トレーニング Univ.

最新のトレーニング科学を、身近に。

アクティブリカバリーは実はエビデンスない?|筋損傷への効果

スポンサーリンク


スポンサーリンク


f:id:tatsuki_11_13:20181112063916p:plain

 

スポーツ現場でよく用いられるリカバリーの筆頭株主。それはアクティブリカバリーではないでしょうか。

 

ニュースなどで、

「日本代表合宿の初日はリラックスしたムードで軽い運動での調整を行いました。」

って言われている時に、行われている「軽い運動」こそがアクティブリカバリーです。

 

アクティブリカバリーは、血液の循環を促して疲労の原因となる物質を分解するように仕向けることを目的にしているというのは、よく知られていると思うのですが、

「どの疲労物質を循環させることを目的にしてるの?」
「はたして、それ本当に効果あるの?」

と言う疑問が湧きます。

 

というわけで今回は、
アクティブリカバリーでどんな疲労が回復してるのか。また、その回復効果のエビデンス

について解説していきます。

 

 

 

スポーツで考えられる疲労の原因・疲労物質

多くのスポーツで考えられる身体的な疲労には、大きく4つあります。

「クレアチンリン酸の枯渇」「筋の酸化」「筋損傷」「筋グリコーゲンの枯渇」

です。

 

これらの疲労から回復すると、また100%のパフォーマンスが発揮できるようになるわけですが、これらには回復速度の違いがあり、

「クレアチンリン酸の枯渇」<「筋の酸化」<「筋損傷」<「筋グリコーゲンの枯渇」

で回復に時間がかかります。

 

クレアチンリン酸の枯渇

クレアチンリン酸は、全力スプリントやレジスタンストレーニングなどの瞬発的な運動で大活躍するエネルギー源なのですが、同時に、全力運度を10秒程度繰り返すとほとんど枯渇してしまうという持久性が1ミリもないエネルギー源です。

 

ちなみに。陸上100mですら、最高速度地点はゴールのタイミングではなく70~80m地点になるのは、6~7秒時点からクレアチンリン酸の枯渇が影響し始めるからです。

 

クレアチンリン酸が枯渇すると、クレアチンからクレアチンリン酸から再合成させて回復させます。

そして、クレアチンリン酸がほぼゼロの状態からでも、約4分あれば約90%が回復し、8分あればほぼ100%が回復します。

つまり、クレアチンリン酸の枯渇による疲労は、試合中では大いに影響しますが翌日に響いたりということはほとんどありません。

 

筋の酸化

筋グリコーゲンを使ってエネルギーを作り出すような割と激しい運動をすると乳酸が生成されます。また、ATPを大量に分解する中で無機リン酸も生成されます。

乳酸・無機リン酸は「酸」というぐらいなので、水素イオンを血液や筋肉に蓄積させて酸性にする作用があります。

 

乳酸や無機リン酸が大量に血液中・筋中に蓄積することで、筋繊維、神経、酵素などの最適pHを下回り活性が下がるので、パフォーマンスの低下が起きます。

 

この酸化ストレスに対して我々の身体は、重炭酸イオンで水素イオンを中和することで太刀打ちします。

この耐酸化ストレスの能力を筋緩衝能と言うのですが、この筋緩衝能もリカバリーとしては十分に強力で、翌日までに筋の酸化を緩衝するには十分な力が備わっています。

 

ちなみに。血中乳酸濃度に絞って筋緩衝能力を見た研究では、4mmol/Lから通常の1mmol/L程度に戻るのに、安静で30分程度をようしたと報告されています。(Menzies, P. et al. 2010. )

血中乳酸は、全力運動を行なった場合で10mmol/Lを超える程度にまで上がるので、以上の研究では30分に3mmol/L回復しているのことから、最高に筋が酸化されていても90分あれば十分に回復できると考えられます。

 

筋損傷

筋損傷は、どのような強度のどのような運動様式によって引き起こされたかによるので、回復時間についてはなんとも言えないところなのですが、多くのスポーツでは翌日以降にも筋損傷の回復は間に合わないことの方が多いです。

 

サッカー、バスケット、やラグビーのようなスポーツでの筋損傷は、試合の強度にもよりますが、一般的に2,3日程度を回復に要します。

また、シーズンによって慢性的になるとさらに日数が長引くことが言われています。

そのため、試合翌日以降のリカバリーの1つの目的になります。

 

ちなみに。一流サッカー選手を対象とした研究を例に挙げると、
筋損傷の指標となる、血中クレアチンキナーゼ濃度は試合翌日にベースの約2倍に上がり、2日後にベースの約20%まで回復します。クレアチンキナーゼが測定時の前日の筋損傷量を示すので、試合翌日の段階で20%程度の筋損傷が残っているということを示しています。(Russell, M. et al. 2015. )

 

筋グリコーゲンの枯渇

グリコーゲンは、肝臓に約100g、筋肉中に約300gが存在します。(血液中には、グルコースとして幾分か存在します。)

そして、激しい運動を繰り返して解糖系のエネルギー供給でATPを作ると、どんどん枯渇していきます。

 

多くのスポーツでは、試合後半にスプリントのスピード・持久力・頻度が落ちると思いますが、これはグリコーゲンの枯渇が主な原因です。

水分の減少で電解質異常や筋損傷なんかもありますが、主にはグリコーゲンの枯渇が原因に考えられます。

 

サッカーの試合では、筋グリコーゲンはほとんどゼロまで枯渇すると言われています。その、ゼロまで枯渇したグリコーゲンを再合成するためには3日が必要だと言われています。

ちなみに。グリコーゲンの再合成は、損傷していない筋繊維にはでは1日でほぼベースの量まで再合成されます。しかし、損傷している筋肉では、まず修復しなければグリコーゲンを貯蔵できないので回復できません。つまり、筋損傷が多ければ多いほど、グリコーゲンの回復は遅れます。

 


アクティブリカバリーで血液循環を促すメリットとは?

翌日以降には、「筋損傷」「筋グリコーゲンの枯渇」の疲労が残るという話でしたが、
このうち、アクティブリカバリーによって血流循環を促進することで、回復効果がでるのは「筋損傷」です。

 

筋損傷が修復すれば、筋グリコーゲンは回復するので、試合翌日以降は「筋損傷をいかに早く治すか。」ということに焦点が当てられることになります。

 

シーズンを考えると、精神的な疲労もあるので精神的なリフレッシュもアクティブリカバリーの目的になりますが、今回は身体的な話に絞るので割愛。

 

アクティブリカバリーを行なって血流を促進すると、毛細血管が拡張して末梢に酸素がより行き渡ります。

また、血流に乗せて、損傷した筋細胞を除去することも助けます。これらの作用によって、筋繊維の再生過程が促進するメリットが得られるわけです。

 


でも、そんなにアクティブリカバリーの効果はない?

アクティブリカバリーが筋損傷の回復を促進するメカニズムは確かに考えられるのですが、アクティブリカバリーがパフォーマンスの回復に効果があるとしているエビデンスは意外にもあまり多くありません。むしろ、ネガティブな効果がるとするエビデンスもあります。

 

ポジティブなエビデンスとしてはラグビー選手を対象とした研究があり、試合後にアクティブリカバリーをすると、パッシブリカバリーつまり安静よりも血中クレアチンキナーゼ濃度が低値になった。つまり、筋損傷が回復し少なくなった。ということが報告されています。(Gill, N. et al. 2006.)

 

日本のラグビー選手を対象に行なった研究や、スウェーデンとノルウェーの女子サッカー選手の対象にした研究では、アクティブリカバリーの効果がないとしています。(Suzuki, M. et al. 2004. Andersson, H. et al. 2008.)

 

一方で、ネガティブな影響を挙げている論文ではマラソンの研究が挙げられ、この論文ではマラソン直後にアクティブリカバリーを行った結果、安静にする場合より下肢筋力の回復が遅れたと報告されている。(Sherman et al. 1984.

 

というように、アクティブリカバリーのエビデンスはあまり綺麗には出ておらず、どいういったシチュエーションでアクティブリカバリーの効果がポジティブになるのかは、まだエビデンス的には明らかにされていないという状況です。

 

 

まとめ

今回のポイントは以下のような感じでした。

  • スポーツで翌日以降に残る疲労は「筋損傷」「筋グリコーゲンの枯渇」
  • アクティブリカバリーでは「筋損傷」を回復促進させる狙いがある
  • しかし、エビデンスでは効果があったりなかったりする。

 

まぁ、マラソン直後にアクティブリカバリーはそりゃダメでしょ。って思うので、試合の翌日なんかにクティブリカバリーすることは問題はないと思いますが、アクティブリカバリーの効果は絶大にあるということはないとも言えますね。

 

 

参考文献

  1. Andersson, H. M., Raastad, T., Nilsson, J., Paulsen, G., Garthe, I., & Kadi, F. (2008). Neuromuscular fatigue and recovery in elite female soccer: effects of active recovery. Medicine & Science in Sports & Exercise, 40(2), 372-380.
  2. Gill, N. D., Beaven, C. M., & Cook, C. (2006). Effectiveness of post-match recovery strategies in rugby players. British journal of sports medicine, 40(3), 260-263.
  3. Menzies, P., Menzies, C., McIntyre, L., Paterson, P., Wilson, J., & Kemi, O. J. (2010). Blood lactate clearance during active recovery after an intense running bout depends on the intensity of the active recovery. Journal of sports sciences, 28(9), 975-98
  4. Russell, M., Northeast, J., Atkinson, G., Shearer, D. A., Sparkes, W., Cook, C. J., & Kilduff, L. P. (2015). Between-match variability of peak power output and creatine kinase responses to soccer match-play. The Journal of Strength & Conditioning Research
  5. Sherman, W. M., Armstrong, L. E., Murray, T. M., Hagerman, F. C., Costill, D. L., Staron, R. C., & Ivy, J. L. (1984). Effect of a 42.2-km footrace and subsequent rest or exercise on muscular strength and work capacity. Journal of Applied Physiology, 57(6)
  6. Suzuki, M., Umeda, T., Nakaji, S., Shimoyama, T., Mashiko, T., & Sugawara, K. (2004). Effect of incorporating low intensity exercise into the recovery period after a rugby match. British journal of sports medicine, 38(4), 436-440.
Copyright©️2018 トレーニングUniv. All rights reserved.