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サッカーにおける乳酸値から個人の選手の特徴を読み解く

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前回の記事「サッカーでは乳酸はそんなに増えない!【サッカーの科学】 」で、

サッカーでは後半でアクションの強度と頻度が下がり、

その結果、乳酸の値が前半より後半の方が低くなることを論文より紹介しました。

 

ですが、前回は選手全体の乳酸値からざっくりとした「サッカーの持久力とは。」という話をしました。

 

今回は、サッカーにおける乳酸値を選手個人のレベルでもっと掘り下げていきたいと思います。

 

 

実験内容と結果

前回と同じく、コペンハーゲン大学のBangsbo教授らが2007年に出した、

「Metabolic response and fatigue in soccer.(=サッカーにおける代謝反応と疲労)」

という論文から前回とは別のデータを引用して紹介していきます。

 

実験方法

こちらの実験は、アマチュア選手にフレンドリーマッチをしてもらい、

前半・後半の前後だけでなく、前半と後半の最中にも乳酸値取っている非常に豪快な方法で行っています。

ちなみに、血糖値や血中の遊離脂肪酸も取っていますがここでは省きます。

 

実験結果

A選手(●)、B選手(△)、C選手(○)の3選手の乳酸値と遊離脂肪酸の結果は以下のようなグラフになりました。

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考察⑴:3選手の共通点

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まず、最初にA,B,Cの3選手共に共通する乳酸値の推移には、

  • 前半・後半の開始5分乳酸値が上昇すること。
  • 前半の開始10分乳酸値が低下すること。

が挙げられます。

 

前半・後半の開始5分での乳酸値上昇

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まず、3選手共に共通している点として、

前半と後半の開始食後の5分間は乳酸値が高くなっています。

(C選手の後半開始5分は、変わっていないとして。)

 

これらが示していることは至ってシンプルで、

前半と後半の最初はしっかりと強度を上げられている。ということです。

 

試合の開始直後やハーフタイムの直後は疲労が少ない訳なので、

もちろん、高強度のプレーの強度も頻度も高く発揮することができます。

それに応じて乳酸の値も高くなります。

 

それに加えて、有酸素性のエネルギー供給がまだ立ち上がっていないので、無酸素性のエネルギー供給が優位に働いているというのも幾分か影響しています。

 

 

前半の開始10~15分の乳酸値の低下

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もう一つの共通点としては、

前半の開始10分で乳酸値が低下する

ということです。

 

まだ、開始10分の段階なのでまだまだ乳酸値が増加しても良さそうなのですが、

どの選手も開始5分間で一度ピークを迎えてそれからは乳酸値が上がっていません。

 

これは、10分間程度経過したことで有酸素性のエネルギー供給が立ち上がってきたことが考えられます。

有酸素性のエネルギー供給が増えるということは、遅筋での乳酸の分解も促進します。

 

その結果、乳酸が溜まりにくくなったと考えられます。

 

考察⑴の結論:開始5分間は以上な無酸素性のエネルギー供給が起こる。

これら2つの共通点から、主に前半の開始5分間では

  • 疲労が少ないことで、強度の高い運動をすることができた
  • 有酸素性エネルギー供給が立ち上がっていなかった

ということが考えられます。

 

ということは、この時間帯には余計なグリコーゲンの消費が起こるということが考えられます。

 

サッカーにおいて、グリコーゲンは最も大事なエネルギー源なので、立ち上がりにポゼッションから入って徐々に強度を上げていくことで、

有酸素性のエネルギー供給を先に立ち上げて、グリコーゲンの無駄な消費を抑えることができる可能性も考えられます。

 

他の研究で、サッカーの試合を1試合することで筋グリコーゲンの80%以上消費するということも明らかにされています。グリコーゲンの節約は後半のパフォーマンスに非常に重要と考えられます。

 

 

考察⑵:乳酸値での選手個人の特徴を比較

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次は、選手毎の乳酸値の違いからどのようなことが言えるかを考えていきます。

 

 

A選手(●)

A選手は、

  • 試合通して乳酸値が高く
  • ハーフタイムや試合後に乳酸値が大きく低下

しています。

 

これは、

  • 1試合通して高いインテンシティを発揮でき
  • 筋酸化による疲労に強い

ことが特徴として挙げられます。

 

他の2選手に比べ、試合を通して高いインテンシティを維持できていると考えられます。

 

 

B選手(△)

B選手は、

前半では乳酸値がやや高く

ハーフタイムでの乳酸値の低下は大きい

後半のラスト30分での乳酸値の低下が目立つ

ことが特徴として見えます。

 

これは、実際の試合の中では

  • 前半のインテンシティはやや高く
  • 筋酸化による疲労にもやや強い
  • 後半ラスト30分でインテンシティが低下する

という特徴があると考えられます。

 

特に後半ラスト30分での乳酸値の低下は、無酸素性のエネルギー供給が低下している事を示しているので、

試合終盤にグリコーゲンの枯渇が起こっている可能性が高いです。

 

 

C選手(○)

C選手は、

  • 開始5分間は高い乳酸値を発揮するが
  • その後は試合を通して乳酸値が低い

という特徴があります。

 

これは、

  • 試合を通してインテンシティが低く
  • しかし、後半ラストでのインテンシティの低下はない。

ことが考えられます。

 

他の2選手に比べ、試合を通してインテンシティが低いです。

これは疲労耐性が低いのか、またプレースタイルによるものなのかは分かりませんが、

ダッシュなど高いインテンシティのプレーが少ないことが予想されます。

(キーパーなのかもしれません。)

 

 

個人データから考察する際の注意

しかし、これら個人のデータを他の選手と比較することは、様々な個人差を考慮できないため、誤解の可能性が高くなります。

 

仮に同じコンディションで同じ強度の運動をしたとしても、選手によって、得意なスピード、得意な環境、または生理学的な反応など、様々な要素が関わり、乳酸値はかなり大きく異なります。

 

そのため、個人のデータを考察するには、定期的にデータを取り、同じ選手のデータ同士を比較する必要があります。

 

 

参考文献

Bangsbo, J., Iaia, F. M., & Krustrup, P. (2007). Metabolic response and fatigue in soccer. International journal of sports physiology and performance, 2(2), 111-127.

 

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