なぜ後半には、最初3歩は全力で走れても、後の10歩は走れないのか。
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多くのスポーツでは、試合を通して全力での運動を何度も繰り返していきます。
スポーツの試合の前半、疲労があまりない間は50m、100mぐらいの距離でもほぼ100%のスピードを維持しながら走り続けることは出来ますが、後半になってくるとそうも行きません。疲労が溜まると、30m、時には10mぐらい走ると息が切れて足に力が入らなくなります。
具体的にサッカーなら、試合の前半は激しいプレッシングが掛かっていても、後半になるとプレスが掛からなくなるように、確かに連続してスプリントを繰り返すことは試合が後半になるにつれて難しくなります。
ですが、そんな後半の疲労が溜まった状態でも10m程度のダッシュならほぼ全力で出来ますよね?
なぜ疲れてても、10m程度なら走れるのかでしょうか?
気持ちの問題と片付けてしまったもいいのですが、今回は気持ちの部分を一旦脇に置いておいて、
多くのスポーツで起こる試合後半の疲労とは何なのか。また、その時でも10mのスプリントはなぜ可能なのか。
について話して行きます!!
※その前に。
スポーツと言っても、様々な運動様式のスポーツがもちろんあります。今回は、スプリントのような瞬発的な運動を何度も繰り返すスポーツ(サッカー、バスケットなど)に焦点を当てて話していきます。
- 多くのスポーツにおいて起こる疲労とは。
- クレアチンリン酸の枯渇による疲労とは。
- クレアチンリン酸は試合中に何度も回復されている
- つまり、後半でも10mはスプリントできるのはクレアチンリン酸のおかげ
- まとめ
多くのスポーツにおいて起こる疲労とは。
疲労と一言に言っても、何が原因となって起こる疲労なのかによって分類しなければなりません。
まず、疲労の種類は大きく「中枢性疲労」と「末梢性疲労」の2つに分類できます。
サラリーマンがよく言う「疲れたわー」という疲労は主に中枢性疲労、つまり脳が疲労している状態です。
一方、スポーツ選手が言う「疲れて足が動かん」という疲労は末梢性疲労、つまり身体の疲労です。
中枢性疲労が溜まっていると末梢性疲労も溜まりやすくなる、また逆も然りという関係性にはありますが、
どっちが根本的な原因で解決しないけない疲労か。と考えるときは明確に分けることが出来ます。
そして、スポーツの試合中に起こる疲労は、もちろん末梢性疲労です。筋肉をバンバン使っている訳なので脳の以上に身体が疲れます。
(スポーツ選手はシーズンを通してプレッシャーに晒されるので、中枢性疲労もがっつり溜まります。ただ、試合中に中枢性疲労が増える訳ではないので、今回は触れません。)
末梢性疲労の中でさらに原因を分類すると、
- クレアチンリン酸の枯渇
- グリコーゲンの枯渇
- 筋の酸化
- 筋損傷
などが挙げられます。
そして、瞬発的な運動を何度も繰り返すようなスポーツで起こる疲労は主に「クレアチンリン酸の枯渇」、「グリコーゲンの枯渇」が起因していると言われています。
※筋肉がつる原因にもなる「筋の酸化」も一つの疲労の原因として挙げられますが、200mぐらい全力で走るようなことがないと、それほどパフォーマンスに影響しないので、今回は割愛します。
- 疲労の種類には、脳での「中枢性疲労」と身体での「末梢性疲労」がある。
- 中枢性疲労と末梢性疲労は相互関係するが、区別できる。
- スポーツの試合中に関係する末梢性疲労は「クレアチンリン酸の枯渇」と「グリコーゲンの枯渇」による影響
クレアチンリン酸の枯渇による疲労とは。
クレアチンリン酸は、ATC-PCr系(非乳酸性無酸素性エネルギー供給)と言われる無酸素性エネルギー供給のエネルギー源として利用されます。
クレアチンは「Cr」なので、英語式のATP-CPr系を個人的には好んでます。
このエネルギー供給系の特徴は、非常に早く反応し、非常に早く枯渇し、そして非常に早く回復する。という点です。
「クレアチンリン酸 +ADP → クレアチン+ ATP (+水)」というシンプルな化学式でATPを作り出すことができる上に、クレアチンキナーゼという酵素の触媒効果によって反応を加速することができるので、
ATP-PCr系はATPを最も早く生成することが出来ます。
(解糖系によるエネルギー供給では、グルコースから約9回の反応を通して2個のATPが作られます。)
ですが、筋中のクレアチンリン酸貯蓄量はかなり少なく、10秒あればクレアチンリン酸はもう枯渇してしまいます。
一方で、回復も非常に早く進むので、ほとんどのクレアチンリン酸が運動によって枯渇した状態であっても、運動後に安静(パッシブリカバリー)にしていると、25秒で50%が回復し、1分間で70%が回復、そして8分後にはほとんど100%回復することが出来ます。
陸上100mのような瞬発的なトレーニングを積んだアスリートは、クレアチリン酸をより早く反応させること、またクレアチンリン酸をよりゼロに近い量まで枯渇させ利用できることが研究で明らかにされています。
また、経口でのクレアチンリン酸の摂取が瞬発的なパフォーマンスに影響を及ぼすか、は未だに意見が分かれています。個人的にはないと思っています。
- クレアチンリン酸は約10秒で枯渇する。
- しかし、1分で約70%を回復させ、8分でほぼ100%回復することが出来る。
クレアチンリン酸は試合中に何度も回復されている
多くのスポーツでは、5秒程度のスプリントが繰り返されると5割〜8割程度のクレアチンリン酸が利用され枯渇する訳ですが、25秒で50%、1分で70%のクレアチンリン酸を回復可能と言うことはど言うことかと言うと、
スプリントの後に1〜2分間止まったり歩いたりする時間があるので、試合中でも十分にクレアチンリン酸を回復することが可能ということです。
ちなみに、有酸素性の運動に優れている選手はスプリントを頻繁に繰り返すことも得意としているという感覚があると思います。
有酸素性の運動が優れている選手は、クレアチンリン酸のエネルギー供給を苦手としているにも関わらず、なぜ何度もスプリントを繰り返すことに関しては得意としているのか。
それは、クレアチンリン酸の回復が筋肉に取り込まれる酸素の量に影響されるからです。
有酸素性の運動に優れている選手もスプリントを行うと、同じように10秒程度でクレアチンリン酸を枯渇させてしまいます。
ですが、酸素をより多く筋肉に取り込み回復に当てることが出来るので、1~2分あれば無酸素性の運動が得意な選手より多くのクレアチンリン酸を回復させることが出来ます。
そのため、頻繁にスプリントを繰り返すことが出来ると言う訳です。
逆に言えば、無酸素が得意だが頻繁にスプリントを繰り返すことが出来ない選手は、酸素を効率的に利用できるようなトレーニングをしていくことが必要だと言えます。
ただし、有酸素トレーニングの効果は筋肥大の効果を相殺してしまうので注意が必要です。
有酸素性の運動に優れている選手は、比較的にクレアチンリン酸の反応速度は遅く、ATP-PCr系によるエネルギー供給は少なくなります。なので、全力スプリントのようなパフォーマンスには弱くなります。
ですが、筋肉量が一般的に少ないためにクレアチンリン酸の元々の貯蓄量も少ないので、全力のスプリントの持続時間は無酸素性が得意な選手とあまり変わりません。
なんですが、その後に解糖系にメインのエネルギー供給が移ってもパフォーマンスの低下が少ないので長い時間を全力で走れるように感じられがちです。
- 試合中でもクレアチンリン酸の回復は出来ている
- クレアチンリン酸の回復には有酸素性の能力が関係している。
- そのため、有酸素性の得意な選手はクレアチンリン酸の回復が早く、スプリントをより繰り返すことが出来る。
つまり、後半でも10mはスプリントできるのはクレアチンリン酸のおかげ
もうお気づきかもしれませんが、後半の疲労が溜まった状態でも10m程度のスプリントならできるのは、このクレアチンリン酸の早い回復速度のおかげです。
回復のために使える酸素がある限りは、クレアチンリン酸の回復は基本的に問題なく起こります。つまり、試合の後半に差し掛かると回復速度は幾分か遅くなりますが、回復しなくなることはありません。
そのおかげで、スプリントの頻度は落ちるものの、試合の後半になっても10m程度であれば、ほぼ全力に近いパフォーマンスを保つことが出来ます。
一方で、主な試合後半のパフォーマンスの低下は「筋グリコーゲンの枯渇」によるものです。
例えば、サッカーの試合を1試合行うと筋中のグリコーゲンは、ほぼゼロ近くまで枯渇します。一度枯渇した筋グリコーゲンの回復には、1~3日程度が必要になるため、試合中の間の回復はほとんど望めません。
なので、試合の前半では、解糖系のエネルギー供給が十分にあって100mでも十分に走ることが出来ますが、
試合後半になってグリコーゲンが枯渇すると、解糖系のエネルギー供給がストップしていまい、少し走ってクレアチンリン酸の枯渇が起きると走れなくなってしまう。というわけです。
- クレアチンリン酸の回復速度のおかげで、試合の後半でも数秒間のダッシュが可能になる。
- 一方、グリコーゲンは試合の後半で大きく枯渇し、回復に1~3日かかる。
- なので、10秒以上トップスピードで走るのは後半では難しい。
まとめ
- クレアチンリン酸は、瞬発的な運動をすると急速にATPを作り出し、10秒程度ですぐ枯渇する。
- しかし、1分で約75%を回復させることが出来るため、試合中であっても何度も回復し、数秒の全力運動の繰り返しを試合の後半でも可能にしている。
- 一方で、グリコーゲンは試合の後半になるにつれて枯渇し、10秒以上の全力運動の持続力は明らかに低下する。