食後・空腹時の血糖値の制御【グリコーゲン・解糖系・糖新生・ホルモン】
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血糖値は脳や赤血球といった身体の重要な器官を働かせるために常に正常な値にしておかなくてはならないものです。
ですが、だからと言って血液中のグルコースをあまり使わないようにするというのも効率的ではありません。
そのため、私たちは血糖値が高くなったり低くなったりするのに合わせて、血糖値をコントロールするようにできています。
というわけで今回は、
血糖値をコントロールしているメカニズムについて解説していきます。
正常な血糖値の値
血糖値は、通常では以下のような値になります。
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空腹時:80〜100 (mg/dl)
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食後:120〜140 (mg/dl)
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絶食時:60~70 (mg/dl)
血糖値は、食後30分程度で一気に120~140 (mg/dl) まで上昇し、食後3時間程度でまた空腹時の血糖値に戻ります。
血糖値の異常値
一方で、先ほどの正常値を超えると、高血糖となります。
高血糖には2種類あり、
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空腹時の血糖値が、110〜126 (mg/dl) になる状態を「空腹時高血糖」
-
食後の血糖値が、140〜200 (mg/dl) になる状態を「境界型」または「食後高血糖」
があります。
一方で、それらを超えると「糖尿病」と診断されます。
血糖値のコンロール
血糖値のコントロール方法には主に3つがあります。
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グリコーゲンの合成・分解
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解糖系と糖新生でのグルコース合成・利用
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ホルモンの作用
グリコーゲンの合成・分解
まず、グリコーゲンを使って血糖値のコントロール方法は以下の2通りです。
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グリコーゲンを分解して、グルコースを作ること
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グリコーゲンを合成して、グルコースを利用すること
グリコーゲンの合成は「グリコーゲンシンターゼ」
グリコーゲンの分解は「グリコーゲンホスホリラーゼ」
という酵素によってコントロールされています。
どちらの酵素も、後ほど説明するホルモンの作用によって活性がコントロールされています。
高血糖時はグリコーゲンの合成
高血糖時では、筋肉や肝臓がグルコースをからグリコーゲンを合成することによって、血糖値を下げるように働きます。
これは、食後の高血糖時に主に行われます。
低血糖時はグリコーゲンの分解
低血糖時では、肝臓でグリコーゲンをグルコースに分解して血液に流すことで、血糖値を上げるように働きます。
しかし、筋グリコーゲンは低血糖時でもグルコースに戻すことができないため、血糖値を上げることには貢献できません。
グリコーゲンの分解は、主に高強度の運動時や、飢餓時に行われます。
解糖系と糖新生でのグルコース合成・利用
血糖値のコントロールは、
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解糖系を通してグルコースを利用し
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糖新生によってグルコースを作ること
でもコントロールできます。
解糖系は、ホスホフルクトキナーゼによってコントロールされており、
-
ATP・クエン酸の不足時に活性化され
-
ATP・クエン酸の余剰時に抑制されます。
糖新生は、フルクトース1,6-ビスホスファターゼによってコントロールされており、
-
ATP・クエン酸の余剰時に活性化され
-
ATP・クエン酸の不足時に抑制されます。
解糖系と糖新生は、活性・不活性に同じ要因が関係していることからシーソーの関係性にあり、片方が活性である時には、もう片方が不活性になる関係性にあります。
クエン酸は、クレブス回路の中間体の一員で、アセチルCoAが余っていると「オキサロ酢酸→クエン酸」の反応が起こるが、クレブス回路自体はあまりわはらないので余剰します。
高血糖時の解糖系でのグルコース利用
高血糖時は、血中からグルコースを解糖系で代謝し、
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ジヒドロアセトンリン酸からのグリセロールの生成
-
ピルビン酸からの脂肪酸の合成
に利用されます。
グリセロールと脂肪酸が出来るので、結果的に中性脂肪がグルコースから合成されます。
高血糖時は、フルクトース2,6-ビスリン酸が増えることで、ホスホフルクトキナーゼが活性化します。
フルクトース2,6-ビスリン酸は肝臓でのみ合成されるため、高血糖時の解糖系の活性化は筋肉では起こらず、肝臓でのみ起こります。
炭水化物の摂り過ぎによって、高血糖→脂肪合成が進むメカニズムがまさしくこれですね。
解糖系は肝臓と筋肉で目的が違う
高血糖時で活性化した解糖系は、主に食事摂取によって十分にグルコースがある時に血糖値を下げるために働きます。
解糖系では、ホスホフルクトキナーゼが活性になることによって、グルコースの利用が促進します。
ホスホフルクトキナーゼの活性は、筋肉でも肝臓でも、
-
エネルギー余剰時は、ATPやクエン酸が多くなることで活性阻害され、
-
エネルギー不足時は、AMPによって活性されます。
しかし、肝臓に限っては「フルクトース2,6-ビスリン酸」が生成され、これもホスホフルクトキナーゼの活性に働きます。
「フルクトース2,6-ビスリン酸」は食後に多くなり、このことから肝臓では、エネルギー余剰時で、糖新生と解糖系を並行して働かすことができます。
低血糖時の糖新生でのグルコース生成
低血糖時では、アミノ酸やグリセロールなどから糖新生によってグルコースを合成します。
糖新生は、「フルクトース1,6-ビスホスファターゼ」という酵素によってコントロールされています。
フルクトース1,6-ビスホスファターゼは、ATPが十分にある時に活性化されます。
糖新生は、グルコースの補充方法としては効率的な方法ではないため、
ATPが十分にあり、かつ低血糖時に主に働きます。
主には、飢餓時の低血糖では、アミノ酸や脂肪酸を分解して糖新生に使うことでグルコースを作ります。
ホルモンの作用
血糖値は、ホルモンの影響によってもコントロールされます。
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高血糖時には、インスリンがグルコース利用を促進し、生成を阻害します。
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低血糖時には、複数のホルモンがグルコース生成を促進し、利用を阻害します。
内分泌系から分泌されたホルモンは、血液を流れて多くの反応に影響します。
一方で、細胞内に入って直接的に酵素や反応物質に働きかけられるわけではなく、細胞壁の受容体に結合した後、受容体からメッセンジャーが出ることで反応します。
ホルモンの作用は、酵素のアロステリック阻害とは別に起こります。
高強度運動時に、解糖系で乳酸をバンバン作りながら、となりで糖新生も同時に回すコリ回路が実現できるのはホルモン(グルカゴン・アドレナリン)のおかげです。
高血糖時には、インスリンがグルコースの利用を促進し、生成を阻害します。
高血糖時に、血糖値を下げるように働くホルモンはインスリンのみです。
血糖値を下げるホルモンがインスリンしかないことから、インスリンの働きが悪くなるとすぐに糖尿病になります。
一方で血糖値をあげるホルモンは複数存在し、これは低血糖症が糖尿病よりマイナーである理由です。
インスリンが分泌されると、
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肝臓・筋肉で、グリコーゲン合成が促進され、
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脂肪・筋肉で、解糖系でのグルコース利用が促進されます。
インスリンは、食後の高血糖時に主に分泌されるため、
脂肪・筋肉での解糖系のグルコース利用は、エネルギーとして利用されるよりも、中性脂肪の合成のために用いられます。
インスリンは膵臓のランゲルハンス島B細胞で合成されます。
低血糖時には、ホルモンはグルコースの生成を促進し、利用を阻害します。
低血糖時に、血糖値を上げるように働くホルモンは、グルカゴン、アドレナリン、成長ホルモン、コルチゾールなど複数あります。
血糖値を上げるホルモンには、放出される順番があり、血糖値が、
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70ml/dlを下回る頃から、グルカゴンとアドレナリンが分泌、
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65ml/dlを下回る頃から、成長ホルモンが分泌、
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60ml/dlを下回ると、最後にコルチゾールが分泌されます。
グルカゴンとアドレナリンが出た段階では、主にグリコーゲン分解を促進することでグルコースを生成し、素早く血糖値を上げます。
一方、成長ホルモンやコルチゾールは、アミノ酸や脂肪酸の糖新生によってグルコースを合成し、徐々に血糖値を上げます。
グルカゴンやアドレナリンは、運動中にも多く分泌されて、グリコーゲンの分解を促進させています。
グルカゴンはランゲルハンス島A細胞で分泌されます