瘢痕形成段階のプロセス|線維芽細胞・コラーゲン合成・肉芽組織
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怪我が起きると、組織の治癒が起きます。
ほとんどの組織は、「修復」と言われる治癒過程によって治癒され、
その修復の過程には以下の3段階があります。
- 炎症段階
- 瘢痕形成段階
- 瘢痕成熟段階
組織の治癒には、再生と修復の2種類があり、修復の大まかなメカニズムを以前解説しました。
また、炎症段階の解説も以下でしました。
というわけで今回は、
組織修復における瘢痕形成段階について詳しく解説していきます!
瘢痕形成段階の概要
この前の炎症段階では、組織の炎症によって組織の修復に必要な物質を損傷部位に集め、十分な物質が集まれば、炎症を抑えるところまでの過程が行われています。
続いて瘢痕形成段階では、損傷部位でコラーゲンを合成し、繊維性瘢痕を形成します。
具体的な過程としては、以下の5つのステップがあります。
-
線維芽細胞の増殖
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コラーゲン合成と繊維形成
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肉芽組織の形成
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創傷の収縮
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繊維性瘢痕形成
線維芽細胞の増殖
線維芽細胞は、コラーゲンを形成する役割を持つ細胞です。
平常時、線維芽細胞はコラーゲンの分解に合わせてコラーゲンを合成することで、合成と分解のバランスを保って組織のターンオーバーを行う役割を持っています。
しかし損傷時には炎症反応に反応して増殖し、その結果コラーゲン合成が分解より優位になります。
この線維芽細胞は、炎症反応で浮腫ができることに伴って損傷後2~3時間後に増殖し始め、48時間以内には十分に増殖しきります。
コラーゲンの合成と繊維化
線維芽細胞が増殖すれば、続いてコラーゲンを合成し、コラーゲンから繊維性コラーゲンを合成していきます。
これは、損傷後24時間程度で活発になり、数ヶ月から1年近く続きます。
コラーゲンは、コラーゲン同士で結合することで繊維化し繊維性コラーゲンとなります。
瘢痕組織は、この繊維性コラーゲンをベースとして形成されます。
繊維性コラーゲンには、コラーゲン分子の組み合わせによっていくつかのタイプに分かれ、
その中でもタイプⅠ, Ⅱ, Ⅲのコラーゲンを原繊維性コラーゲン(またはコラーゲン原繊維)と言います。
タイプⅠのコラーゲンは、腱、靭帯、関節包に多く含まれ、
タイプⅡのコラーゲンは、軟骨組織に多く含まれ、
タイプⅢのコラーゲンは、血管や皮膚など軟部組織に多く含まれます。
タイプⅠ, Ⅱのコラーゲンは比較的に結合力が強く、タイプⅢのコラーゲンは結合力が比較弱いです。
タイプⅢのコラーゲン合成
タイプⅢのコラーゲンは結合組織修復の段階で早期に合成できる一方、組織としての強度が低いため、腱、靭帯、関節包、軟骨組織の修復段階では一時的に合成されます。
これは、損傷後24時間以内に始まり、4日以内で完了します。
タイプⅢのコラーゲンは繊維の方向が不規則になるため、この時の腱、靭帯などの組織の強度は低くなります。
タイプⅢからタイプⅠへのコラーゲンの移行
腱、靭帯、関節包といった組織は、タイプⅠのコラーゲンを多く含まなければいけません。
そのため、一時的にタイプⅢのコラーゲンを合成したのちは、タイプⅠへの移行を行います。
受傷後1週間程度で、タイプⅢよりタイプⅠのコラーゲンの量が優勢になり、完全な移行には数ヶ月から数年かかる場合もあります。
このコラーゲンタイプの移行によって、肉芽細胞は繊維性瘢痕組織へと変わります。
全体のコラーゲン蓄積の増加
タイプⅢのコラーゲンの合成に始まり、その後タイプⅠのコラーゲンへと移行していく中で、コラーゲン全体の量も徐々に増加していきいきます。
コラーゲンの増加量は、タイプⅢコラーゲンが合成され始める損傷後24時間程度から徐々に活発になり、2~4週間でピークになります。
コラーゲン増加の終了は、組織や損傷程度によって大きく異なり、
-
筋組織の場合は約3週間
-
腱組織の場合は、約4~6週間
が必要です。
コラーゲンが十分に増加すれば、瘢痕形成段階の終了を意味します。
肉芽組織の形成
繊維性コラーゲンができると、続いて繊維性瘢痕の形成に移ります。
繊維性瘢痕の形成の第一段階として、肉芽組織という前駆組織が形成されます。
肉芽細胞の段階では、以下の反応があります。
-
タイプⅢのコラーゲンの合成促進
-
血管新生
血管新生
損傷によって損失した組織への血流は、損傷後48~72時間で修復され始めます。
組織への血流は、以下の2つの方法で修復されます。
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周辺の損傷していない血管から新しい毛細血管を合成
-
破損した血管の修復
血管床の毛細血管の吸収
肉芽細胞が形成した毛細血管は、肉芽細胞に栄養を与える役割で形成されています。
そのため、肉芽細胞が最終的に繊維性瘢痕に変換されると同時に不必要となり、瘢痕組織に吸収されます。
しかし、一部の血管は、吸収されず新たな血管として血流のネットワークに組み込まれます。
創傷の収縮
創傷の収縮とは、損傷部位を近づけて損傷サイズを物理的に小さくする作用です。
タイプⅢのコラーゲンが増加し始めると同時に始まります。
これは、筋線維芽細胞という細胞によって引き起こされます。
筋線維芽細胞は、筋肉のように収縮特性があり、繊維性コラーゲンと癒着するとこの収縮特性によって傷口を閉じるように収縮します。
創傷の収縮によって必要なコラーゲン量が減るというメリットがありますが、
一方で過剰に収縮が起これば組織の長さ短くなり、短縮、拘縮が起こる可能性もあります。
筋線維芽細胞は、損傷後3~4日以内に増殖し始め、6~7日で十分に増殖します。
創傷の収縮自体は、損傷後3~4日で開始し、約2週間で完全に収縮します。
これにより、傷口のサイズは70%減少すると言われています。
繊維性瘢痕形成
肉芽組織の形成と創傷の収縮の過程が終わると、最終段階として繊維性瘢痕へと変換し始めます。
タイプⅢのコラーゲン繊維が増殖し、続いて創傷の収縮が起きる中で、繊維組織の抗張力は加速的に高まります。
続いて、タイプⅢのコラーゲンがタイプⅠのコラーゲンに変わっていく中で、肉芽組織からより強固な繊維性瘢痕組織へと変換されていきます。
創傷の収縮が終わると組織の抗張力が高まりますが、コラーゲンの割合はまだタイプⅢ多いためこの状態で運動を始めると再発のリスクが高まります。
修復の過程で、瘢痕が異常に形成される過程のことを「繊維症」と言います。
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瘢痕形成段階のまとめ
線維芽細胞の増殖は、
損傷後2~3時間以内に始まり、24時間でピークになり、48~72時間で完了します。
タイプⅢのコラーゲン増加は、
線維芽細胞の増殖が24時間程度でピークなると活発になります。
線維芽細胞の増殖は48時間以内に終わりますが、その後も蓄積された線維芽細胞からコラーゲンの増加は続きます。
タイプⅠのコラーゲンへの移行は、
タイプⅢのコラーゲンが損傷後4日以内に十分に増殖するとはじまり、損傷後1週間程度でタイプⅢより割合が優勢になります。
完全な移行には数ヶ月から1年近くかかる場合もあります。
コラーゲンは増加は、
創傷の収縮と並行して引き続き、筋組織で約3週間、腱組織で約4~6週間かかります。
創傷の収縮は、
タイプⅢのコラーゲンが4日以内に十分に増殖すると始まり、1週間程度で十分に増加し、2週間かけて傷口を縮小させます。
繊維性瘢痕形成は、
繊維性コラーゲンから肉芽組織と経由し、肉芽組織のタイプⅢコラーゲンがタイプⅠに移行していく中で徐々に繊維性瘢痕と呼べる組織へと変化していきます。
瘢痕形成段階全体に要する期間は、
線維芽細胞の増殖がピークとなる損傷後24時間から、コラーゲンの増加が十分となる3~6週間と考えるのが一般的です。
しかし、瘢痕形成段階が終わってもタイプⅠコラーゲンへの移行は完全に終わっていないので注意が必要です。