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サッカーでは乳酸はそんなに増えない!【サッカーの科学】

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昔は乳酸は疲労物質であると考えられていましたが、近年の見解では乳酸が疲労物質になることは基本的にないという結論に至っています。

 

ですが、高強度の運動を行うことで乳酸が生成され、疲労が溜まると共に血液中の乳酸が増加するということは紛れもない事実です。

 

じゃあ、サッカーでは高強度ダッシュを繰り返す訳なので、

サッカーをするともちろん乳酸が溜まるだろう!

と考えられそうです。

 

しかし、Bangsbo, J. さんとKrustrup, Pさんが2007年に発表した論文では、

サッカーの試合では乳酸は時間と共には蓄積されて行かない

という事が明らかにされています。

 

というわけで今回は、

サッカーにおける乳酸値とそこから考えられるサッカーの疲労について紹介していきます。

 

 

実験内容と結果

今回紹介する論文は、コペンハーゲン大学のBangsbo教授と南デンマーク大学のKrustrup教授が2007年に発表した、

「Metabolic response and fatigue in soccer.(=サッカーにおける代謝反応と疲労)」

という論文の内容を紹介します。

 

実験方法

この論文は17個の論文のデータをまとめた、メタアナリシスと言われる方式の論文です。

トップレベルのサッカー選手のみを対象としており、

公式戦や親善試合などの実際のサッカーの試合で実験を行っているデータを使っています。

血液中の乳酸を測っていますが、その採血方法は指先から、上腕静脈からなど様々です。

 

メタアナリシスは、
類似したテーマの論文を集約し、そのテーマの現在のエビデンスを集約する最も信憑性が高い論文の方式です。

 

実験結果

17個の論文のデータを1つのグラフにまとめたのが下のグラフです。

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試合開始前の血中乳酸濃度は安静正常値ですが、

前半終了時には 4.0 (mmol/L) 以上に一気に上昇します。

 

その後、ハーフタイムの間に乳酸は30%程度が回復しているのが分かります。

ここまでは、予想できる結果が得られています。

 

注目すべきは後半の乳酸値の上がり具合です。

本来なら、疲労が溜まるにつれて乳酸が上がりそうですが、後半では前半以上に乳酸値は上昇していません。

 

 

考察:なぜ乳酸が後半に増加しないのか

なぜ、前半に比べて後半の方が乳酸の値が低くなるのか。

 

対象者はトップレベルのサッカー選手で、公式戦や親善試合などの実際の試合の中で測定が行われているので、

「選手が後半に手を抜いたから?」なんて訳はありません。

 

じゃあ、なぜ乳酸値が後半に上がらなかったのかというと、

後半に乳酸値を上げるほどの強度が発揮できなかったから。

です。

 

 

乳酸は高強度の運動を行なって初めて発生する。

乳酸は、高強度の運動を行った時に発生します。

なので、根本的に強度が低くなってしまえば乳酸は溜まりません。

 

つまり、疲労によって、

  • 高強度の運動が出来なかったり
  • 継続的に運動出来なかったり

すると、疲労度が高いにも関わらず乳酸は増加しません。

 

サッカーの試合では、前半に比べて後半の方が運動の強度頻度も下がります。

 

この強度と頻度の低下が、乳酸が溜まらないぐらいまでに下がってしまっているということです。

 

 

この結果から言える「サッカーの持久力とは。」

この論文からは「サッカーにおける持久力とは。」ということに掘り下げていくことができます。

 

乳酸が 4(mmol/L)以上になる強度をOBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation)というものがありますが、

これは有酸素性優位から無酸素性優位に入れ替わるタイミングで、アスリートではVO2maxの70~80%程度になります。

 

後半の運動強度は、ちょうど4(mmol/L)程度なので、

有酸素性優位と無酸素性優位の間ぐらいの運動強度になっているということになります。

 

前半では、より無酸素性優位の強度を発揮できていたので乳酸の値が高くなりましたが、

後半では疲労の影響で、有酸素性優位の強度になってきてしまっているということが言えます。

 

こういった乳酸値のデータから、「サッカーに必要な持久力」とは、

後半でも無酸素性優位の強度の高い運動を維持できるか。ということになってくると言えます。

 

 

参考文献

Bangsbo, J., Iaia, F. M., & Krustrup, P. (2007). Metabolic response and fatigue in soccer.International journal of sports physiology and performance,2(2), 111.

 

 

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