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【コリ回路】運動による乳酸の除去

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みなさん、こんにちは。
 
 
糖新生に関係する重要な代謝の一連の流れで、忘れてはならないのが
「コリ回路」です。
 
そんなコリ回路ですが、激しい運動を行なってエネルギーを使った後にできる「乳酸」を使ってグルコースを作り直すシステムです。
 
つまり、「代謝物→エネルギー」のリサイクルを行ってくれる非常に体内に優しい代謝です。
その代わり、めちゃくちゃエネルギー(ATP)を使います。
 
という訳で今回は、
  • コリ回路とはどんな反応か
  • コリ回路はどんな役割を担っているのか
について解説していきます!
 
 
 
 

コリ回路は「糖新生 ⇆ 解糖系」のサイクル

まず、最初に間違わないようにして欲しいのが「コリ回路 ≠ 糖新生」ということです。
 
糖新生とは、乳酸、ピルビン酸、アミノ酸、グリセロール、プロピオン酸などの糖質以外の物質からグルコースを作り上げる代謝です。
 
この反対である「解糖系」は、エネルギーを作り出すためにグルコースを消費する代謝です。
 
つまり、コリ回路というのは、
  • 糖新生 = 糖を作り出す反応
  • 解糖系 = 糖を消費する反応
という、2つの反応が「糖新生 ⇆ 解糖系」と連携して行われる代謝です。
 
 
コリ回路と似たような回路に「グルコース-アラニン回路」というのもあります。
「グルコース-アラニン回路」は乳酸のかわりにアラニンを使う回路ですが、これは主に飢餓時などに活発に働きます。
 
 

 
コリ回路の”コリ”は、カール・コリ、ゲルティー・コリのコリ夫妻が発見したことにちなんで命名されています。夫婦の力によって見つけられた愛の回路という訳です(?)
 
 

コリ回路に関わる反応と酵素

コリ回路の流れは以下の⑴〜⑸のステップをグルグルと回り続ける回路です。
  1. 運動すると、筋肉が血液中から糖を取り込み利用して、乳酸ができる
  2. 血液中では、糖の濃度(=血糖値)が下がって、逆に乳酸の濃度が上がる
  3. 血糖値の低下に肝臓が対応して、乳酸を取り込みグルコースを生成する
  4. 作ったグルコースを血液中に流して、血糖値を元に戻す
  5. 再度、血液中の糖を筋肉が取り込み、エネルギーとして利用する
 
 
 

解糖系での乳酸の生成

コリ回路が活発に働き始める最初のスイッチは、解糖系がグルコースを利用して、乳酸を合成することです。
 
解糖系でグルコースを代謝すると最終的には「ピルビン酸」が生成さるのですが、
高強度の運動でエネルギー供給が間に合わなくなると、「ピルビン酸 → 乳酸」と変換されることで、乳酸が作られます。
 
この「ピルビン酸 → 乳酸」の反応が起こる解糖系のことを「嫌気性解糖系」と言います。
つまりは、嫌気性解糖系が必要になるような高強度の運動をすることでコリ回路が活性化します。
 
 
乳酸ができる「嫌気性解糖系」とは。
乳酸ができる解糖系のことを「嫌気性解糖系」または「速い解糖系」と言います。
一方で、乳酸があまりできない解糖系を「好気性解糖系」または「遅い解糖系」と言います。
 
より速くエネルギーを作りたいときは「ピルビン酸→乳酸」と乳酸に変換することで、より円滑に解糖系を利用することができます。
これが嫌気性解糖系です。
 
遅くてもいいから省エネでエネルギーを作りたいときは「ピルビン酸→アセチルCoA」とアセチルCoAに変換して、クレブス回路に移行します。
これが好気性解糖系です。
 
つまり、グルコースを分解してできた「ピルビン酸」は、
より高強度の運動を行っていると「嫌気性解糖系」を利用して乳酸に変換され
より低強度の運動を行っていると「好気性解糖系」を利用してアセチルCoAに変換されます。
 
なので、乳酸が生成してコリ回路にスイッチを入れるためには、
嫌気性解糖系を必要とするような高強度の運動を行っていることが条件になります。
 
好気性解糖系の「好気性」とは「酸素を利用する」という意味ですが、「好気性解糖系」であっても酸素を利用するわけではありません。
「嫌気性解糖系」と「好気性解糖系」の違いは、解糖系”後”の代謝が好気的か嫌気的か。なので、解糖系自体はどんな時でも嫌気性です。
 
 
嫌気性解糖系が必要になる運動強度「LT(乳酸作業性閾値)」
嫌気性解糖系が活発になるは、どれぐらい高強度の運動かと言うと、
LT(乳酸作業性閾値)以上の強度の運動です。
 
LTとは、血中乳酸濃度が上昇し始める運動強度のことで、
この強度を超えると、嫌気性解糖系が活発になり、乳酸生成が活発になります。
 
LTは人によってかなり異なり、一般人ではVO2maxの50~60%、アスリートではVO2maxの70~80%程度の強度になります。
(有酸素性のアスリートでは、VO2maxの90%近くになります。)
 
 

血液に乳酸を流して肝臓に届ける

筋肉で乳酸ができると、その次に乳酸は血液中に流れ出します。
 
血液中に流れ出た乳酸は、主に以下の2つの使い道があります。
  • 遅筋に取り込まれて、エネルギーとして利用される。
  • 肝臓に取り込まれて、グリコーゲンに作り変えられる。
 
遅筋に取り込まれてエネルギー利用された場合は「乳酸シャトル」と言う、また違った代謝経路が働きます。
 
一方で、肝臓に取り込まれて、グリコーゲンに作り変えられると「コリ回路」の代謝経路になります。
 
 

肝臓での糖新生

血中に流れ出た乳酸が肝臓で取り込まれると、次に糖新生によってグルコースに作り変えられます。
 
糖新生では、乳酸をピルビン酸→オキサロ酢酸と変換し、最終的にホスホエノールピルビン酸まで変換すると、そこからは解糖系を逆走して、グルコースまで変換します。
 
 

 
 

コリ回路の役割

コリ回路の目的は、乳酸濃度が高くなることによる乳酸アシドーシスを防ぐことにあります。
 
乳酸が増加すると組織のpHが低下(酸化)し、組織の活動を抑制します。
この組織が酸化された状況を「乳酸アシドーシス」と言います。
 
高強度の運度をすると乳酸が一気に生成され、筋肉で乳酸アシドーシスが進みます。
コリ回路は、乳酸を分解して乳酸アシドーシスを防ぐ重要な役割を担っています。
 
乳酸アシドーシスは筋疲労の原因と考えられていた時期がありましたが、
現在のエビデンスでは、コリ回路の働きは乳酸アシドーシスを防ぐのに十分であり、
乳酸アシドーシスによって筋疲労が起こることは通常ではない、と近年のエビデンスでは考えられています。
 
一方で、高強度の運動での筋酸化による疲労は、無機リン酸などの上昇によるものだと考えられています。
 
 

コリ回路を使えば使うほどエネルギー的には損をする

乳酸を糖新生して作ったグルコースは筋肉で再度エネルギー利用するのですが、糖新生でグルコースを作ることはあまりエネルギー効率は良くありません。
 
糖新生で、乳酸からグルコースを生成するのにATPを6個消費する必要があります。
 
嫌気性解糖系では、グルコースからはATPを2個合成できるので、コリ回路を使えば使うほどエネルギー的には損をすることになります。
(正確には、2個のATPを反応前半で消費して、4個のATPを反応後半で生み出します。)
 
 
なので、コリ回路は乳酸アシドーシスを防ぐことが主な役割になります。 
 

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