ハムストリング肉離れの従来型リハビリの問題点〜エキセントリックが必要な理由〜
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多くのスポーツ選手が経験する怪我といえばハムストリングの肉離れがあると思います。
サッカーではハムストリングの肉離れが最も多い怪我で、全体の12%にあたります。
また他の多くの競技でも、ハムストリングの肉離れは肉離れの中でもかなりメジャーな部位と言えると思います。
そんな、ハムストリングの肉離れがスポーツ選手にとって厄介な理由として「再発のリスクが高い」ことが挙げられます。
その原因として色々な原因がこれまでも考えられてきましたが、その中の一つに
最大筋力を発揮する膝の角度も言われています。
ということで今回は、
ハムストリング損傷をした選手のハムストリングの張力曲線について見ていこうと思います!
研究概要
今回は、2004年にACSMに投稿された、
「Predicting Hamstring Strain Injury in Elite Athletes」
という論文を参考に解説していきます。
研究対象者
研究対象者は、オーストラリアンフットボール選手24名と陸上選手4名で、
ハムストリング損傷を経験したことがある選手群には、
-
オーストラリアンフットボール選手:5名
-
男性陸上短距離選手:2名
-
男性陸上長距離選手:1名
-
女性陸上短距離選手:1名
ハムストリング損傷を経験したことがない選手群には、
-
男性オーストラリアンフットボール選手:19名
が含まれています。
また、これらの対象者は、従来型のリハビリプロトコルに取り組んでおり、
エキセントリック収縮を含むトレーニングに取り組んでいませんでした。
・・研究デザイン
Biodexによって等速性の膝伸展筋力(大腿四頭筋筋力)と膝屈曲筋力(ハムストリング筋力)を測定し、
-
最大トルク
-
張力曲線
を測定しています。
ハムストリングの受傷経験者の張力曲線
※左図:ハムストリングの張力曲線、右図:大腿四頭筋の張力曲線
※○:左足、●:右足
上のグラフは、ハムストリング損傷非経験者の典型的な張力曲線を示した選手の例です。
ハムストリング損傷非経験者の張力曲線は上の表のように、
-
大腿四頭筋の筋力・ピーク時の角度、共に左右差はありませんでした。
- ハムストリングの筋力・ピーク時の角度、にも左右差はありませんでした。
※左図:ハムストリングの張力曲線、右図:大腿四頭筋の張力曲線
※○:健側、●:患側
一方で、上のグラフはハムストリング損傷経験者の典型的な張力曲線です。
ハムストリング損傷経験者の張力曲線は上の表のように、
-
大腿四頭筋では左右差はありませんでした
-
ハムストリングでは、患側の最大筋力時の膝角度が大きくなっていました
つまり、
ハムストリングの最大筋力を発揮した時の膝の屈曲角度が大きくなっていました。
ハムストリング最大筋力時の膝屈曲角度
上のグラフは、ハムストリングが最大筋力となる膝屈曲角度の各群の平均値をを比較したグラフです。
このようグラフのように、
ハムストリング損傷を経験したことがある選手は、最大筋力となる膝屈曲角度が患側で大きくなる
ことがこの研究では明らかになりました。
従来のリハビリプロトコルによる問題点
こう行った結果になった原因として、
ハムストリング損傷に対する従来のリハビリプロトコルの問題点があると考えられます。
この研究は、2004年に行われている研究のため、従来のコンセントリック収縮を中心としたリハビリプロトコルを取り入れていました。
そういった従来型のプロトコルでも確かに筋力の回復は十分に見られ、
ハムストリング損傷経験者の張力曲線を見てもらうと、最大筋力に関しては健側と同じ程度に回復しているのがわかると思います。
(なんなら、少し患側の方が強い。)
ですが、どの角度で最大筋力が発揮されているかということを見ると、そこには健側との間に大きな違いが見られました。
一方で、近年のエビデンスではエキセントリック収縮を含むプロトコルが重要視されています。
サッカー選手を対象としたけん研究では、ハムストリング損傷のリスクを60%減少させるというメタアナリシスの研究が出ています。
サッカー選手を対象としたけん研究では、ハムストリング損傷のリスクを60%減少させるというメタアナリシスの研究が出ています。
ハムストリング損傷のほとんどは伸展位での損傷
多くのハムストリング損傷は、以下の2つの受傷タイプがあります。
-
Sprinting-type
-
Streching-type
Sprinting-typeは、主にスプリントの接地時に膝伸展位で骨盤の前傾が加わることによって起こります。
Stretching-typeは、膝伸展×股関節屈曲の動作を速いスピードで行なった場合に起こります。
ポイントとなるのは、どちらの場合も膝伸展位で起こるということです。
これらを防ぐためには、膝伸展位でもハムストリングがしっかり働く必要があります。
こういった観点からも、今回の研究の結果のように
最大筋力発揮時の膝屈曲角度が大きくなることは、ハムストリング損傷の再発のリスクを高める要因となると考えられます。
Sprinting-typeの多くは大腿二頭筋長頭、Streching-typeの多くは半膜様筋で起きる、どちらも近位で起こることの方が多いという研究結果もあります。
まとめ
今回は、Brockett et al. (2004)の論文より、ハムストリング損傷を経験した選手の再発リスク因子について解説していきました。
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ハムストリング損傷経験者は、ハムストリングの最大筋力をより屈曲位(約40°)で発揮する
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これは、エキセントリックを含まない従来式のリハビリプロトコルの問題点によるもの
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ハムストリングの再発予防には、伸展位でハムストリングが働く必要がある
次回は、エキセントリックなリハビリプロトコルである「ノルディックハムストリングトレーニング」の効果についての論文を解説していきます!
参考文献
Brockett, C. L., Morgan, D. L., & Proske, U. W. E. (2004). Predicting hamstring strain injury in elite athletes. Medicine & Science in Sports & Exercise, 36(3), 379-387.