ハバース層板が何枚も重なることで一つの分厚い円筒を構成し、何枚かのハバース層板によってできる木の年輪のような構造を同心円状と言います。
また、この同心円状の円筒の内側にできる空洞をハバース管と言います。
 
同心円状のハバース層板ハバース管とその中を通る血管・神経をセットで骨単位(オステオン)と言います。
 
 

介在層板

介在層板は、骨単位と骨単位の間のスペースを埋める層板です。
何枚かの介在層板が重なってはいるものの、ハバース管と異なり円筒を構成しないため、同心円状を取りません。
 
 

内環状層板(内基礎層板)

内環状層板は、皮質骨の内側を覆うように存在する層板で、海綿骨骨内膜と接する部分です。
内基礎層板とも呼ばれることもあります。
 
内環状層板は、骨の輪郭と並行してややカーブを描くような形状をしています。
 
 

外環状層板(外基礎層板)

外環状層板は、内環状層板と反対に皮質骨の外側を覆うように存在する層板で、骨膜と接する部分です。
外基礎層板とも呼ばれることがあります。
 
外環状層板も内環状層板と同じく、骨の輪郭と並行するような形状をしています。
 
 

ハバース管とフォルクマン管

 
皮質骨には、その緻密な構造から血管が自由に通ることができるスペースがありません。
 
そのため、ハーバス管・フォルクマン管という通路のような空洞が構成されており、その中を血管神経が通っています。
 
 

ハーバス管

ハーバス管は、ハーバス層板の内側にできる縦向きの空洞です。
ハーバス管を通じて、骨組織を縦方向に血液を移動させることができます。
 
 

フォルクマン管

フォルクマン管は、ハバース層板を垂直に貫通する空洞です。
フォルクマン管を通じて、骨膜側から皮質内へと血液を取り込み
骨単位から隣の骨単位へと血液を移動させ、
最終的には、皮質骨のさらに内側の海綿骨や骨髄に血液を移動させることができます。
 
血液供給についての詳しい解説は以下の記事で。
→骨組織の血液供給
 
 

骨単位の微小構造

 
骨単位をさらに細かく見ていくと、以下の構造に構成されています。
  • 骨小腔
  • 骨細胞
  • 骨細管
 
 

骨小腔

骨小腔は、ハバース層板とハバース層板の間にできる間隙です。
このスペースに骨細胞が存在します。
 
 

骨細胞

骨細胞は、骨のリモデリングなど、骨の構造を管理している細胞です。
前述の通り、骨小腔に存在します。
 
骨細胞は、骨の合成を行う骨芽細胞から分化した細胞です。
骨組織に関係する細胞に関しては以下の記事で。
 
 

骨細管

骨細管は、ハバース層板を貫通する微小な空洞です。
この空間を通して、骨細胞の細胞質突起を伸ばして他の骨細胞と連結しています。
 
これによって、骨細胞同士は栄養分や互いの情報を交換していると考えられています。
 
 

まとめ

以上が、骨細胞の微小構造でした。
 
ここを押さえておくことは、骨癒合骨細胞の分化を学ぶ当たってかなり重要な基礎知識となります。
 
次回からは、骨組織の血液供給について解説していきます!
 
 

骨組織の基本構造|骨幹・骨幹端・骨端・皮質骨・海面骨

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骨を構成する「骨組織」は、私たちが人間の形をするために最低限必要なだけでなく、
運動器として、体を動かすためには間違いなく、しっかりとした構造を保つ必要がある組織です。
 
骨組織は他の多くの組織(靭帯、腱、皮膚など)と違い、骨癒合という骨組織独自の治癒過程を経ます。
この骨癒合を確実に理解するために、骨組織の構造を理解しておくことは重要でしょう。
 
ということで今回は、
骨組織の基本構造を解説していきます。
 
 
 
 
 

骨組織の分類

 
骨の種類はまず、形によって分類以下の4つにすることができます。
  • 長骨
  • 短骨
  • 扁平骨
  • 不規則骨
 
膝蓋骨などを種子骨、空洞のある骨を含気骨と更に細かく分類する場合もあります。
 
 

長骨

最も一般的な骨は、長骨と言われる縦に縦に長い骨です。
長骨は主に、脚や腕などで大きな動きを生み出すことが重要な役割になります。
 

短骨

短骨は、手根骨足根骨に当てはまる短い骨です。
短骨は主に平面関節でお互いが繋がっており、平面関節の小さい滑り動作によって、細かい動きを可能にします。
足部のクッション作用や、物に合わせて手を変形させられるのように、状況に合わせて適度に形を調節することが可能になります。
 

扁平骨・不規則骨

扁平骨は、肩甲骨・頭蓋骨・腸骨などの板状の骨です。
また、不規則骨脊椎顔面の骨などが挙げられます。
これらは、その部位特異の機能を果たすために特殊な形をしています。
 
 

骨組織の部位

 
骨組織の構造を説明するために、怪我の損傷で最も一般的な長骨を例に説明します。
 
骨組織は、部位とその特徴によって3つの部位に分類できます。
  • 骨幹
  • 骨幹端
  • 骨端
 
 

骨幹

骨幹は骨の中央部位で、髄腔とその中にある黄色骨髄を含む部位です。
 
 

骨幹端

骨幹端は文字通り骨幹の末端で、骨端に接する部位です。
成長期には、骨幹端の骨端線が縦方向に成長することで、骨が長くなります。
骨幹端には、赤色骨髄が分布しており、骨幹の中央部分に比べて血液供給が多いのが特徴的です。
 
 

骨端

骨端は骨の端の部分です。
骨端の特徴は、関節面に関節軟骨を持つことで、関節軟骨の部分には骨膜が覆っていません。
 
 

骨組織の組織

 
続いて、骨組織を構成する組織構造は大きく4つに分類できます。
  • 皮質骨
  • 海綿骨
  • 髄腔
  • 軟骨
 
 

皮質骨

皮質骨は緻密質とも言われ、骨細胞が密に存在する部分です。
骨の強度を担う部分で、円筒状になっており、この内側に存在する海綿骨や骨髄などを保護する役割もあります。
皮質骨は外側を骨膜に覆われ、内側を骨内膜に覆われています。
 
 
膝蓋骨などを種子骨、空洞のある骨を含気骨と更に細かく分類する場合もあります。
また、皮質骨が分厚すぎると骨が重くなりすぎるため、強度と軽さのバランスを決めているとも言えます。
 
 

海綿骨

海綿骨は、皮質骨のすぐ内側の存在する比較的に骨細胞が疎な部分です。
骨端骨幹端に主に存在し、海綿質の間隙には赤色骨髄が存在します。
骨端動脈や骨幹端動脈などからの血液供給が多くある部分です。
 
海綿骨も皮質骨と共に骨組織の強度を担っています。
海綿骨が疎になりすぎることで起こるのが骨粗鬆症です。
 
 

髄腔

髄腔は、皮質骨や海綿骨の内側に存在する空洞です。
この部分にいわゆる骨髄と言われる黄色骨髄が存在します。
 
脊髄は、血液細胞と間質細胞によって構成される組織なので、骨組織には含まれません。
 
 

まとめ

以上が骨組織の基本構造についてでした。
 
次回は、層板構造ハバース管フォルクス管、などの骨組織の微小構造について解説してきます!
 
 
 

怪我予防プロトコルの効果|ストレッチ・筋力・固有器感覚

 
怪我予防トレーニングを取りいてているチームやトレーナーは少なくないと思います
 
しかし、治療とは違い予防トレーニングの効果が実際にどれぐらいあるのか、体感ではわかりにくいところがあると思います。
なので、研究によって出てくる統計的な数字はいい参考になるのではないかと思います。 
 
予防プログラムの研究は、最近になって出てくるようになり、ストレッチに怪我の予防効果が薄いという話も一般的になってきたと思います。
 
しかし、他の予防トレーニングはどうなのか。というのはまだなんとも知られているようで知られていない部分だと思います。
 
というわけで今回は、
予防プログラムの効果についての現状のエビデンスを論文レビューから紹介していきます!
 
 
 
 
 

論文概要

今回は、2014年にBritish Journal of Sports Medicineに発表された、
 
「The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: A systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials」
 
という研究をレビューしていきます。
 
 

研究デザイン

この研究は、これまでの出てきている研究を総括し、結論をだすことを目的にするシステマティックレビューと言われる論文です。
 
システマティックレビューは、最もエビデンスレベルが高い研究デザインです。
 
この研究では、
  • ストレッチ
  • 筋力トレーニング
  • 固有受容器トレーニング
  • 複合的プログラム
によって怪我のリスクがどれほど下がったかを検討しています。
 
最近はシステマティックレビューもかなり増えてきて、これをさらにまとめたアンブレラレビューなるものも出てきています。
 
 
 

ストレッチ・固有受容器トレーニング・筋力トレーニングの予防効果

(赤:ストレッチ、黄色:固有受容器トレーニング、緑:筋力トレーニング、青:複合プログラム)
 
上のグラフは、ストレッチ、固有受容器トレーニング、筋力トレーニングのそれぞれの効果比較したものです。
 
縦棒のラインが効果が全くないラインで、
それより左に行くと予防効果が高く
それより右に行くとむしろ悪化する傾向にあることを表しています。
 
 

ストレッチの予防効果

ストレッチによる予防効果には、統計的な有意差は見られず、一般的に浸透している通り、効果がないという結果になりした。
(怪我リスク=0.963, 95%CI 0.846–1.095)
 
ストレッチにもいろいろな方法がありますが、
従来のようなストレッチには、やはり効果がないと言えます。
 
しかし、効果があるという論文も実際にあるため、方法次第では効果があるかもしれません。
 
 

固有受容器トレーニングの予防効果

固有受容器トレーニングとは、関節の固有器感覚を鍛えることによって関節の安定性を高めるものです。
足首や膝の怪我予防に主に用いらていると思います。
 
固有受容器トレーニングでは、怪我のリスクを45%有意に減少させることが明らかにされました。
(怪我リスク= 0.550 95%CI 0.347–0.869)
 
固有受容器トレーニングは、怪我の種類と部位によっても予防効果の大小はかなりあると思いますが、
目的に合わせて取り入れることで効果的なトレーニングになると言えます。
 
 

筋力トレーニングの予防効果

筋力トレーニングの予防効果はこの論文では最も高く、怪我のリスクを68.5%有意に減少させていました。
(怪我リスク= 0.315, 95%CI 0.207-0.480)
 
筋力トレーニングのメリットとしては、効果の確実性が挙げられます。
 
筋力トレーニングの95%信頼区間は0.207~0.480と、固有受容器と比べ振れ幅が少ないことから、筋力トレーニングの予防効果はかなりエビデンスレベルとして高いと言えます。
 
しかし、いくつかの怪我、特に肉離れは筋力トレーニングの方法についてかなり吟味されています。
 
 

急性外傷と慢性障害での予防効果の違い

この論文では、予防プログラムによる急性外傷と慢性障害への効果の違いについても検討しています。
 
サンプルサイズから予防プログラム全体での比較しかありませんが、
急性外傷では、予防プログラムによって怪我のリスクが35.3%有意に減少し、(95%CI 0.502-0.836)
慢性障害では、予防プログラムによって怪我のリスクが47.3%の有意に減少していました。(95%CI 0.373-0.746)
 
慢性炎症の方が、予防プログラムの効果がやや大きい結果となっていました。
 
 

まとめ

以上が、現状のエビデンスによる予防プログラムの効果についてでした。
 
この論文はシステマティックレビューなので、ざっくりとした内容になってしまいますが、
 
一概に言うと、
ストレッチは効果がなく
固有受容器トレーニングや筋力トレーニングの方が効果的であることは間違いないと言えます。
 
怪我のメカニズムやリスクファクターがもう少し明確になってくれば、より具体的な予防プログラムが検討されてくるのではないかと思います。
 
 
以上です!
 
 

参考文献

  1. Lauersen, J. B., Bertelsen, D. M., & Andersen, L. B. (2014). The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: A systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. British Journal of Sports Medicine, 48(11), 871–877. https://doi.org/10.1136/bjsports-2013-092538 

痛みとスパズムの治療法|物理的治療・薬剤・心理学的治療

 
怪我をすると、炎症段階では「一次的炎症反応」「二次的炎症反応」の2段階で炎症が起こります。
 
一次的炎症反応では、「出血」「浮腫形成」が起こり、これらの症状に対応した治療を行うことが基本となります。
一次的炎症反応に対するマネジメントは以下の記事にて解説しました。
 
一方、二次的炎症反応では、「痛み」「スパズム」が起こります。
 
というわけで今回は、
二次的炎症反応のマネジメントについて解説していきます!
 
 
 
 
 

痛み刺激の促進と抑制

 
痛みは、痛み刺激が侵害受容器で感知され、求心性ニューロン・脊髄を介してに伝達されることで感じ取られます。
この間は、神経伝達物質がニューロンを通じて伝達されていくことになります。
 
神経伝達物質には様々な種類がありますが、痛み刺激の伝達に用いられる神経伝達物質には、
  • 興奮性神経伝達物質として「P物質」
  • 抑制性神経伝達物質として「セロトニン」
があります。
 
P物質は、神経を興奮させて、発火を促進するため、痛みをより強くするように働きます。
一方、セロトニンは、神経を抑制し、発火を抑制するように働くため、痛みを弱めるように働きます。
 
つまり、治療的に介入する際は、
P物質の分泌を抑制し、セロトニン分泌を促進することが重要になります。
これは主に、麻酔や抗炎症剤による目的になります。
 
ちなみに、P物質は英語で「Substance P」です。つまり直訳です。
 
 

痛みとスパズムに対する治療の種類

では、二次的炎症反応である痛みとスパズムに対する治療はどのようなものが挙げられるか。
 
治療の目的となる作用は大きく以下の3つに分類できます。
  • 物理的作用
  • 薬剤
  • 心理学的作用
 
 

物理的作用による治療

 
物理的作用は、物理的に刺激を与えることで痛みを緩和する方法です。
 
この方法には、以下のような例が挙げられます。
  • 寒冷療法
  • 温熱療法
  • 電気的治療
  • マッサージ(徒手的治療)
  • 運動療法
 

物理的作用のメカニズム 

痛みは、求心性ニューロンのAδ線維C線維を通って伝達されます。
Aδ線維やC線維は、比較的に細く優先度の低い求心性ニューロンに分類されます。
 
一方で、Aα線維Aβ線維はより太く、これらの線維に伝達された刺激は脳で優先的に認識されるようになっています。
 
物理的作用が働くメカニズムの原則は、
Aα線維やAβ線維に刺激を加えることで、Aδ線維やC線維の痛み刺激による痛覚を緩和することです。
 
 
Aα線維は、筋紡錘からの刺激を中枢に伝える求心性ニューロンで、
Aβ線維は、ゴルジ腱器官からの刺激を中枢に伝える求心性ニューロンです。
つまり、筋紡錘やゴルジ腱器官にアプローチすることで物理的作用が得られます。
 
 

寒冷療法

 
寒冷療法は、アイシングなどによって組織の温度を下げることによる物理的作用を狙う治療法です。
 
組織温が低下すると、筋紡錘からの求心性ニューロンの発火が抑制され、
その結果、筋紡錘からの刺激に対応して錘内筋繊維をコントロールする、γ運動ニューロンの発火が抑制されます。
 
これによって、筋紡錘の過敏状態が抑制され、つまりはスパズムが改善されます。
 
 

温熱療法

 
温熱療法は、ホットパックや超音波治療によって組織の温度を上昇させる治療法です。
 
温熱療法では、以下の2つのメカニズムによってスパズムの抑制が起こります。
  • ゴルジ腱器官のⅠb線維の発火を促進によるγ運動ニューロンの発火抑制
  • 組織温上昇が、γ運動ニューロンに直接働くことによって発火抑制
 
温熱治療は、スパズムの抑制に効果が高い反面、血流を促進することで急性期の炎症反応を悪化させるため、急性炎症期には禁忌です。
 
 

電気的治療

 
電気的治療は、電気刺激をAα線維やAβ線維に直接加えることで、物理的作用を起こします。
 
しかし、低〜中強度の経皮的電気神経刺激(TENS)では、治療を行なっている間はAα線維やAβ線維に刺激が与えられるので、物理的作用が引き起こりますが、
治療を終えると効果はなくなり、痛みは戻るとされています。
 
一方で、鍼によるTENS短時間高強度TENSでは、電気刺激が強く、侵害性刺激となります。
その結果、過刺激痛覚脱出が起き、内因性ピオイドが放出され、治療後にも残ります。
 
内因性ピオイドは抑制性神経伝達物質として作用するため、鎮痛効果が治療後にも残ります。
 
 

薬剤による治療

 
薬剤による痛みの治療には、主に以下の2種類が利用されます。
  • 鎮痛薬
  • 筋弛緩薬
 
 

鎮痛薬

鎮痛薬は、さらに「オピオイド鎮痛薬」「非オピオイド鎮痛薬」の2種類が挙げられます。
 
オピオイド鎮痛薬は、
オピオイドによる麻酔効果によってP物質の分泌を抑制させ、痛みを緩和します。
 
しかし、オピオイド鎮痛薬は、モルヒネ様薬剤の一種であり、つまりは中毒性があります。
多くの国では、規制薬物として指定されており、医師の処方が必要です。
 
一方で、非オピオイド鎮痛薬抗炎症薬とも言われ、
抗炎症効果によって炎症反応を抑えることで痛みを緩和します。
 
これには、NSAIDsアスピリンなどが挙げられます。
こういった抗炎症効果を含む薬剤は、抗凝固作用もあり、これが血小板の凝縮を阻害します。
特に、アスピリンはこれらの悪影響が長期的に現れるため、急性炎症期には禁忌です。
 
 

筋弛緩剤

筋弛緩剤は、脊髄反射の反応を抑制し、遠心性ニューロンの発火を抑制することで、スパズムを抑制します。
 
筋弛緩剤は、スパズムの軽減によって痛みを緩和させますが、同時に筋力低下なども引き起こすため、スポーツを続行する選手に対する一時的な処置には用いられません。
 
 

心理学的作用

 
痛みの感知は、心理学的な影響も十分に受けます。
 
心理学的作用を利用する上で、まず患者の痛みに対する考え方の傾向が考慮されます。
 
Internal health locus of controlの患者は、
健康状態(痛み)は自身の努力によって十分に影響できると考える傾向があり、治療にも積極的ですが、
External health locus of controlの患者は、
健康状態(痛み)を努力によって改善することはできないと考えるため、治療に消極的になります。
 
こういった観点から、患者に合った心理的アプローチを行うことが重要です。
 
また、心理学的サポートとしては、怪我から復帰できる安心感を与え、成果ではなく治療にり組む努力を賞賛することが重要です。
 
また、痛みや不安から気をそらす「コーピングスキル」も重要なアプローチです。
これには、イマージェリー、気晴らし、リラクゼーションなどがあげられます。
 
 

まとめ

以上が、二次的炎症反応の「痛み」と「スパズム」に対するマネジメントでした。
 
  • 痛みを伝達する神経伝達物質は、P物質(興奮性)とセロトニン(抑制性)
  • 治療法には「物理的作用」「薬剤」「心理学的作用」の3つのアプローチに分類できる。
  • 物理的作用では、Aα線維やAβ線維にアプローチし、スパズムを抑制する。
  • 薬剤では、鎮痛薬は痛みを緩和し、筋肉弛緩剤はスパズムを抑制する。
  • 心理学的作用では、安心感を与えることや、痛みから気をそらすことが重要。
 
以上です!
 
 

二次的炎症段階での「痛み」と「スパズム」|拘縮・癒着

 
怪我をすると、炎症反応として、一次的炎症反応二次的炎症反応が起こります。
 
二次的炎症反応では、「痛み」「スパズム」が起こり、これらが治癒段階を阻害する要因となります。
 
というわけで今回は、
二次的炎症反応の「痛み」と「スパズム」の問題について解説して行きます!
 
 
 
 
 

二次的炎症段階の問題

 
二次的炎症反応として、痛みスパズムが起こります。
 
これらは、筋力低下関節可動域制限を起こしし、組織に更なる損傷を加えないようにする役割があります。
しかし、筋力低下と関節可動域制限は拘縮癒着を引き起こす原因になります。
 
つまり、二次的炎症反応に対しては、「拘縮」と「癒着」を防ぐ治療的介入を行うことが重要になります。
 
 

一次的疼痛と二次的疼痛

 
疼痛つまり痛みは、痛みのメカニズムによって「一次的疼痛」「二次的疼痛」に分類することができます。
 
 

一次的疼痛

一次的疼痛は、受傷時に起こる痛みです。
これは、物理的に機械的刺激が損傷部位にかかったことで感じる痛みで、Aδ線維に伝達されます。
その結果、強度が高く鋭い痛みを感じます。
 
 

二次的疼痛

二次的疼痛は、受傷後2~3時間程度経って炎症反応が始まった頃から起こる痛みで、炎症反応によって分泌されるプロスタクランジンによって侵害受容器が過敏化することで生じます。
この状態を、痛覚過敏と言います。
 
プロスタクランジンによって過敏化した侵害受容器は、少しの刺激で痛みを感知する様になります。
これが、炎症が起こっているときに組織に負荷をかけると異常な痛みが生じるメカニズムです。
これは、主にAδ線維に伝達され、鋭い痛みとして感知されます。
 
一方で、炎症によって継続的に鈍い痛みを感じることもあります。
これは、プロスタクランジンによる刺激C線維に伝達されるためで起こる痛みです。
 
 

痛み-スパズム-痛みのサイクル

 
二次的炎症反応で起こる「痛み」と「スパズム」には、互いに促進し合う関係にあります。
 
つまり、
「痛みが起こる→スパズムが起こる→痛みが増大する→スパズムが促進する」
というサイクルが起きます。
 
二次的炎症反応に対するマネジメントでは、痛みまたはスパズムに対するアプローチを行い、この痛み-スパズム-痛みサイクルを止めることが最大の目的になります。
 
 

痛み-スパズム-痛みサイクルのメカニズム

 
炎症によって分泌されるプロスタクランジンは侵害受容器を痛覚過敏状態にするだけではなく、筋紡錘の錘内筋線維を調節するγ運動ニューロンも刺激し、過敏状態にします。
 
通常、錘内筋線維は、筋線維の長さに合わせる様に自身も伸張・収縮する様にγ運動ニューロンにコントロールされています。
これによって、筋線維の過伸張を正確に感知することができる様になっています。
 
しかし、γ運動ニューロンが過敏状態になることによって錘内筋線維が異常収縮し、筋繊維の長さに比べて短くなってしまいます。
 
これによって、(筋線維は過伸張でないにも関わらず)過伸張と感知してしまい、筋線維が異常な筋緊張状態になります。
これがスパズムのメカニズムです。
 
 

まとめ

以上が、二次的炎症反応における問題でした
 
  • 一次的疼痛二次的疼痛があり、
  • 二次的疼痛による痛覚過敏が、痛み-スパズム-痛みのサイクルを引き起こす。
  • 痛みによってγ運動ニューロンが発火促進し、錘内筋線維が異常収縮する。
 
 
以上です!

痛みのメカニズム|侵害受容器・Aδ/C線維・ポリモダール受容器

 
怪我をすると、「痛み」が生じます。
 
「痛み」を生理学的に説明すると、炎症段階における二次的炎症反応の一つです。
二次的炎症反応では、「痛み」「スパズム」が起きますが、これによって損傷部位を動かさない様にすることで保護する役割があります。
 
しかし「痛み」は、まず不快感を招きますし、痛いからといって長期間安静にしていると、「拘縮」「癒着」といった問題が生まれて来ます。
 
というわけで今回は、
痛みが生じるメカニズムについて解説していきます!
 
 
 
 
 

痛みを感知するメカニズム

 
痛みは、
  • 感覚受容器での有害性刺激の発見し、
  • 求心性ニューロン・脊髄を介して脳にまで電気刺激が伝達され
  • が痛みの種類と部位を識別する
ことで、どの部位にどういった痛みがどれぐらいの強度であるのかを感じることができます。
 
 

感覚受容器の種類

 
感覚受容器はあらゆる刺激を感知するセンサーの役割をしている器官で、感覚受容器が受け取ることができる刺激を、私たちは感覚として感じることができます。
 
人間が受け取ることができる刺激の種類は大きく以下の3つがあります。
  • 電磁的刺激
  • 機械的刺激
  • 化学的刺激
 
電磁的刺激は、物理的な実体はないものので、などの刺激です。
 
機械的刺激は、物理的な圧力(空気の振動)などの刺激を感知します。
 
化学的刺激は、化学的物質による刺激で、主な例としては味覚や嗅覚などが挙げられます。
 
 

侵害受容器

痛み刺激を感知する感覚受容器をまとめて侵害受容器と言います。
 
侵害受容器の中でも、
  • 温度に反応する温度受容器
  • 圧力や伸張などに反応する機械的受容器
  • 様々な刺激に反応するポリモダール侵害受容器
などの種類があります。
 
侵害受容器の定義は「痛み」を受け取る受容器とされています。
ですが、「痛み」とは何なのか。ということが未だにハッキリと解明されていないため、侵害受容器とは何なのか、も実は未だに明確には出来ていません。
 
 

求心性ニューロンの種類

 
求心性ニューロンの分類には、「直径による分類」「受け取る刺激の種類と伝達速度による分類」の2種類があります。
 
「直径による分類」は、Aα線維、Aβ線維、Aδ線維、C線維があり、
このうち傷害受容器から刺激を受け取る神経線維はAδ線維C線維になります。

 

一方で、「受け取る刺激の種類と伝達速度による分類」にはⅠ線維、Ⅱ線維、Ⅲ線維、ⅳ線維があり、
Aδ線維とC線維はそれぞれⅢ線維ⅳ線維にあたります。

 

 

Aδ線維とC線維の違い

 
 
Aδ線維は、髄鞘を持ち、より太く、素早く伝達することができます。
Aδ線維によって感じる痛みを「速い痛み」または「一次的疼痛」とも言い、鋭く強度の高い痛みを感じます。
 
一方で、C線維は無髄鞘で、細く、伝達速度は遅くなります。
C線維によって感じる痛みを「遅い痛み」または「二次的疼痛」と言い、強度は低い鈍痛を感じます。
 
「タイプ」は電気生理学的な観点から、「グループ」は解剖学的な構造から考案さたものです。
 
 

脊髄での刺激の伝達

 
求心性ニューロンに伝わった痛み刺激は、脊髄の後角の上行性脊髄路を通って脳へと運搬されます。
 
上行性脊髄路には、行き着く先から脊髄網様体路、脊髄中脳路、脊髄視床路の3種類がありますが、
Aδ線維とC線維は、その内の脊髄視床路を通ります。
 
脊髄視床路はさらに細かく分類でき、痛み刺激の伝達に使う前脊髄視床路外側脊髄視床路の2種類があります。
前脊髄視床路は、他の多数の求心性ニューロンから刺激を伝達され、鈍い痛みの刺激を伝達します。
外側脊髄視床路は、主にAδ線維とC線維から刺激を受け、鋭い痛みを主に伝達します。
 
 

脳での痛みの識別

 
上行性脊髄路から伝達された刺激は、視床の後腹側角に伝達されます。
その後、大脳皮質の第1体性感覚野に伝えられます。
 
視床の後腹側角では、痛みの種類が判別され、
大脳皮質の第1体性感覚野では、痛みの部位を判別します。
 
視床で受け取られる情報は視床下部とリンクするため、情動行動などとも関係性が強いと考えられています。
 
 

まとめ

以上が痛みの伝達と識別のシステムについてでした。
 
  • 痛み刺激を侵害受容器によって感知する。
  • 痛みの種類によって求心性ニューロンのAδ線維C線維に分けて中枢に伝達される。
  • 求心性ニューロンからは脊髄後角脊髄視床路を通過する。
  • 脳では、視床で痛みの種類、第一体性感覚野で痛みの位置を認識する。

 

以上です!

筋力左右差とH:Q比がハム損傷リスクにどれほど関係するか。【損傷予防】

 
スポーツの怪我で最も多いのが「ハムストリングの肉離れ」です。
 
もちろん、スポーツによって怪我の傾向は変わりますが、
多くのスポーツでは、ハムストリング損傷が最もリスクが高い怪我と言われています。
 
ハムストリング損傷のリスクファクターはいくつか挙げられていますが、
どれがどれほど関係しているのかは、現在のエビデンスではまだ議論段階にあります。
 
そんな中でも、重大なリスクファクターなのではないか。と考えられているリスクファクターに以下のようなものがあります。
  • エキセントリック収縮での筋力
  • ハムストリングと大腿四頭筋の非理想的な筋力比(H:Q比)
 
というわけで今回は、
H:Q比の不均衡による怪我のリスクと改善による予防効果についての論文をレビューしていきます!
 
 
 
 
 

論文概要

今回は、2008年にAmerican Journal of Sports Medicineに掲載された、
 
「Strength imbalances and prevention of hamstring injury in professional soccer players: A prospective study」
 
という論文をレビューしていきます。
 
 

対象者

対象者は、ベルギー・ブラジル・フランスのプロサッカーチームに所属する選手462名で、
2000年~2005年の間にデータは測定されています。
 
 

研究デザイン

プレシーズンに、MVCを使って等速性エキセントリック収縮等速性コンセントリック収縮の筋力を、ハムストリング大腿四頭筋の両方で測定します。
 
左右差またはH:Q比の結果から、全選手の筋力インバランス有無をチェックします。
その後、以下のようにグループを分けて比較していきます。
 
  • A群:インバランスなし(n=246)
  • B群:インバランスあり - 改善トレーニングなし(n=91)
  • C群:インバランスあり - 改善トレーニングあり - インバランス改善確認テストなし(n=55)
  • D群:インバランスあり - 改善トレーニングあり - インバランス改善確認テストあり(n=70)
 
 
 

インバランス有無での怪我リスクの違い

 
まず、A~D郡のそれぞれの怪我のリスクは以下のようになりました。
 
  • A群:4.1%
  • B群:16.5%
  • C群:11%
  • D群:5.7%
 
この時点でも怪我のリスクの差を数字的に比較できますが、
続いて、各群で比較した時に、どの条件で統計的に差があったのかを紹介していきます。
 
 

各群の怪我のリスクの比較

 
各群でのリスクを統計的に比較した結果は上のようになりました。
 
統計的に、有意な差が見られたのは以下の3つのパターンでした。
  • 「インバランスなし」vs「インバランスあり - トレーニングなし」
  • 「インバランスなし」vs「インバランスあり - トレーニングあり - 確認テストなし」
  • 「インバランスあり - トレーニングなし」vs「インバランスあり - トレーニングなし - 確認テストあり」
 

インバランスがある場合、怪我のリスクは4倍以上。

まずこの研究で明らかになったのは、インバランスの有無による怪我のリスクの差です。
 
この研究では、インバランスがない群(A群)と比較して、インバランスがあり改善トレーニングもしなかった群(B群)では、怪我のリスクが約4.66倍に高まることが明らかになりました。
 
信頼区間を見ても、2.08倍〜10.8倍なので、
「少なく見積もっても2.08倍、多く見積もると10.8倍もリスクが高まる。」
と、この研究の結果ではされています。
 
左右の筋力差や、H:Q比の不均衡は、重大なリスクファクターと言えるでしょう。
 
 

インバランス改善による効果

もうひとつこの研究で明らかになったことは、確実にインバランスを改善することの重要性です。
 
この研究では以下のような結果も同時に明らかになっています。
  • インバランス改善の確認テストを行った場合、インバランスがない群と比べても怪我リスクの上昇はなかった。(A群vsD群)
  • インバランス改善を確認テストで管理した場合、インバランスがあり改善トレーニングをしなかった場合に比べて、有意に怪我のリスクが低かった。(B群vsD群)
 
つまり、
  • インバランスを改善すると、怪我のリスクを抑えることはできる。
  • しかし、トレーニング実施だけでなく、改善効果を管理することが重要。
ということです。
 
 
 
予防プログラムは遵守が重要
「予防プログラムをしっかり取り組むこと」と言えば当たり前のように聞こえますが、
プログラムの遵守は、実は予防効果得るために侮ってはいけない、重要な要素だと考えられています。
 
FIFA11+予防プログラムを導入した際の効果を検討した研究でも、
週5-6回行った研究(Grooms, D. R. et al. 2013)では、下肢の怪我率を82%減少できたと報告しているの対して、
履行率が不十分であった研究(Hammes, D. et al. 2015)では効果が見られませんでした。
 
リハビリと違い、予防プログラムは怪我をしていない時に行うので雑に行いがちになってしまうのが、やはり効果にも現れているのではないかと考えられます。
 
 

まとめ

今回は、筋力のインバランスがハムストリング損傷に与える効果についての論文を紹介していきました。
  • 筋力のインバランスがあると怪我のリスクが4倍以上になる。
  • インバランスを改善することで怪我のリスクは抑えられる。
  • しかし、確実に改善効果を管理することが重要。
 
筋力のインバランスは、重大なリスクファクターと考えられていますが、
ハムストリング損傷のリスクファクターでは、一つではない可能性は非常に高いです。
 
実際に、エキセントリックでの筋力もかなり重大視されていますし、
膝関節伸展位で筋力発揮できることなんかも近年挙げられ始めました。
 
怪我予防に関するまた違った研究もこれからまだまだ更新していきたいと思います!
 
 
 

参考文献

  • Croisier, J. L., Ganteaume, S., Binet, J., Genty, M., & Ferret, J. M. (2008). Strength imbalances and prevention of hamstring injury in professional soccer players: A prospective study. American Journal of Sports Medicine, 36(8), 1469–1475. https://doi.org/10.1177/0363546508316764
  • Hammes, D., Aus der Fünten, K., Kaiser, S., Frisen, E., Bizzini, M., & Meyer, T. (2015). Injury prevention in male veteran football players–a randomised controlled trial using “FIFA 11+”. Journal of sports sciences, 33(9), 873-881.
  • Grooms, D. R., Palmer, T., Onate, J. A., Myer, G. D., & Grindstaff, T. (2013). Soccer-specific warm-up and lower extremity injury rates in collegiate male soccer players. Journal of athletic training, 48(6), 782-789.
 
 

FIFA公式プログラム「FIFA11+」の怪我予防効果【メタ解析】

 
近年、怪我予防プログラムの研究はかなり進んできました。
 
そんな中で、FIFAの医療研究組織「F-MARC」が予防プログラムを出しているのはご存知でしょうか。
 
FIFAは、かなり前から怪我に関する研究にも力を入れており、2003年に「FIFA11」、2006年には改訂版の「FIFA11+」という予防プログラムを出しています。
この予防プログラムは、ウォーミングアップとして20分程度で取り入れるようになっており、FIFAが推奨している怪我予防プログラムです。
 
以下のリンクから「FIFA11+」プログラムは参照ください。
 
というわけで今回は、
F-MARCの予防プログラムの効果についての論文をレビューしていきます!
 
 
 
 
 

論文概要

今回は、2016年にSports Medecineに掲載された、
 
「How Effective are F-MARC Injury Prevention Programs for Soccer Players? A Systematic Review and Meta-Analysis」
 
という研究をレビューしていきます。
 
 

論文デザイン 

システマティックレビューによる研究です。
 
「FIFA11」または「FIFA11+」を取り入れた時の怪我のリスクを記録している論文を対象にメタ解析を行い、これらの予防プログラムの効果を検討しています。
 
対象とする研究は9個で、ここでは性別、年齢、スキルレベル、スポーツは除外の条件とはなっていません。
 
 

「FIFA11」「FIFA11+」を取り入れた際の予防効果

(上:怪我全体、下:下肢の怪我)
 
では、F-MARCが発行する予防プログラムによってどれほどの予防効果が得られたのか。
 
このグラフは、「FIFA11」または「FIFA11+」のどちらかを取り入れた際の効果を示しています。
縦線より左に行けば行くほど予防効果が高かったことを意味します。
 
「FIFA11」または「FIFA11+」を取り入れると、
  • 怪我全体では、怪我のリスクが23%有意に減少(IRR: 0.771, 95%CI:0.647-0.918)
  • 下肢の怪我では、怪我のリスクが24%有意に減少(IRR 0.762, 95%CI:0.621-0.935)
してました。
 
この結果から、これらのプログラムを取り入れることで、一般的なウォーミングアップをするのに比べて怪我のリスクが抑えられると言えます。
 
IRRは「Injury Risk Ratio」で、「介入群の怪我率 ÷ コントロール群の怪我率」で計算します。
一方で、RRは「Risk Ratio」で、「怪我の数 ÷ プレー時間 × 1000」で1000時間あたりのリスクを表します。
 
 

「FIFA11+」の方がやっぱり優れている?

(上:怪我全体、下:下肢の怪我、グラフ上半分:FIFA11+、グラフ下半分:FIFA11)
 
今度は、「FIFA11」と「FIFA11+」の間での効果の差を比較しています。
 
怪我全体に対する効果では、
  • FIFA11では、有意な効果は見られず(IRR: 0.923, 95%CI:0.786-1.083)
  • FIFA11+では、怪我のリスクが35%有意に減少(IRR: 0.654, 95%CI:0.536-0.798)
しました。
 
 
下肢の怪我に対する効果では、
  • FIFA11では、有意な効果は見られず(IRR: 0.961, 95%CI:0.776-1.191)
  • FIFA11+では、怪我のリスクが39%有意に減少(IRR: 0.612, 95%CI:0.475-0.788)
しました。
 
 

筆者の考察

この結果では、FIFA11では効果がなく、FIFA11+ではかなりの予防効果が見られていると思います。
 
この結果に対する筆者の考察では、
  • FIFA11では量・強度が十分でなかったのに加えて、
  • 毎トレーニング前に必要性を説明していなかったため、履行率が低かった
ことを理由に挙げています。
 
実際に、予防プログラムを週5-6回行った研究(Grooms, D. R. et al. 2013)では、下肢の怪我のリスクを82%減少できたと報告しているの対して、
履行率が不十分であった研究(Hammes, D. et al. 2015)では、有意な差はないという結果でした。
 
 

まとめ

今回は、F-MARCの予防プログラムによる効果について論文をレビューしていきました。
  • 予防的プログラムをと入れること自体の効果は明らかにある。
  • FIFA11+プログラムの方が量・強度が多く、効果が高いと考えられる。
  • 効果を得るためには、毎回取り入れることが重要だと考えられる。
 
怪我の予防についての研究は、近年かなり盛んになってきていますが、
一方で、まだまだ研究の余地がある分野です。
 
今後も、新たなアップデートはあるはずなので、最新の情報をキャッチするしておくことは重要になるんじゃないかと思います!
 
 
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参考文献

  • Al Attar, W. S. A., Soomro, N., Pappas, E., Sinclair, P. J., & Sanders, R. H. (2016). How effective are F-MARC injury prevention programs for soccer players? A systematic review and meta-analysis. Sports medicine, 46(2), 205-217.
  • Hammes, D., Aus der Fünten, K., Kaiser, S., Frisen, E., Bizzini, M., & Meyer, T. (2015). Injury prevention in male veteran football players–a randomised controlled trial using “FIFA 11+”. Journal of sports sciences, 33(9), 873-881.
  • Grooms, D. R., Palmer, T., Onate, J. A., Myer, G. D., & Grindstaff, T. (2013). Soccer-specific warm-up and lower extremity injury rates in collegiate male soccer players. Journal of athletic training, 48(6), 782-789.
 
 
 
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